8話 婚約は白紙になった?
「それでみんな納得してくれたの?」
父親が話し終えて、お茶を飲むのを見ながら、桜子は聞いた。
「桜ちゃんにご執心な王太子様も、それで納得?」と、薫子も不可解そうな顔をしている。
「だから、王子を預かるって言っただろ。
お互いに小さい頃に会っただけなんだから、まずは会ってみなけりゃわからない。
再会して恋に落ちるようなら、国が安定した頃に婚約すればいいって言ったら、あっちも納得した」
「……ちょっと待って」と、桜子は手を挙げてさえぎった。
「向こうは婚約をあきらめたわけじゃないの?」
「それは恋愛の話で、ビジネスとは関係ないからな。
おまえがイヤなら、相手が納得するようにちゃんと振ってやればいい」
「振っていいの? 会社に迷惑かからない?」
「かからないように、契約事項を変えてもらったんだろうが。つまり、おまえが誰と結婚しようと、うちはラステニアと取引できるというわけ」
「お父さん……。すごい頑張ってくれたんだね。
信じていてよかった。ありがとう。
あたし、やっと安心して圭介に会えるよ」
桜子は久しぶりに心から笑顔になれた気がした。
「どういたしまして」と、父親も目を細めて、満足そうな顔をしている。
「よかったあ。やっぱりお父さん、やる時はやるんだねー」
薫子が顔を輝かせると、彬がシラっとした目を向けた。
「……疑っていたよな? 万が一の時に備えてあれこれ調べまくって」
「まあまあ」と、二人の間に入ったのは、桜子ではなく父親の方だった。
「薫子が頑張ったおかげで、もう一つの厄介な件も片付いたんだから」
「あの情報、使えたの?」
薫子は目をキランと光らせて、父親の方に身を乗り出す。
「せっかくだから、利用させてもらったよ」
「どう使ったの?」
「今度余計な横やりを入れたら情報を公表するって、さりげなくあちら側にクギを刺しておいた」
「それ、脅しって言わない?」
「子供のお遊びにここまで振り回されて、このおれが1週間も寝ずに働いたんだぞ。
ちょっとくらいご褒美をもらってもいいじゃないかー」
「脅しどころか、強請ったんじゃない。それで、もうかったの?」
「うちが完全有利に業務提携拡大。しょぼい経営してたら、将来はうちの傘下になるかもなー」
うひ、と父親は笑う。
「ねえねえ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけどー」と、桜子は間に入った。
「あたし、話が全然見えてないよ。薫子の渡した情報って何?」
「神泉妃那の企み。先手打って計画をつぶしたかったんだけど、事は起こっちゃって、情報にしかならなかったの。
でも、お父さんがうまく使ってくれたみたい」
「妃那さん、この件に乗じて、あたしと圭介を別れさせようとしていたの?」
桜子の問いに残りの三人が顔を見合わせる。
「まあ、そういうこと。表に出たらマズいことをいろいろ画策していたから、それを神泉側に突き付けてやったんだ」
そう説明してくれたのは父親だった。
「それで、妃那さんも納得したの? もう圭介と婚約するとか言わない?」
「それは本人の気持ちだから、どうすることもできないよ。
ただ神泉の家として、圭介くんの気持ちを無視して婚約を強行しないということは約束してくれた」
「ほんと? じゃあ、これからは普通に付き合っていいってこと?」
「それはかまわないだろうけど。ただ、それでも圭介くんは神泉として婿にほしい人材だから、なかなか手放してはくれないと思うよ」
「桜ちゃんなら大丈夫だよ。あんなライバルに負けたりしないもん!」
「うん!」と、桜子は薫子のエールに満面の笑顔で答えた。
桜子の婚約はめでたく回避ということで、次話はさっそく週末デートの約束?




