5話 深夜間近に誰が来た?
圭介視点です。
結局、今週桜子は1度も学校に来なかった。
直接会うことはかなわなかったが、圭介は毎日桜子に電話していて、近況を聞いている。
とはいえ、何らかの進展があった様子はなく、父親である音弥もかれこれ1週間以上帰って来ないという。
テレビやネットでも今後の藍田グループの方針について報道されていた。
コメンテーターがああでもないこうでもないと勝手な憶測を並べて意見を戦わせているものの、はっきりとした動きがあるようには見えない。
ラステニアは相変わらず内戦が続き、空爆の様子や無残な街の姿が連日テレビに映し出されている。
その過激さから、民主制を求める議会派の方が非難を浴び、王政派を支援する国が多かった。
藍田グループを除く各国の企業からはすでに王政派に資金提供がされていたが、王政派は迎撃することなく防御に回り、民間人を避難させたりと、国のために動いている。
家庭教師が全員帰った後、圭介はソファに座ってテレビのニュースを観ていた。
寝る前に観るにはあまりいい内容ではないが、圭介にとっては他人事ではないので内戦についての報道は見逃せない。
その隣で妃那も圭介に寄り掛かって、テレビというよりスマホを見ている。
最近、家庭教師が来ていても妃那は平気で部屋に入ってきて、邪魔をするわけではないが、ソファに座っている。
葵がいる時もそうしていたと言っていたので、習慣付いているのだろう。
圭介は好きなようにさせていた。
「圭介、週末も桜子とは会わないの?」
「今の状況だと外に出るのはまだ無理そうだって」
「じゃあ、わたしと久しぶりにデートして」
「おまえと? どこか行きたいところでもあるのか?」
「遊園地。デートの定番なのでしょう? 圭介と行きたいわ」
「遊園地かあ。大勢で行った方が楽しいと思うけど」
「それではデートにならないでしょう?」
(こいつと出かけても、そもそもデートにならないんだけどな……。子供のおもりしてるだけで)
「おまえが行ってみたいっていうなら、別にいいけど。変な予定表は作るなよ」
「効率よく回るには、計画を立てた方がいいでしょう?」
「そういうのは行き当たりばったりの方が楽しいんだよ。その時の気分ってものもあるし」
「そうなの? それなら貸し切りにしてもらう?」
「変なところに金を使うのはやめてくれ……。
ほら、人気のアトラクションとかだったら、長い時間並ぶからこそ、価値があるものだったりするんだよ。
それに今回行けなかったところは、また次の機会に来ようとか思ったりできるわけだし」
「1回きりのデートで全部終わらせてしまうより、2回のデートで楽しめるということね。わかったわ」
妃那のこういうところは本当に従順でかわいいと思う。
兄弟がいなかった圭介からすると、こんな妹ならどこまでも甘やかして、かわいがってやりたいと思う。
(ほんと、結婚がどうとか入り込んでこなければ、おれも素直にかわいがってやれるのに)
「明日出かけるんなら、早く寝た方がいいだろ。おれもシャワー浴びて寝るから」
ほらほらと妃那を部屋から追い出そうとすると、部屋のドアがノックされた。
普段だったら、こんな夜遅くに雪乃も藤原も訪ねてきたりしない。
母親なら返事を待たずにドアを開けているはず。
それが、「どうぞ」と言うまで開けられなかった。
開いたドアからのぞいた姿に、圭介は目を疑った。
いるはずのない人物がそこに立っていたのだ。
「夜分遅くに悪いね。あいさつだけでもと思って」
すらりとした高身長に、かすかに疲労を目元ににじませているものの、歳を感じさせない端正な顔立ち。
均整の取れた身体をチャコールグレーのスーツで包む男性は、まぎれもなく藍田音弥だった。
次話、夜遅くに訪ねて来た音弥の用事とは?




