16話 もしかして、理想の相手なのかも
休み時間のたびに彬の周りを女子が囲んでくるのはいつものことだ。
いつのまにか土曜日の大会で優勝したこともみんな知っていて、ちやほやとほめそやしてくる。
そんな女子たちにやさしい笑顔を向けて、気安く話の相手をするのもいつものこと。
それは藍田家の息子として当然といえば当然で、中学に入った時から変わることはない。
学年が上になるにつれて、下級生も寄ってくるから、年々人数は増えているが。
本当はめんどくさいなと思いながらも、こんな生活を続けてきたのは、杜村貴頼より優位にいるため。
しかし、貴頼と桜子の関係が絶交という形で断絶した今、正直なところ、あまり意味のない行為となっている。
(僕もカノジョの一人でも作った方がいいのかな……)
桜子への想いは変わることはないが、形だけのカノジョでも性欲くらいは発散できる。
ようやく同年代の男子がカノジョを欲しがる理由が分かったような気がする。
昨日、久しぶりに心穏やかに桜子と楽しい1日を過ごせたと思ったのに、今朝はいつもと変わりがなかった。
たった1日で聖人効果がなくなってしまうこの思春期の健康体が恨めしい。
今まで誰かと付き合おうなどと思わなかったから、囲んでくる女子の顔など気にも留めていなかったが、改めて見てみた。
(やっぱり抱くならスタイル重視だよな。胸は大きい方が触り心地いいし。
性格は従順でさっぱりしてる方が、別れる時もあとくされなくてよさそう。粘着質でストーカーみたいになっても面倒だし)
とはいえ、細かい性格などはそれなりに踏み込んで相手を知らなければわかるはずもない。
(けど、その相手が失敗だって思ったら、別れるのって簡単なの?
しかも、1回やっちゃった後で、責任取れって言われてしぶとく付きまとってきたりして、別れるに別れられなくなるとか)
女子たちの顔に『玉の輿』と書いてある以上、その可能性はかなり高い。
迂闊に手を出したら、一生に響く。
結局のところ、身体目当てに好きでもない相手と付き合おうとすること自体が間違っているという結論に達する。
(あの人に不満があるわけじゃないもんな……)
互いの目的は性欲発散のみ。都合のいい時にホテルで会うだけの関係だ。
加えて目の前の女子たちに比べて格段に美人でスタイルもいい。
性格は変だと思うが、粘着質なわけでもない。
相手は人間離れして頭がいいから、変に背伸びをしてカッコつけてもバカを見るだけ。
愛想笑いをしなくても彬の性格などお見通しで、自分を飾らなくていい。
いろいろ初めてのことでテンパっていたが、改めて考えてみると、妃那は理想的な相手だ。
(そういや、毎日でもいいとか言ってたっけ)
次の土曜日に会う約束をしているが、今日いきなり呼び出しても来るのか。
平日は習い事が入っていると断ったが、いったん家に帰って夕食の後だから、実は学校が終わってしばらく空いた時間はある。
いつもは宿題や試験勉強にあてているが、そうでなければ友達と遊びに行ったりしている時間。
『今日の放課後、空いてる?』と、とりあえずメッセージを送ってみた。
返事はすぐに来て、『学校が終わったら、ここで待っていて』となっていて、学校の近くの地図も一緒に送られてきた。
どうやら駅まで歩かなくても迎えに来てくれるらしい。
いつもの帰り道から少し外れたところにある公園で、他の生徒に見られる心配もない場所だ。
(……ほんとに、いつでもいいの?)
そんなことを思いながらも『了解』と返しておいた。
(宿題は休み時間に片付けておこう)
今日もすっきりさっぱりできるのかと思うと、彬はご機嫌だった。
次話はPart2【成長見守る編】の最終話。
久しぶりの桜子視点で、次パートのプロローグ的な話になります。




