15話 煩悩退散、実はいい案だった?
彬視点です。
その夜、彬は自己嫌悪で眠れないかと思ったが、久しぶりに朝寝坊をするほどぐっすりと寝られた。
1日試合をした肉体疲労もさることながら、数えるのもムダなほど性欲を発散したおかげか。
思春期に入って初めてといっていいほど、身も心も完全にすっきり、爽快な目覚めとなった。
そのせいか、桜子と顔を合わせても、久しぶりに子供の頃に戻ったかのような笑顔を向けられた。
結局、昨夜は単に疲れていたせいで、くよくよ考えすぎていただけらしい。
そもそもいい弟を演じるにしても、いつも頭の片隅に煩悩が渦巻いていて、そんな卑しい感情を桜子に向けるのが心苦しかった。
その煩悩がすっかり抜け落ちると、心も同時に軽くなった。
妃那が圭介に嫌われないようにと打ち出した案は、どうやら彬にも利点があったようだ。
(ま、定期的に性欲発散してる方が、結局のところ楽になれるってことか)
妙に納得ができて、妃那との関係も前向きに考えられるようになっていた。
桜子はというと、キッチンで料理をしていた。
「何作ってるの?」
「カップケーキ。午後にひまわり園に行くから、おやつを作ってるの」
ひまわり園は家から1番近い児童養護施設で、兄弟そろって小さい頃から休みの日に遊びに行く場所になっていた。
桜子が茜と出会ったのもそこだし、彬も一緒に剣道をやる幼なじみが何人か生活している。
「今日は天気もよさそうだし、外で遊べそうだね」
「でしょ? 先に味見する?」
「後でさせてもらう。僕、朝食まだだし」
冷蔵庫から牛乳を出して、シリアルを用意していると、桜子に顔を覗き込まれた。
「元気そうでよかった。昨夜は疲れた顔していたから、ちょっと心配してたんだよ」
「すっかり元気回復。心配かけてごめん」
「彬もこれから出かけるの?」
「ううん。今日は予定入れてないけど」
「ヒマなら一緒にひまわり園に行く?」
「久しぶりにいいかも。今日は圭介さんと会わないの?」
「圭介、今日は1日勉強だって。まあ、昨日は一緒にいられたから、今日はガマンの日」
「そっか。じゃあ、今日は僕とデートだね」
「そういうわけで、カレシ代理よろしく」
冗談めかしく笑う桜子に彬も心からの笑顔を返した。
次話は週明けの話。
彬の話が続きます。




