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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第4章-2 ロミジュリ展開、お断りします。~成長見守る編~

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9話 今日だけは普通の高校生カップルみたいに

「なんでまた執事喫茶? 家に本物がいるだろ?」


 まさかイケメンでも観に行くのかと思ったのだが、桜子の目当ては全然違っていた。


「抹茶味のタピオカミルク出してるんだって。パンフレット見た時から、飲んでみたかったんだー」


「あ、そういうことな……」


 抹茶味に目がない桜子らしい理由だった。


 そんなことを話しながら店内に入ると、赤いギンガムチェックのテーブルクロスで統一された店内は明るく、お化け屋敷の暗い中から出てきたばっかりの目にはまぶしかった。


 窓際の席に案内されて、メニューを見る。


「あたしは抹茶ミルクで。圭介は何にする?」


 何にしようかと悩んでいると、不意に声をかけられた。


「おう、瀬名。来てたのか?」


 顔を上げると中学の時の同級生、八木(やぎ)がタキシード姿で立っていた。

 七三分けの頭はジェルでテラテラと光り、チョビ髭までつけている。


 圭介のよく知っている八木の姿からは想像できず、ぶっと吹いてしまった。


「なに、おまえ、執事やってんの? 超似合ってねえ!」


「うるせー! 仕方ないだろ。うちのクラス、イケメンいないのに執事喫茶なんかやることになってさー。もう笑い取るしかねえんだよ!」


「いや、すごいすごい。笑い取れてる。てか、執事やんないの? おれ、客なんだけど」


「やーだね。その前に誰、この超絶美少女は?」


「ああ、おれのカノジョで桜子。桜子、こいつがさっき話していた八木」


「初めまして」と、桜子が笑顔を向ける。


「カノジョって……あのカノジョ? マジで?」と、八木の方は呆けた顔だ。


「て、言ってるけど」


「青蘭なのか?」


「そうだけど」


「おまえ、結局抜け駆けしてるじゃねえか! 貧乏人はお嬢様になんて相手にされないとか言って、ちゃっかりカノジョとかありえねえ! てか、ここまで美人はサギだろ!?」


「サギって」


 こういう反応をみたかったんだと、圭介は内心ほくそ笑んでしまう。


(なにせ、自慢したくなるカノジョなんだもんなー)


「ちょっと前までおれら、『モテない君同盟』を組んでいたよな? 淋しい青春はサッカーで費やそうって約束していたよな?」


「モテない君同盟って……」と、桜子はぷぷぷっと笑っている。


「こいつが勝手に言ってるだけだからな。そんなものは存在しないぞ」


「それが高校デビュー? ありえねえ。何をどうしたら、こんなカノジョができるんだ? カノジョさん、こいつにダマされてません? 早まったことしない方がいいですよ」


 八木が真顔で桜子に訴えかける。


「おーい、失礼なこと言うなよ」という圭介の言葉は、聞こえていないらしい。


「箱入りお嬢様は男の免疫がないから、口説けばイチコロ。既成事実作って逆玉乗って、将来は社長の座を狙ってるような男なんですよ?」


「それを言ったのはおまえだろーが! おれはそんなうまい話はないって言った!」


 八木と言い争っている間、桜子はうつむいて肩を震わせていたが、やがてはじけたように笑い出した。


「ご、ごめん。圭介の友達って、想像していた人とあまりに違っていたから……」


「どんな奴を想像していたんだ?」


「もっと寡黙(かもく)で真面目そうな人、かな」


 桜子が笑い涙を指ですくいながら言うと、八木が勝ち誇ったように胸を張った。


「ほらやっぱり、おまえ、カノジョの前で猫かぶってるんだろ? おまえのこと、誤解してるじゃないか」


「猫かぶってねえ。大人になったっていうんだ」


「ちょっと前までバカやってた奴が大人とか言うか? 笑っちゃうぜ」


「ああ、八木君、誤解しないでね。圭介、青蘭では仲のいい男友達っていないから、普段から男の子と話したりするイメージがなかったんだ。

 だから、ちょっと安心しちゃった。圭介も楽しそうに男の子とバカ話したりするんだなーって」


 桜子が朗らかに言うと、八木はグスンと泣くフリをした。


「美人のお嬢様の上に性格までいいって、ズルいじゃないか」


「神様に感謝だなー」


「うらやましい奴め」と、八木は言葉通り恨めしそうな目で見つめてくる。


「おっと、そういや聞いてなかったけど、注文は何にする?」


「そうだ。あたし、のど乾いてたんだった……。抹茶ミルクタピオカで」


「おれはミルクティで」


「了解しましたー! 超特急で!」と、八木は去っていった。


()()はどこへ行ったんやら……」


 圭介はあきれたため息が出た。


「でも、楽しそうでいいね。部活やったり、文化祭を催したり。

 この高校に来ていたら、普通に楽しい学生生活を送っていたんだなあって、今さらながら思うよ」


 桜子は頬杖をついて、うらやましそうに目を細めた。


「それはおれも同じだよ」


「ここにいると、いろんな問題があることも忘れちゃいそう」


「いいんじゃないか? 忘れていられるならそれで。考えなくちゃいけない時に考えればいいことだし」


「じゃあ、今日は普通の高校生カップルということで、家のこととか将来のこととか、全部忘れて今を楽しもう」


「なに、バカやりたいのか?」


「もう! 圭介、今日は生き生きしすぎー!」と、桜子は再び笑い出す。


「もしかして、幻滅した? けっこうバカなことやってたって、知らなかっただろ?」


「そんなことないよ。圭介の普通の顔が見られてうれしい。ちゃんと年相応の男の子だったんだってわかって、よかった」


「そうなのか?」


「ほんとはね、ちょっと心配してたんだ。

 圭介、うちの家のことがあるせいか、なんだかんだで頑張ってるじゃない? ちょっと背伸びして、時々立派過ぎることを言ったりするし。だから、無理して疲れたりしないのかなって」


「うーん、おれ、基本的に情けない奴だから、無理しないとネガティブになってすぐに落ち込んだりするからな。それくらいでちょうどいいんだ」


「そうなの? 情けないなんて思ったことないけど」


「実はそうなんだよ」と、圭介は笑った。


「まあ、でも、おまえと付き合うようになって、将来の方向性も決まって、今はずいぶん前向きになってるから、無理しても疲れることはないな」


「ほんと?」


「ほんと」


「なら、よかった」と、桜子がほっとしたように微笑むのを見て、圭介も自然に笑っていた。


(まだまだ『大丈夫』って、胸張れる自信まではないけど。これからだよな?)

夏休み中の同窓会に出てきた八木君、再登場となりました。(第2章-2 8話)


次話、圭介たちが文化祭デートで楽しんでいる間、妃那は何をしているのか?

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