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第4章-1 ロミジュリ展開、お断りします。~子育て編~

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19話 終わり良ければすべて良し

「圭介、大丈夫!?」


 桜子の声が聞こえて、圭介は腹ばいのままノロノロと顔を上げた。


「桜子、まだいたのか……」


 てっきりこの場を去っていってしまったのかと思っていた。


「ごめん、圭介。まさか、圭介だと思わなくて、反射的によけちゃった」


「反射的にって……。この状況で、おれ以外に誰が追いかけてくるんだよ?」


「変な人はいっぱいいるし。後ろから襲われる気配がしたら、普通によけるよ」


「これからおまえのことは、走って追いかけないことにする……」


「ごめん。怒ってる?」


 よいしょ、と腕を引っ張られて圭介は地面に座り直した。


 桜子はその目の前にしゃがんで、不安そうに圭介の顔をのぞき込んでくる。


「別に怒っちゃいねえけど……。てか、怒ってたの、おまえの方じゃねえ? こんな別れ方がイヤだから追ってきたんだけど」


「怒ってたっていうか……単に恥ずかしかったから、圭介と顔が合わせられなくて……」


 桜子はうっすらと赤い顔で目を泳がせている。


「恥ずかしいって何が?」


「だから、それはもういいの! それより、圭介、どっか痛いとこある? 歩ける?」


「平気。手、すりむいただけ」


 いつまでも座り込んでいるわけにもいかないので、圭介はゆっくりと立ち上がり、カバンを拾い上げて砂ボコリを払った。


「血が出てるね。早く傷口、洗わなくちゃ」

「駅のトイレ、寄ってく」


 駅に向かって一緒に歩き始めたが、それきり桜子は黙ってしまい、どうにも気まずい空気が流れている。


(やっぱ怒ってんのか……?)


 圭介は自分の言動を思い返してみたが、原因が思い当たらない。


 そうこうしているうちにトイレに寄りながら駅のホームに到着。

 すぐにやって来た電車に乗ることになってしまった。


「ええと、やっぱ遅いし、家まで送ろうか?」


 あっという間に次が桜子の降りる駅になってしまい、圭介は一応聞いてみた。


「心配しなくても大丈夫。それより、帰ったらちゃんと連絡してね」


「それは必ず――」


「じゃあ」と、乗車口をくぐる桜子を追って、「やっぱ、待って」と圭介も思わず降りてしまった。


 改札口に向かう乗客の中、桜子だけが立ち止まって振り返った。


「どうしたの?」と、目を丸くしている。


「いや、ええと……キスしてもいいか?」


(おれは何を言ってんだ!?)


 このまま別れるのはどうしようもなく不安で、何か関係修復の糸口がほしかっただけだ――が、とっさに口から出てきたのはそれだった。


(だって、デートの締めくくりにチュウって憧れるだろうが!)


 妄想しすぎていたとはいえ、よりにもよってこの状況でキスとは、突拍子(とっぴょうし)がなさすぎた。

 恥ずかしくて顔から火を噴きそうになる。


 桜子はというと、案の定、ポカンとした顔をし、それからぷっと笑った。

 しかも、それで収まらなかったのか、腹まで抱えて笑い続けている。


「悪い、変なこと言って。けど、そこまで笑うか?」


「ごめん、ごめん。そういえば、あたしたちって、ちゃんとキスしたこともなかったんだなあって思って」


「確かに。キスってより歯がぶつかっただけの1回。しかも無効になってるし」


「そうだね。ちゃんとここから始めないとね」


 桜子は目を閉じると、きれいに微笑んで唇を寄せてきた。


 圭介も吸い込まれるように顔を近づけて、ごく自然に唇が重なった。


 甘く、やわらかな唇の感触がはっきりと脳で認識できるまで、充分な時間がある。


 駅に鳴り響く発車ベルの音も、走り去る電車の音も、どこか遠くの世界から聞こえてくるようだ。


 唇が離れて改めて桜子の顔が目に入った時、胸に占めるのは幸福感だけだった。

 と同時に恥ずかしさと照れがごちゃ混ぜになって、変な笑いが込み上げてきてしまう。


「もう、なんで笑うのー!?」と、桜子がうっすらと赤い顔で目を吊り上げる。


「なんか、幸せ過ぎて――」


 笑いながら答えると、桜子もつられたように笑い出していた。


 数分後、圭介が入線した次の電車に乗ると、桜子が窓越しに手を振って見送ってくれる。

 今度は最高の笑顔で、初デートを締めくくってくれた。

デート中、桜子が謎の行動をとっていた理由は?

次話で明らかになります。

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