17話 初カノと初デート、デレデレ中
圭介視点です。
電車で渋谷に出た圭介は桜子とともに街をぶらぶら歩き見てから、公園を散歩。
缶コーヒーを買ってベンチで休憩しているところだ。
特に何をしたというのはないのだが、桜子と手をつないで話をしながら歩くだけで楽しい。
というより、デレデレしすぎて、変な顔にならないようにするのが大変だ。
『友達』として隣を歩く時にはあまり気にしたこともなかったが、すれ違いに桜子を振り返る男は多い。
そんな男どもを見ると、『どうだ、うらやましいだろう!』と言いたくなってしまう。
最高の気分だ。
(ここまで頑張ったかいがあったよなー)
改めて考えると、何をどう頑張ったのか、よくわからなかったが。
ともかく、人生初めてのカノジョと初デートまでたどり着いたのだ。
圭介が周りの視線を気持ちよく浴びている一方、桜子はというと、隣でスマホを見ている。
夕食に行くレストランを探しているところだ。
『あんまり高くなくて、おしゃれで、初デート記念になりそうなところ』がいいらしい。
「圭介は何が食べたい?」
「おれは何でもいいけど。桜子の行きたいところで」
「うーん、悩むなあ。ここの窯焼きピザがおいしいっていうんだけど、ちょっと高いんだよね。
じゃなかったら、こっちのパスタやさん。お店がおしゃれで、1回行ってみたいと思ってたんだけど。
ランチだったら安く済むのに、やっぱ、夜は割高だよねー」
ピザ屋だと一人2000円を超えるのに比べ、パスタ屋なら1500円もあれば間に合う。
予算はそれくらいらしい。
現在、圭介の財布の中には、昨日妃那と出かけた時の現金が充分に残っているし、カードもいくらでも使える。
今までは『友達』ということで、一緒に出かけても当たり前のようにワリカンだったのだが、今日はデート。
カノジョにおごるのが普通かと思ったのだが、桜子には缶コーヒーすら断られた。
「高校生だから、お互いのおこずかいの範囲で遊ぼう」と。
改めて藍田家の教育方針がよくわかる発言だった。
(どっかの金持ちの家とは違う……)
「そこ、そんなに値段は変わらないみたいだし、せっかくの初デートなんだからピザ屋にしよう。
あんまり家で食べないし、たまには食いたい」
「圭介がそう言うなら、決まりだね。予約してみる。7時くらいでいい?」
「おう」
手早くスマホに予約情報を入力している桜子を眺めながら、残っていたコーヒーをすすった。
「あ、圭介。彬から伝言。妃那さん、無事に送り届けたって」
「よかった。家に帰ったら、代わりに礼言っておいて」
「うん」と、桜子はうなずいてスマホをポケットに突っ込むと、深刻な顔で見つめて来た。
「そういえば圭介、さっき妃那さんの言ってたことで気になってたんだけど」
「なに?」
「あたしと二人っきりで会っているのがおじい様に知れたら、圭介は家に閉じ込められる、みたいなこと言ってなかった?」
「ああ、あれ……」と、圭介も思い出した。
「実はそういう禁止事項みたいなのがあったの?」
「いや、学校に通うことに関して、ジイさんからは何も言われてないよ。
けど、あの家に行った頃、おまえとはすぐに別れろ、みたいなことは言われたっけ」
「同族婚の家で一族の人と結婚しなくちゃいけないから?」
「そういう言い方されれば、おれも理解できたかもしれないけど、ジイさん、変なこと言ってたんだよな。
藍田の女は代々魔性のもの、男を不幸にする星のもとにあるとか。桜子、心当たりあるか?」
「ないよ。『呪い』の次は『魔性のもの』? 冗談やめてよ」
桜子は憤然と口をとがらせた。
「今考えると、『魔性のもの』なんて言い方、変だよな。おまえんちとうち、実は仲が悪いとか?」
「そんなこと聞いたことないけど……家同士で交流があるかって言われれば、ない方かな。
けど、うちに製薬業は入ってないから、業務上は提携していて、ビジネス上は何の問題もないはずだよ」
「現状は問題ないとして、じゃあ、何かあったのは過去? そもそも、おまえを名指しにしたわけじゃなくて、『代々藍田の女』って言い方してたし」
「失礼な。だいたいお父さんもおじい様も、全然不幸になんてなってないよ。
そりゃ、おばあ様が早くに亡くなって、おじい様は淋しそうだったけど、亡くなる時は家族に囲まれて、笑顔で逝ったよ。
その前までさかのぼるとなると、あたしにも把握しきれないから、何とも言いようがないけど。言いがかりもいいところだよ」
「じゃあ、過去にうちともめたことがあったのかな。それが原因で藍田家とは姻戚関係を持たないことになってるとか」
「そういうことなら、お父さんに聞いてみるけど。
妃那さんの件はともかく、あたしたちに関係ない過去の出来事で、付き合いを反対されるのは理不尽でしょ」
「おれも調べてみるよ。ジイさんに聞いたところで、説明してくれそうもないけど。
蔵に神泉家の家系図や記録みたいなのがあるらしいから、見てみる」
「……ねえ、圭介。もしかして、妃那さんとの婚約を回避したとしても、あたしたちの付き合いはまた別問題になるってこと?」
「もしかしたら? けど、まあ、みんなに祝福されるようにってのがおれたちの目標なら、この件もクリアにしておくしかないだろ」
「なんか、せっかく『呪い』が解けたのに、今度は『魔性のもの』って……。
一難去ってまた一難。ついでに妃那さんの件があるから、二難が来ちゃったよ。
しかも、妃那さん、思ってたより厄介そうだし」
桜子は「はああーっ」と、大きく憂鬱そうなため息をついた。
「そう悲観的にならなくても何とかなるだろ」
「そう言う圭介は、ずいぶん楽観的じゃない? 昼間の方が不安そうに見えたけど?」
「心配がないわけじゃないけど、こうして目の前におまえがいると、どんなことも大した事には思えない感じ?
おれにとって、おまえと付き合う方が人生の最大難関だったからな。こうなったからにはそれ以外のことは何とかなりそうな気がする」
「そっか」と、桜子はうれしそうに微笑んだ。
「うん、圭介の言う通りだね。『呪い』の時みたいに、一つ一つ問題を解決していけばいいよね。頑張ろう」
桜子の心からの笑顔は、何度見てもとろりと脳がとろけるような幸せをくれる。
(何が『男を不幸にする星のもとにある』だー!? この笑顔を死ぬまで見られたら、世界で1番幸せな人間になれるじゃねえか!)
次話、まだまだデートは続きます。
 




