表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第4章-1 ロミジュリ展開、お断りします。~子育て編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/320

14話 よくできた弟と妹に感謝

「ち、ちなみに彬は将来の夢とかあるのか?」


 圭介は青くなる顔をごまかすようにニカッと笑って聞いた。


「僕は政治家希望だよ」と、彬は迷う様子もなく答える。


「政治家? なんでまた?」


「もともとは父さんの影響かな。父さんが(こころざし)半ばであきらめたことだったから、僕がその意思を継ぎたいと思ったのが始まり。お祖父さんも政界とのつながりを悲願にしてたし」


「すげえ。てか、親父さん、もともと政治家だったのか? 初めて知ったんだけど」


 圭介の質問には桜子が答えてくれた。


「政治家っていうのは語弊(ごへい)があるけど、お父さんの実家は代々代議士の家系なの。

 お父さんも一応その方向で勉強とかしてたんだけど、学生時代にお母さんと結婚して、お婿に入っちゃったから、実際に政治活動をしたことはないんだよ」


 桜子の言葉にイトコの杜村貴頼を思い出す。

 『代々』ということは、藍田音弥の実家もかなりの資産家に違いない。


(普通にお坊ちゃんだったってことだよな……。おれと違って、ちゃんと上流階級のしきたりみたいなのは、身についてたってことか)


「まあ、そういうわけで、後継者としての心構(こころがま)えとか、ノウハウが知りたかったら、父さんに聞くのが早いと思うよ」と、彬が話をまとめるように言った。


「そうしたいのはやまやまなんだけど、忙しいのを(わずら)わせるのも申し訳ないし……」


(ていうか、今のおれじゃ、恥ずかしくて聞けねえ!)


 圭介がためらいながら言うと、桜子が「遠慮することないよー」と、あっけらかんと笑う。


「お父さん、適当に時間作るの上手なんだから。今週末にでもうちにおいでよ」


「いやあ……」と、圭介が返事に困っていると、今まで黙って歩いていた薫子がふと顔を上げた。


「ダーリンはその前に自由に動けるようにならないとね。現状、神泉家に閉じ込められてるわけでしょ? そっちの問題をうやむやにして、うちの後継者云々(うんぬん)の話にはならないよ」


 痛い一言だが、それが真実だ。


「そうだよな……」と、うなずきつつも、そう簡単に解決できるとは思えなかった。


 そういえば、と妃那のことを思い出して、圭介は後ろを振り返った。

 もう駅に着くというのに、妃那の姿は見えるところにはない。


(やっぱりあのまま人形になってやがるな)


「悪い。おれ、やっぱ迎えに行ってくる。あいつのことだから、何時間でも何日でも動かねえ」


「ダーリンが行くことないよ。せっかく桜ちゃんと久しぶりに会えたんだよ。この間お預けになったデートしてきたら? 妃那さんは彬くんが迎えに行ってくれるから」


「は? なんで、僕? 言い出しっぺの薫子が行けばいいじゃん」と、彬は珍しく不機嫌そうな顔をする。


「えー、彬くん、男の子じゃない。か弱い女の子じゃ、テコでも動かない人ひとり背負って、坂を下れるわけないでしょ?」


「どの口が言う? 薫子、大の大人でも余裕で担げるだろ?」


 彬と薫子の間でケンカが勃発(ぼっぱつ)しそうになるので、圭介は慌てて間に入った。


「二人ともいいよ。おれが行くから。デートはそのうちできると思うし」


「ダーリン、桜ちゃんと一緒にいたくないの? 妃那さんの方が大事なの?」


「そりゃ、桜子と一緒にいられる方がいいに決まってるだろ」


「だよね」と、薫子は彬に向き直って、目をウルウルとさせる。


「彬くん、好き合ってる二人が無理やり引き離されそうなのを見て、放っておける? かわいそうなお姉ちゃんのために、ひと肌脱いであげる、くらいのやさしい弟心はないの?

 あたし、こんな冷たい人がお兄ちゃんだなんて、イヤ!」


「……わかった。行けばいいんだろ」と、彬はあきらめたようにため息をついた。


「その代り、薫子も一緒に来い。僕一人に背負わせる気か?」


「あ、ごめーん! あたし、用事があって、すぐに帰らなくちゃいけなかったんだ。

 彬くん、妃那さんを送って行っても、剣道の時間には間に合うでしょ? じゃあ、お先にー!」


 薫子はそれだけ言い切って、どぴゅーっと駆けて行ってしまった。

「薫子ー!」という彬の呪いの言葉を背後に受けながら――。


「薫子って、相変わらずちゃっかりしてるというか……」と、桜子が困ったようにため息をつく。


「もう慣れてる……」と、彬も遠い目をしていた。


「じゃあ、僕は妃那さんを迎えに行ってくるよ。家までちゃんと送るから、心配しないで。二人は楽しんできて」


「いや、でも……」と、圭介は引き留めようとしたが、彬は笑顔で手を振りながら元来た道を戻って行ってしまった。


「よくできた弟と妹だよな」


 ほとほと感心する圭介に、「うん」と桜子はうれしそうに笑った。

 自慢の弟と妹を褒められると、なにより桜子が喜ぶことは圭介もよく知っている。


「二人がせっかくチャンスを作ってくれたのに、ムダにしたら悪いよな。放課後デート行こっか?」


「もちろん! やっと初デートだね。どこ行く?」


「前に約束した時、どこにするか決めてた?」


「考える前に圭介が行方不明になっちゃったから、それどころじゃなかったよー。

 まあ、夏休み中だったし、1日時間があるなら、プールとか遊園地かなって思ってたけど」


「今からじゃ、時間足りないよな。街プラプラして、夕飯どっかで食べるくらいか」


「いいよ。圭介と一緒なら、どこでも何でもデートになるもん」


 そう言って桜子はキラキラとまぶしい笑顔で手を差し出してくる。

 その手を取って、圭介も自然に顔が崩れていた。


 桜子の言う通り、こうして歩けるだけで今は充分。

 何度も放課後を一緒に過ごすことはあったが、あの頃には決してできなかったことが可能になったのだ。


 今はそこら中に山積みになっている問題は束の間忘れて、桜子と一緒にいるこの時間を楽しみたいと思った。

次話は、妃那を迎えに行った彬の話になります。

すでにモブと化していた(?)彬ですが、今更ながら何を考えていたのかご紹介です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 次回はデートではないのかっ 楽しみに待ちましゅ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ