表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第4章-1 ロミジュリ展開、お断りします。~子育て編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/320

12話 誰の『ダーリン』?

「圭介、一緒に帰ろう」


 6時限目の授業が終わり、桜子がカバンを手に圭介のところまでやってくる。


「おう」と返事をしようとする圭介をさえぎって、妃那が間に割って入った。


「残念だけれど、圭介はわたしと一緒に帰るの。車が迎えに来ているわ」


 圭介にとって、今日は家から解放されてようやく自由を満喫(まんきつ)できた一日だった。

 放課後の時間も、せっかくなら少しでも長く桜子と過ごす時間がほしい。


「妃那、おまえは車で帰れ。おれ、ずっと電車通学だったから、桜子と帰るよ」


「いやよ。一人にしないでと言ったでしょう?」と、妃那は怒ったように目を吊り上げる。


「だから、車までは送って行ってやるから。乗っちまえば知ってる運転手だし、家に帰れば、おれがそばにいなくても大丈夫だろ」


「だからって、桜子と二人きりになんてさせるわけにはいかないわ。おじい様が知ったら、圭介、2度と学校に来させてもらえないわよ」


「んなこと、わかってるよ。だいたい一緒に帰るって言っても、薫子や彬も一緒なんだから、二人っきりってわけじゃねえし。

 学校来るからには、おれにだって人付き合いってもんがあるんだよ。それくらいジイさんだってわかって学校に出してるはずだろ」


 妃那は納得がいかないといったようにぷうっと膨れたが、ややあって顔を上げた。


「そういうことなら、わたしも一緒に電車で帰る。わたし、電車に乗ったことないから、乗ってみたいわ」


「……それはやめとけ。下り坂とはいえ、駅まで15分は歩くんだぞ。慣れない外に1日中出てて、おまえ、相当疲れてるだろ。

 電車はまた今度乗りにつれていってやるから。またぶっ倒れられたら、こっちが困る」


「大丈夫よ。さあ、帰りましょう。桜子も」と、妃那は圭介の話を聞いていない。


 妃那の譲歩(じょうほ)に桜子もイヤとは言えなかったのか、「いいわ」とうなずいて一緒に教室を出ることになった。




 昇降口を出ると、教室でモタモタしていた圭介たちとは違って、薫子と彬がそこで待っていた。


「圭介さん、両手に花だねー」と、彬が感心したように言う。


 それが嫌味でも何でもなく、素直に言っているから、圭介も苦笑するしかない。


「おれには分不相応(ぶんふそうおう)だよ……」


「で、こっちがウワサのイトコさん? 初日早々姉さんとバトってたって、中等部まで聞こえてきたよ」


「マジで……? 妃那、こっちが桜子の弟の彬」


 妃那が『誰かしら?』といった顔で彬を眺めていたので、紹介してやった。


「見ればわかるわ。薫子とそっくりだもの」


「あ、そう……だよな」


 妃那は束の間彬をじいっと見つめていたが、やがて興味を失ったようにふいっと顔をそらした。

 そして、圭介の腕を取って「帰りましょう」と促す。


「いくら桜ちゃんの同級生だからって、今日初めて会った人に呼び捨てされると、ムカつくんですけどー」と、薫子はかわいらしい仕草で口をとがらせる。


「すまん。こいつ、ほんと、人付き合いとか慣れてなくて。代わりに謝っておく」


「別にダーリンに謝ってほしいわけじゃないもーん」


「圭介、わたしもこの子、ムカつくわ。人の婚約者を捕まえて、何が『ダーリン』よ。

 社会性を学んだ方がいいのはこの子の方ではないの?」


 妃那も負けず劣らず言い返すから、二人の間に火花が散る。


「慣れてるんだから、別にいいじゃない。『桜ちゃんのダーリン』なんだから、はしょって『ダーリン』って呼んだって」


 桜子が顔をほんのりと染めて、間に入ろうとするのを見て、圭介は初めて気づいた。


 薫子とニセの付き合いを始めてしばらくして、薫子は圭介のことを『ダーリン』と呼ぶようになった。

 ウソがそれらしく見えるように、わざと言っていると思っていたが、頭に『桜ちゃんの』がつくと、意味が全然違う。


 桜子の気持ちの変化を薫子が知らないわけがない。

 つまり、桜子が圭介を男として意識し始めたのが、その頃ということだ。


(ちくしょー。薫子の奴、完全におちょくってたな!)


 圭介がさんざん片思いに悩んでいるのを知っていながら、桜子の気持ちなどおくびにも出さず、高みの見物をしていたということだ。


「ほら、せっかくみんなで帰るんだから、仲良く帰ろうね」


 1番妃那とぶつかりそうな桜子さえも、不毛な子供のケンカは見かねたらしい。

 空気を変えるようにふんわり笑顔で言った。




 校舎前のロータリーに停まっていた神泉家の車の運転手には電車で帰ることを伝え、駅に向かう坂道を5人で歩き始めた。


 ――が、5分も歩いていないというのに、妃那が疲れたと言い出した。


「圭介、抱っこして」


「おい、冗談だろ。大丈夫って言ったんだから、自分の言葉に責任持てよ」


「もう無理。1歩も歩けないわ」


 そう言って、妃那はその場に座り込んだ。


「仕方ない奴だな」


 圭介があきらめて妃那のところへ行こうとすると、桜子に止められた。


「圭介、相手にしなくていいよ。どんな子供だって、甘やかしすぎたら、ただのわがままな子にしかならないんだから。圭介が今のままだと、妃那さんは変われないよ」


「……そうかな」


「そうだよ、ダーリン。そのうちあきらめて追いかけてくるから、先に行こう」


 薫子にもそう言われて、圭介は道端に座り込んでいる妃那に後ろ髪を引かれながらも、とりあえず放っておくことにした。


(まあ、少しは荒療治(あらりょうじ)も必要かもな)


 妃那が追いかけてくることを願いながら、いつもの4人で駅までの道を歩き出した。

次話、妃那がどうなったのかはとりあえず置いておいて、四人での話が盛り上がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ