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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第4章-1 ロミジュリ展開、お断りします。~子育て編~

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10話 さっきまでの余裕はどこに行った?

 圭介が桜子と一緒に教室に戻ると、妃那は自分の席に座っていた。

 薫子がその前の席に座って、妃那をじっと眺めている。


(……思った通り、人形になってやがる)


「あ、ダーリン。この人、どうしちゃったの? さっきからずっと動かなくて、瞬きもしないの」


 薫子が不思議そうな顔で圭介を見上げる。


「……ああ、うん、こういう奴なんだ。おい、妃那。戻ったぞ」


 圭介がポンポンと妃那の頭を叩くと、彼女はパチパチと瞬きし、突然動いたかと思うと抱きついてきた。


「一人にしないでと、何度言ったらわかるの!? 圭介のバカ!」


「わかってるけど、いつまでもそういうわけにはいかないだろ。この校内にはいるんだし、少しずつ慣れていけよ」


 圭介はしがみついている妃那をあやすように頭をなでてやった。


 ふと気づくと、桜子が貼り付けたような笑顔で、かすかにこめかみを引きつらせていた。


「圭介、ずいぶん慣れたように妃那さんを抱きしめるんだね」


(おい、桜子、さっきの余裕はどこに行った!?)


 桜子は妃那の襟首(えりくび)をむんずとつかむと、無理やり圭介から引きはがした。


「初めまして、神泉妃那さん。圭介のカノジョの藍田桜子です。よろしく」


 妃那は無表情に桜子の頭の上から足まで、ずいぶん長いこと時間をかけて眺めていたが、やがて圭介を振り返った。


「圭介がどうしてこの人と子作りしたいのか、わたしにはさっぱりわからないわ」


「子作りって……」と、顔を赤くする桜子につられて、圭介もまた顔が真っ赤になってしまった。


「妃那、言葉を選べ! おれはそんな下世話な言い方してねえ!」


「でも、異性としての魅力を感じるということは、つまり性的魅力を感じるということでしょう。セックスに対する快楽的衝動は、自分の遺伝子を残したいという動物的本能からくるものよ。

 つまり、圭介はこの人に自分の子を産んでほしいと思っている、ということでしょう?」


 違うとも言い切れない妃那の問いに、圭介は言葉を失ってしまった。


「藍田桜子、思っていたより頭も悪そうだし、胸もわたしよりないわ。どう考えても、わたしの方が女性的魅力があるし、優秀な遺伝子を残せる。

 圭介、落ち着いて考え直した方がいいわ」


 桜子のこめかみにはさらに青筋がくっきりと浮かぶ。

 おまけに妃那が薫子の胸を見て「こっちは論外ね」とつぶやいたものだから、薫子まで「はあー!?」と激ギレ。


「妃那さん」と、桜子は見たこともない恐ろしい笑顔を浮かべた。


「あなたの言葉のレベルに合わせてあげると、圭介が子作りしたい相手はあたしであって、あなたじゃないの。

 つまり、あなたがあたしより魅力的な身体をしていようが、優秀な遺伝子を残せようが、圭介には異性として認識されていないということ。わかる? あなたこそ、論外よ!」


 圭介は「でも――」と、反論しかける妃那をさえぎって、その口をふさいだ。


 クラスメートたちが昼休みを終えて戻ってき始めている。

 そんな中、これ以上女子二人に『子作り』だの『性的魅力』だの、大声で叫び合わせておくわけにはいかなかった。


「妃那、頼むから周りの状況を見て言葉を選んでくれ」


「どういう言葉を選べばいいのかしら?」


 妃那は無理やり圭介の手を取りのけ、じっと顔を見つめてくる。


「どういうって……言葉を選ぶ前に、そもそも公衆の面前で性的話題は避けるものなんだよ」


「わかったわ」


 妃那がいつものようにコクリとうなずくのを見て、ほっとしながら桜子に向き直った。


「桜子もこいつの言ってること、まともに相手しなくていいんだからな。子供と同じだって言っただろ?」


「聞いてはいたけど――」


 桜子は恥ずかしそうに言葉を切った。


 その続きを聞く前に、会話に隙ができたと悟った取り巻きたちが寄ってきて、桜子を質問攻めにし始めた。


「桜子さん、神泉くんとお付き合いしているって本当なの?」

「妹さんと付き合っているって言ってたわよね?」


「うん。夏休みの半ばくらいから。……その、妹には悪いとは思ったんだけど」


 桜子はちらりと薫子を見て口ごもる。

 その顔が『どうして、こんな面倒な状況になってるのよ?』と、言っているようだった。


 そこはさすが薫子というべきか、余裕で話を作る。


「本当はあたしも二人が好き合っているのを知っていたの。でも、あたしはダーリンが好きで、桜ちゃんにどうしても取られたくなくて……。

 ダーリンはやさしいから、『いいよ』って付き合ってくれたんだけど、やっぱり自分の気持ちにウソはつけないからって……。

 つらいけど、二人が幸せそうにしてるならいいかなって。あたし、桜ちゃんもダーリンも好きだから」


 薫子は目を潤ませて、こぼれそうな涙を振り払うように笑顔を浮かべた。


 この迫真の演技に「なんてけなげな子なんだ」と、クラスの男子たちは切ないため息をつき、「いい妹さんをもって、桜子さんは幸せね」と、女子はなぐさめるように薫子の肩を優しくなでている。


(こ、この、ウソつき薫子……!)


 この顔の裏で舌を出しているだろう薫子を想像して、圭介は唖然(あぜん)としていた。


 それは桜子も同様だったのか、複雑そうな顔で遠くを見ていた。

次話もこの場面が続きます。

桜子と妃那のバトルはまだ終わりません……!

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