32話 新たな試練も乗り越えてみせる
圭介の視点です。
圭介が運ばれてきたお茶を飲んでいると、突然、家の中から目覚まし時計のようなけたたましいアラームが聞こえてきた。
「え、おい、何の音だ!?」と、圭介はあわてた。
「防犯センサーに何か引っかかったのよ。ちょっと様子を見に行ってくるわ」
そう言って、圭介の母親は玄関の方へ向かっていった。
それから10分ほど経って、母親はテラスで待っていた圭介の元へ戻ってきた。
「何だったんだ?」
問いかけてみたが、母親は複雑そうな顔でしばらく無言のまま圭介を眺め、それからため息をついて、イスに座った。
「……まあ、黙ってるのもフェアじゃないから、本当のことを言うわよ。桜子さんがあんたに会いに来たのよ」
「桜子が……!?」
桜子がすぐそばにいると思うと、居ても立ってもいられず、駆け出そうと立ち上がった。
――が、ずきりと足に痛みが走り、バランスを崩した。
崩れ落ちそうになる圭介を引きずり止めたのは、母親だった。
「行ってもムダよ。もう帰ったから」
「帰ったって……? 帰したのかよ!? なんで!? おれが桜子に逢いたいこと知ってて、なんで邪魔すんだよ!?」
母親はあきれたようにため息をつきながら、圭介をイスに座らせた。
「あんたねえ、彼女、門を乗り越えたのよ。立派な不法侵入なのよ?
こんなことが公になったら、どんな大騒ぎになるか、わからないとは言わせないわよ」
「そもそも無理やりおれをここに閉じ込めて、桜子に会わせないようになんてするから、桜子だってそんな無茶をするんだろうが。
それだけ、桜子だって、おれに会いたがってるってことだろ? なんで引き離すんだよ!?」
「じゃあ、聞くけど、今、会ってどうするの?」
「どうするって……」
「1回会ったら、それで満足? それとも、手に手を取って逃げるの?
あっという間に連れ戻されるってのに?
どっちもお互いに好きって気持ちが先走りしていて、周りが見えていないのよ」
畳みかけるような母親の言葉に、圭介は何も言えなかった。
逢いたくて、逢うことしか考えていなかった。
1度でも会いさえすれば、この事態が好転するような気がしていた。
ここから抜け出すことができれば、なんとかなると思い込んでいた。
つまり、具体的なことは、何も考えていなかった。
「だからって、どうしたらいいんだよ……」
「だから、言ったでしょ? 頭冷やして、よく考えてみなさいって。それに、何かするにしても、まずはその足を治すことね」
桜子に恋をした時、ムダなことをしている気がした。
桜子は『呪い』さえなければ、どんな男とでも付き合える。
自分にひざまずく男たちの中から、最高の男を選ぶことができる。
そんな男たちの中から自分が選ばれる可能性は、ほとんどゼロだと思っていた。
それでもわずかな可能性にすがって、ようやくここまで来た。
その奇跡のような幸運に舞い上がって、そのあまりのありえなさに、1度手にした幸運を逃すのが怖くて、焦っていたのかもしれない。
(そうだ、ちゃんと落ち着いて考えるんだ)
確かに今、逃げたところで、問題は何一つ解決しない。
この神泉家と関わりを持ったことが、すべての元凶ではあるが、悔いたところで時間は戻せない。
こうなってしまった以上、自分はこの家にいながら、妃那との婚約を回避し、桜子との未来を勝ち取るしかない。
正式な婚約は7か月後。
それまでに、妃那を始めとするこの家の人間に、桜子との仲を認めさせる。
(たぶん、これが次の試練になるんだ)
どうすべきかは、まだわからない。
だから、落ち着いて考える必要があるのだ。
今日、会うことは叶わなかったが、桜子の気持ちが変わっていないことはわかった。
そのことが何よりも勇気づけてくれる。
自分の目的がブレない限り、この試練は乗り越えられるはずだ。
「おれは絶対に勝つからな!」
目の前にいる母親に、というより自分に向かって圭介は宣言した。
【第3章 『呪い』は全力で回避します。】は、この話をもって完結となります。
クライマックスというよりは次章へのプロローグといった感じだったでしょうか。
第2章パート2から始まった長い長い夏休みもここで終了。
次話からは【第4章 ロミジュリ展開、お断りします。】が始まります。
再び学園ラブコメ(?)になる予定です。
圭介と婚約する気満々の妃那が加わって、どんな学園生活が待っているのか。
ぜひ次章もお楽しみください!
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