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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第3章 『呪い』は全力で回避します。

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27話 そうして、人形になった

本日(2022/09/30)は、三話投稿します。


前話からの続きの場面です。

「天才って……本当に、そうなのか?」


 圭介の問いに妃那の表情が変わらないところを見ても、やはり本当のことらしい。


「最初に気づいたのは、お兄様だった。わたしが3歳の頃よ。

 例外がなければ、男が継ぐこの家では、長男がすでに生まれていた状況で、誰もわたしに関心がなかった。おじい様もお父様も。お母様は男の子がほしかったので、わたしが生まれて、がっかりしてたわ」


 妃那はそう言って、かすかに皮肉気な笑みを見せた。


「お兄様だけがわたしをかわいがってくれた。だから、わたしはいつもお兄様にまとわりついていたわ。

 お兄様が英才教育を受けている間も、そばで家庭教師の話を聞いていた。わたしはすべてを理解したし、すべてを覚えた。お兄様よりずっと容易に。

 そんなわたしの()()()に気づいた時、お兄様はわたしを恐れ、(ねた)み、憎んだの。わたしが『知る者』であることに他の誰かが気づいたら、自分は後継者から外されてしまうから。そして、お兄様はわたしの首を絞めた」


 妃那は今まで内にため込んでいた言葉をすべて吐き出すかのように、饒舌(じょうぜつ)に語っている。

 圭介はただ黙って彼女の言葉に耳を傾けていた。


 たとえそれがおぞましいことであっても、妃那が淡々と過去を物語る限り、圭介もまた冷静でいようと思った。


「大好きなお兄様に憎しみの目を向けられて、悲しかった。たった一人やさしくしてくれたお兄様まで、わたしをいらないというのなら、わたしは存在する価値がない。だから、そのまま死んでもいいと思ったわ。

 でも、わたしの本能が生きたがっていた。死にたくないと、必死で抵抗したの。気が遠くなる中で、わたしはお兄様にこう言ったのよ。

『わたしはお人形になるから、お兄様、これからもかわいがって』と。

 わたしは完全に表情を消して、言葉を自分の中に封じた。

 お兄様も最初は戸惑ったみたいだったけれど、何日たっても言葉を口にしない、お兄様の指示がなければ勝手に動いたりしないわたしに慣れていった。

 わたしの期待通り、お兄様はわたしの世話をしてくれて、ずっとそばに置いてくれた。とても大切にしてくれた」


 妃那はその頃を思い出すのか、どこか懐かしむように、そして、幸せそうに見えた。


「だから、圭介、お兄様を悪く思わないでね。わたしを人形にしたのはお兄様ではないの。わたし自身が選んだ道なの。

 そして、それは間違いだった。お兄様が死んだのは、わたしのその誤った選択のせい。

 わたしは『知る者』であると自覚した時、本当は名乗り出なければならなかったの。どんなにお兄様に恨まれても、嫌われても、わたしが後継者になるべきだった。

 お兄様も後継者でなかったら、誰かが出自(しゅつじ)(あば)くこともなかったし、自ら命を絶つこともなかった。

 だから、すべてはわたしが原因。生きる欲求を捨てることもできず、お兄様に愛されていたいという身勝手なわがままを通した結果が招いたことだった」


 まるで台本を棒読みしているかのような妃那の話し方に、圭介は徐々に異様さを感じ始めていた。

 兄の死の原因が自分にあると言いながら、そこに後悔や悲しみが表れてこない。


 まるで、すべての事象がすでに決まっていて、起こるべきことが起こっただけだと言っているようだった。

 それが『知る者』特有の人間性なのか。

 昨夜の妃那の方が泣いたり、叫んだり、感情をぶちまけていた分、人間らしかった。


「お兄様は後継者をはずされても、死ぬ間際まで、わたしが後継者になることだけは許せなかったのね。だから、わたしに永遠に人形でいるようにと遺したの。

 わたしはこの家を恨んで死んでいったお兄様の意思を継いで、神泉の血を絶やしてやるつもりだったわ。

 一樹が後継者としてお父様に呼ばれたのは願ってもないことだった。彼はこの家のしきたりになど従ったりしない。利己的に、自分の野心を満たすために、この家の権力も財産もむさぼってくれる。滅びに導いてくれる。わたしはそれを見届けるだけでよかったの。

 圭介、あなたが現れるまではね」


 妃那はそこで言葉を切った。


 その先は昨夜の話につながるのだろう。


 一樹に後継者になってほしいと思っていたのに、妃那と結婚のできる圭介が現れてしまった。


 当然、圭介が後継者の有力候補になる。

 妃那からすると、圭介ほど邪魔な存在はない。

 だから、命を狙った。


 しかし、結局、とどめを刺すことはできず、自分が消えることでこの家の血を絶やそうとしたのだが、圭介に引き止められた。


 今の妃那を見る限り、生きることを選んだのだ。


「兄貴の遺言はもういいのか? おまえが人形であることをやめて、後継者として名乗り出た今、葵の遺志はもう継げないことになるだろ?」


 圭介の問いに、妃那はほんのりと笑みを浮かべた。


「昨夜の圭介の言葉で、わたしはいろいろなことに気づいたわ。わたしは今まで『知る者』でありながら、()()()()()()()()()()()()だったの。

 圭介、あなたの言う通りよ。お兄様はわたしを愛していたわけじゃない。わたしという『人形』を愛していただけだった。

 一晩眠って、今まで混とんとしていた脳がすべて整然と機能するようになって、ようやくわたしは目が覚めたわ」


「……なんで、おまえはそんなに割り切った言い方ができるんだ?」


「だって、圭介が言ってくれたでしょう? お兄様の代わりになってくれるって。やさしくしてくれるって。

 だから、圭介がそばにいてくれる限り、わたしは悲しい過去も記憶の中に封じて、幸せな思い出に塗り替えられる。圭介なら、わたしのありのままを愛してくれるのでしょう?」


 そう言って、妃那は圭介の首筋に腕を絡め、唇を寄せてきた。

次話もこの場面が続きます。

妃那が豹変?

お時間ありましたら、続けてどうぞ!

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