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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第3章 『呪い』は全力で回避します。

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26話 神泉家の『知る者』って、何者だよ?

「何なんだ、この茶番は!」


 圭介は自分の心の声が思わず口から出てしまったのではないかと焦った。


 ――が、実際に叫んだのは、一樹だった。


 一樹の怒りの矛先は、父親である智之に向かっている。


「お父さん、何のために僕をここへ連れてきたのです? 僕を後継者にするためでしょう? 障害をもつ不憫(ふびん)な娘をこの家のしきたりから守りたいと」


「一樹、妃那が『()(もの)』となった今、妃那がこの家を継ぐのは当然のこと。この家において『知る者』の権限は当主をも超える。誰も異議を唱えることはできない」


「みんな、こんな得体のしれない女が言っていることを真に受けるのか!? 何が神託だ! 何が初代様だ! みんな、頭がおかしいんじゃないか!?」


 狂ったように叫ぶ一樹に、智之の容赦(ようしゃ)ない平手が飛んだ。


「口が過ぎる。おまえもこの家の一員でいたかったら、言葉を慎め」


 一樹は叩かれた頬をおさえ、恨みがましい目で智之を睨んだ。


「ご冗談を。誰がこんな女の下で働きたいもんか。僕が最初からほしかったのは、当主の座のみ。それが叶わないなら、出て行ってやる」


「ええ、それがよろしいかと」


 そう言ったのは、妃那だった。


「この者の汚い野心は、いずれこの家に(あだ)なすことでしょう。お父様、お捨て置きを」


 妃那の静かな言葉は、神託を下す巫女のように厳かで、聞く者が従わなければならないような錯覚を起こさせる。

 現に、神の意を得たと言わんばかりにうなずく智之を見て、圭介は異様な事の運び方に薄気味悪さを感じた。


 一樹はもの言いたげに唇を震わせていたが、結局何も言わずに食堂を飛び出していった。


「圭介」


 不意に妃那に声を掛けられて、圭介はビクリと顔を上げた。


「わたしの伴侶となられる方。お食事を終えられたら、ゆっくりお話をいたしましょう。部屋でお待ちしております」


 妃那はあでやかな微笑みを残して身をひるがえすと、皆が固唾(かたず)を飲む中、来た時と同じく静かに食堂を出て行った。


「なんだか、すごいことになっちゃったわねえ」


 圭介の母親の緊迫感のない声が、今までそこにあった不可思議な空気を一掃(いっそう)した。


「母ちゃん……」


「あんた、本当に妃那さんと結婚するの?」と、真顔で聞いてくる。


「おい、悪い冗談はやめてくれよ」


 圭介が笑おうとすると、それをさえぎるように「何を言っておる」と、源蔵の厳しい声が飛んできた。


「こうなったからには、早々に妃那のお披露目(おひろめ)をしなくては。喪が明け次第、婚約発表ということでよいだろう。智之、日取りを決めておけ」


「承知しました」


(おいおいおい、勝手に何を決めてくれるんだ!? 喪が明けたら婚約発表って、来年の3月ってことじゃねえか!) 


 話がトントン拍子に進んで行ってしまう中、圭介は中断していた食事に戻ることもできずに、「失礼します」と席を立った。


 一樹でなくても、この家はおかしいと思ってしまう。


 妃那が神懸(かみがか)ったように話していた内容も、それを誰もがあっさり納得していることも、息子を追い出してケロッとしていられる父親も、何もかもがおかしい。


 この茶番を仕組んだのは、他でもない妃那だ。


(付き合ってられるか!)


 圭介は怒り心頭で2階に上がると、妃那の部屋のドアをドンドン叩いた。


「どうぞ」と返事があったので、圭介はそのまま中に入った。


 まるで自分の部屋かと錯覚するほど、妃那の部屋にも似たような家具が並んでいる。

 ぐるりと見回すと、妃那は天蓋付きのベッドの上でノートパソコンを開いていた。


「あら、圭介。もう食事は終わったのかしら?」


 圭介の怒りの形相に気づいているのかいないのか、妃那はくったくない笑顔を向けてくる。


「何なんだ、あの茶番は!? 何が神託だ!?」


 圭介は気づけば一樹と同じことを繰り返していた。


「圭介、座ったら? 足、そのままだとつらいでしょう」


 妃那は圭介の鋭い語気に動じた様子もなく、ここへ座れというようにポンポンとベッドの上を叩く。


 確かに片足をかばって松葉杖をつきながらでは、言い争うにも力が入らない。

 圭介は言われた通り、妃那の隣にドサッと腰を下ろした。


 妃那はそれを見届けてから、パタリとノートパソコンを閉じて横に置いた。


「あれが1番良い方法だったのよ。お兄様のしたことに触れずに、わたしが()()になるには」


「だいたい何だよ、『知る者』って? みんな、あっさりおまえの言うことを信じて、気味悪いだろ」


「圭介は知らなかったのかしら?

 神泉家初代の久須児は『知る者』だったのよ。天災を予知し、流行(はや)(やまい)を未然に防ぎ、あらゆる薬で民を救ったという伝説の巫女姫(みこひめ)。それが神泉家のご神体」


「それは母ちゃんから聞いたけど。先祖が神通力を持っていたって。眉唾物(まゆつばもの)の話じゃねえのか?」


「いいえ、違うわ。『知る者』というのは、今でいう天才よ。その時代で最先端の科学の力を使っていただけのこと。他の人から見たら、おそらく神通力や、それこそ呪術のように見えたことでしょう」


 今の時代なら、地震や台風のような天災は予知できるし、伝染病の拡大を防ぐことも当たり前だ。

 当時にしてみれば、よく効く薬も作れたのかもしれない。


「それはまあ、想像できなくもないな」と、圭介は同意した。


(母ちゃん、説明をはしょったのか?)


 おおざっぱな母親のことだから、それはありうる。


「この神泉の一族は『知る者』が現れるたびに、大きくなってきたの。だから、『知る者』はこの家では絶対的な存在――神にも等しい存在になる。同族婚を繰り返すのも、天才の遺伝子を継いで『知る者』を排出するためよ。

 もっともそこまでしても、前回現れたのは100年以上前。それだけ稀有(けう)な存在というのは確かだわ」


「……おい、ちょっと待て。そんな重要人物だなんて、みんなの前で宣言しちまって、後で『やっぱ違いました』じゃ、済まねえぞ」


「大丈夫よ。わたしは確かに『知る者』だから」


「は……?」


 圭介は耳を疑った。


「わたし、天才なの」


 そう断言する妃那の言葉に、偽りは微塵(みじん)も感じられなかった。

次話はこの続きの場面になります。

妃那が人形になった理由とは?

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