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【本編完結】監視対象のお嬢様にうっかり恋をしたら、高嶺の花すぎた――けど、あきらめたくないので、テッペン目指そうと思います。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
第3章 『呪い』は全力で回避します。

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22話 今夜、会える

圭介視点です。

 圭介は丸1日、勉強机の前に座らされ、さすがに疲れ切っていた。

 だいたい夏休みに入って以来、完全に勉強というものから離れていたのだ。


 朝から経営学、昼を挟んで英語と歴史。

 それぞれに家庭教師がやってきて、一対一の授業になるので、ぼうっとしてもいられない。

 もっとも、どの教科も圭介のレベルに合わせてくれるので、今日のところはどれも初歩的な内容で終わったが。


 明日は朝から社交ダンスのレッスン、政治学、ドイツ語と化学、数学。

 学校が始まるまでの残りの1週間、こうして朝から晩までみっちり授業が入っている。




 夕食が終わって部屋に戻ろうとすると、雪乃に呼び止められた。


「圭介様、少々よろしいですか?」

「何ですか?」


 雪乃が声をひそめるので、圭介もまた声を落とした。


「お伝えしようか迷いましたけど、一応、お耳に入れておこうと思いまして。今日のお昼頃、藍田桜子様という方が圭介様を訪ねていらしたんです」


「桜子が!?」


 圭介は思わず声を上げてしまい、慌てて口をふさいだ。


「誰が訪ねてきても、圭介様はこちらにいないと言うように大旦那様に言われていたので、そのままお帰ししましたが……やはり、お知り合いの方でしたか」


「あの、何か言っていませんでしたか?」


「いいえ。礼儀正しい方で、それなら結構ですと」


 桜子がこの家を訪ねてきたということは、圭介と貴頼の関係も知ったということだ。


(ちくしょー! 『いない』なんて言われたら、他の親戚を探しに行っちまうじゃねえか!)


 連絡をすると言ったきり、桜子にはあれから五日も連絡をしていない。

 桜子が心配していてもおかしくない。


 実際、心配のいらない状況ならばいいのだが、圭介の現状、決してそうとは言えない。

 今後の対策を考えるためにも、ここにいることくらいは何とか伝えたいものだ。


「雪乃さん、もしも桜子がもう1度訪ねてくることがあったら、祖父にはわからないように、なんとか会えるように手配してもらえませんか?」


「あの方は圭介様にとって、どういう方ですの?」


「僕のカノジョなんです。急にいなくなって心配していると思うので」


「圭介様、恋人がいらっしゃったのですか……。けれど、申し訳ございません。そういうことでしたら、お手伝いできません。

 圭介様がこちらの後継者候補である限り、血縁以外の女性とお付き合いをするのは許されませんから」


「……そうですか」


 親切に世話を焼いてくれる雪乃ならば、手助けをしてくれると思ったのだが、やはりどこまでもこの家に忠実なのは変わりがないらしい。

 当てが外れて、圭介はがっかりしながら階段を上って、自分の部屋に戻った。


 部屋に足を踏み入れたとたん、カサリと乾いた音がした。

 足元を見ると、1枚の折りたたんだ紙が落ちている。


 ドアの下の隙間から入れられたと思われるそれを拾い上げ、圭介は開いてみた。


『今夜12時、門のところで待っているね。桜子』


 慌てて書いたような走り書きだった。


(桜子からのメッセージ? おれがいないと思って、帰ったんじゃなかったのか?)


 桜子は実は圭介がここにいることを確信していて、使用人の誰かにこのメッセージを(たく)したのかもしれない。


 今夜12時。

 あと数時間で桜子に会える。

 門の外には出られないとしても、触れ合うことはできる。


 そう思うと心が(おど)って、今置かれている状況も大したことではない気がしてきた。




 圭介は何をするということもなく、窓際に立って外を眺め続けていた。

 庭は真っ暗で何も見えないが、門の辺りは明かりが灯っていてはっきり見える。

 車が通りがかるたびに、それが桜子ではないかと期待してしまった。


 今度こそ、今度こそ、と思っているうちに12時5分前――。


 このような夜更けとはいえ、桜子は車で来るわけではないらしい。

 たとえ車を使うとしても、目立たないように少し離れたところで降りて、門のところまで歩いてくるのが普通か。


 圭介は部屋のドアをそっと開けて、廊下を覗いてみる。

 この家に消灯時間というものがあったのか、明かりは全部落ちていた。


(ヤバい。何にも見えないぞ。電気のスイッチはどこだ? ……て、点けるわけにはいかんよな)


 明かりを点けたとたんに、藤原辺りが「どうされましたか?」と現れそうで怖い。

 とにかく、人の気配がないことを確認してから、壁伝いに廊下を歩き始めた。


 ドアを三つ過ぎた後、らせん階段の手すりを手探りで見つけて、一歩一歩慎重に降りていく。


 ――が、2段ほど下りた時、突然背後で気配を感じた。


 圭介がはっと振り返った瞬間、背中を強く押され、踏み出そうとしていた足は、階段のステップを外した。


 身体がふわりと宙を浮く、奇妙な感覚が全身を支配する。

 そして、次の瞬間、全身に受けた強い衝撃とともに、意識が遠のくのを感じた。

次話、階段から落ちた圭介のその後になります。夢の中で会ったのは誰?

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