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山の廃寺院へ

 翌日、クエスト受注をしてフランクと会うことになった一行。

 彼らパーティーのアジトへと赴き、応接室で待つこと数分。


「お待たせしました。すみませんねこんな散らかってて」


 ドアから現れたのは20代後半くらいのメガネの男性だった。

 リーダーというにはどこか頼りなさそうで、それでいて顔には苦労の色が垣間見れる。


 心なしかやつれているように見える様は、まるで罰を受ける牢人だ。

 

「おう、出迎えひとりいねぇってのはどういうことだ?」


「ちょっとヴァレリィ!」


「いいえ、いいんです。最近はチームでの行動よりもソロでクエストを受けることが多いもんですから」


「え、それって……」


「ははは、想像通りですよ。単独で、しかもいくつも抱えるもんだから負担が大きいのなんのって」


 弱々しくメガネを直して見せ自嘲するフランク。

 その背中に圧し掛かるのはリーダーとしてのプレッシャーと後悔。


「クエストは確認されましたよね? リドガー、彼は兄がここを結成する前からつるんでいた存在なんです」


「一応聞かせていただいてもぉ? そんなお兄さんの大事なお友達が、どうして?」


 フランクは二・三度視線を泳がせたあと、ぼやくように答えた。


「……兄が死んで、僕がリーダーになってからです。その、僕の方針とか信条の違いで、何度も衝突することがありまして……」


「ん~、やはりわかりませんねぇ。そんな古株の方が形見であるこのパーティーをそう簡単に見捨てます?」


「……事情が、あるんだと思います」


 ラクリマとグレイスは小首を傾げながらフランクの様子をうかがう。

 先ほどからハキハキとしない彼に、ヴァレリィも怪訝な表情を浮かべていた。


 探してほしいという願望の裏側に、後ろめたさが見てとれる。

 一体なにをやらかした。


 そも、やらかしたのは本当にリドガーなのか。


「人探しってんだから、なにか情報はあるんだろ? リドガーが行きそう場所に心当たりとかねぇのか?」


「心当たりはひと通り……あ、でも、ひとつだけまだ行ってない場所があるんです」


「どこだ」


「ハンニバルから離れた場所にある山。そこの古い寺院です。もっとも、僕らが生まれる前にはもう廃墟になってたみたいでしたが、兄とリドガーは一時期そこを根城にしてたとか」


「なんでそこに行かなかったんですか?」


「あそこは道のりが険しく、足場も悪くて、人が滅多に寄りつかない場所なんです。兄ならともかく、僕ではとても……それに行こうと思おうにも仕事が溜まってますので時間が……」


「それで依頼ってわけねぇ……どうするアンネリーゼ?」


「どうするもこうするも。クエストである以上、きっちりやらせてもらいますよ」


 クエストの内容を聞くうちに、リドガーという人物にさらに興味を持った。

 北へ進み、例の山のほうへと。


「岩山じゃねぇかッ!」


「ホントにこんなところにいるのかしらぁ」


 見るからに殺風景。

 だが歴史から切り離されたような異質さをかもしだすその山を前に、アンネリーゼたちは尻込みしていた。


 山道をの両脇にある枯れ木は茨のように歪で、それでいて妙な弾力がある。

 破壊できないわけではないが、刃はとおりにくそうだった。


 この色褪せたモノクロの世界観の中に、リドガーは隠れ潜んでいる。

 もしかしたらすでにこちらを認識しているのかもしれない。


「進むしかないよ。皆注意してね」


「おう、それはいいんだけどよ。クライメシアはどうした?」


「そういや、なんか静かだね……。まぁ私の影にいるんだろうけど」


「クライメシアさんがいるのなら心強いですしねぇ」


「まぁ今は日が出てるから、警戒してるのかもねぇ」


「じゃあまずは俺たちだけで行こうぜ。さっさとリドガーってやつを捕まえちまおう」


「うん、じゃあ行こう」


 どこか湿った空気を感じさせる山道を進む。

 空ではカラスがけたたましく、まるで死肉になるのを待っているかのよう。


 しばらく進んでいくと行き止まりに直面した。

 というよりも崖だ。


 絶壁のくぼみに木造の奇妙な建築物がある。

 柱でしっかりと支えられており、岩肌と一体化しているかのような奇妙な美しさを感じた。


「なんだこりゃ……」


「すごいわねぇ。どうやって建てたのかしら」


「気になるのはわかりますが、調べてる暇はなさそうです。一本道でしたから、ここからはよじ登るしか」


「えー! 登るんですか!?」


「俺は別にかまわねぇぜ」


「私は少しなら飛べるから」


「じゃあ私がヘブンズ・ウィールで上手いこと上に引っ掛けるから、グレイスもそれで登ろ」


「だ、大丈夫ですかねぇ」


「……リドガーって人も多分そうして登ったんだと思うしね」


 それぞれの方法で崖を登る中、その光景を陰から見ていた者がひとり。





「来やがった、来やがったよオイ……なんだって俺がこんな目に合うんだぁ? ふざけんなよなぁオイ。貧乏クジ、貧乏くクジ、貧乏クジだッ! いつだって俺が貧乏クジを引く羽目になるんだコンチクショウがーーぁぁああああ……」


 ガリガリと頭をかきながら歯軋りする瘦躯の男。

 自慢の得物、鎖鎌ならぬ鎖ハルペーを手に、彼『リドガー』は迎撃の準備をする。

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