黒幕かもしれない……
「お疲れさん。えらい大変やったみたいやな」
「まったくですよ。いきなり大英雄と出くわして戦闘ですよ?」
「でも切り抜けた。やっぱ俺の見込んだ女のギルドやぁ……」
「そんな怪しげな口調で」
ハンニバルに戻ったときにはすでに暗くなっていた。
ほかのメンバーを先に酒場に行かせて、アンネリーゼは報告へと来ていたのだ。
「しっかし、ゴブリンも災難やったのう」
「そうですね。まさかイザールの手にかかるだなんて……」
「それもあるけど、実はこの事件の発端がなぁ」
「発端?」
「今回のことで別のギルドパーティーが調査クエスト受け取ったんや。んでその報告を聞いてみたら驚きや。村人のアホがゴブリンの里から宝を盗んだんが始まりやった」
「え? どういうことです?」
「そこの村長のバカ息子がお宝探しでひと儲けしようとした。親父を見返したかったんやろな。せやけどゴブリン、ましてやニンジャ相手に素人が忍び込んでもすぐに終わり。そこで腕利きを雇ったらしい」
「まさか、それがイザール」
「と、思うやろ? 実はちゃうねんなぁこれが。アイツは宝が盗み出されたあとにフラッと現れた、言わば通りすがりやったんや。考えてみ? いくら村長の息子やからって大英雄雇う金あると思うか?」
「確かに……。それに彼はなんだか、こう。浮世離れしてるっていうか……自分より強い相手を探してるみたいで……それ以外に執着がないような」
「……せやろな」
「じゃあ、腕利きって誰なんです?」
「あー、それ聞いちゃう?」
耳打ちをうながすように、アンネリーゼと顔を近づけ合った。
「今日の夕方ごろやったかな? ある依頼が来た」
そう言うとリストから『人探し』のクエストを見せる。
「……フランク・パーティー? 確か中堅クラスのギルドパーティーでしたよね?」
「せやな。兄貴が死んでから弟君が頑張ってまわしてるみたいやけど……今かなり羽振り悪いらしいわ」
「と、いうと?」
「兄貴の代からずっと活躍しとった奴が突然抜けてしもたんやとさ。運はかなり悪い奴やったけど、実力は折り紙付きのな。折角の稼ぎ頭をもったいない」
「はぁ!?」
「シィーッ! ……まぁフランクはもう1回寄りを戻したいらしけど、数日前から行方をくらましてる。恥を忍んでの依頼や」
「そう、だったんですか」
かつて仲間をもう一度自分たちのところへ。
まるで夢のようなシチュエーション。
もっともアンネリーゼには間に合っている。
もう一度あそこに戻るくらいなら、すべてリセットしてからオコボレ生活を希望してやる。
「ん、でもちょっと待ってください。……その、クエストと今回のことと一体なんの関係が?」
「……ゴブリンの里に忍び込むほどの技術を持っとんは早々おらん。でもな、あの男、『リドガー』は違う。兄貴を成り上がらせるために陰で汚れ仕事やってたって噂もあるし」
「まさか、ひとりになった彼がゴブリンの里から宝を?」
「可能性としてはあり得る。リドガーが出てった時期と今回のことがかぶるねん。偶然、とは思えん」
「もしかして……」
「お、わかるか? このクエスト、是非ともアンネリーゼ・パーティーでやなぁ」
「シャチハタさん……あのねぇ」
ゴブリンの里に思うところはあるが、アンネリーゼはこれ以上は踏み入ろうとは思わなかった。
ましてやクエストとは言え、よその事情に首を突っ込むほどこちらも余裕はない。
シャチハタはこう言っているが、残念ながら……。
「ふむ、面白いな」
「え?」
バッと上からリストを取り上げるはクライメシア。
一体どこから現れたのか、そのタネがわからないシャチハタはギョッとしていた。
「アンネリーゼ、これも経験だ。是非受けたまえ」
「え、え、えぇぇ~~」
「不満か?」
「不満って言うか……」
「他のギルドパーティーと交流し組織同士の繋がりを知っていくのもまた大事だ」
「だ、だってぇ」
「別にボランティアじゃあないんだ。こうして報酬も用意している」
「じゃあちょっと考えさせて。皆とも相談しなきゃ」
「まぁそれくらいは」
「いや、ふたりで進めんとってくれや。誰やアンタ?」
「ふふふ、ギルド長にでも聞いてみたまえ。きっと顔を蒼くするだろう」
「は、はぁ」
こうしてクライメシアとともにギルドを出たアンネリーゼは皆の待つ酒場へと向かった。
元フランク・パーティーのメンバー、リドガー捜索の依頼。
クライメシアの説得もあって、皆からは了承は得た。
そしてそのまま頭の中でぼんやりと考えながら、酒と料理の雰囲気に身を委ねていく。
(リドガー、どんな人なんだろう?)
まだ見ぬ明日に出会うかもしれない尋ね人。
まずはパーティーリーダーのフランクに話を聞いてみなくては。




