vs.ニンジャ・ゴブリン
ニンジャ・ゴブリンの里。
しかし洞穴の中で里とはよく言ったものである。
お陰で血の臭いが充満してむせ返ってしまうほどだ。
「ひでぇ有り様だぜ。どいつもこいつも真っ二つだ」
「話には聞いてたけど、これじゃあ……」
まるで戦場跡地だ。
内部に設けられた木造建築物はほとんど倒壊している。
奥へ進むごとに足場が狭まっていた。
これ以上は進めないと判断したとき。
シュバッッッ!!
暗闇に紛れて翔ぶは手裏剣。
それはアンネリーゼの首元へと真っ直ぐ向かっていった。
「まぁ無粋ね」
それを軽く魔力で弾くラクリマ。
一切反応できなかったアンネリーゼは一瞬肩を震わすがすぐに戦闘態勢に入る。
「そこにいるんでしょう? 姿を見せたら?」
ラクリマの声に陰から1体の巨躯が舞い降りてくる。
2メートルほどの身長にバランスのいい筋肉。
噂のニンジャ・ゴブリンの登場だ。
手には刀を持って、左肩を引いて右足を前にする。
ゆっくりと刀を右に開き、刃を内側に。
「な、なんだぁその構えは?」
「気をつけて。なんか……すごく怒ってるみたい」
「こっちは4人です。囲むようにして攻撃すれば……」
「それが通じる相手ならいいけれど」
言葉はここで途切れる。
互いに睨み合いの硬直状態が続いた。
敵に隙が見当たらない。
アンネリーゼたちのほうが数で優勢であるのに、このゴブリンには得体の知れないなにかを感じた。
「……ッ!!」
最初に動いたのはアンネリーゼだ。
天国への車輪のギミックを起動させ、ゴブリンに襲い掛からせる。
ゴブリンは素早い身のこなしで反応。
最小の動きで躱し、続く衛星マーハウスを刀で弾いた。
「背中ががら空きだぜ! 龍法ッ!!」
ヴァレリィの魔力のこもった拳が唸りを上げる。
それを凄まじい跳躍で回避するも、ラクリマの闇属性の魔術によるトラップが発動。
無数の腕らしきモヤがゴブリンを掴みとり、地面に叩きつけた。
「アンネリーゼさん!」
「えぇ!」
アンネリーゼとグレイスのコンビネーション技。
流星のように飛ぶ魔力弾とヘブンズ・ウィールの超速回転による轢き回し。
凄まじい轟音を上げて、ゴブリンは壁に叩きつけられた。
「いよっし!! どうだ見やがれ!!」
「いや、まだだよ!!」
アンネリーゼが叫ぶ。
────変わり身の術。
ゴブリンは闇に紛れて今度は吹き矢で攻撃。
「うぐっ! こ、これは……ど、毒か!」
「ヴァレリィさん! 待っててください。すぐに回復を!」
「グレイス、無闇に動いてはダメ。……そこね」
ラクリマの広範囲魔術が洞窟内を覆う。
たまらなくなり飛び出てきたゴブリンを見計らっていたかのように。
「そこね」
アンネリーゼは容赦なくヘブンズ・ウィールを叩き込んだ。
「ぐはぁああ!!」
断末魔を上げて、今度こそダメージを与えた。
ゴブリンは片膝立ちで息を切らしている。
「貴様ら、なぜこんなことをする? 我々がなにをしたというのだ?」
「あぁん? なぁに言ってやがんだ。近隣の村襲ったのテメェらだろうが!」
「我々が? ……ふん、愚か者め!!」
今度は真正面から斬りかかってくる。
「最初に襲ったのは連中だろうが!」
「嘘よ!」
「……貴様ら人間はいつもそうだ。被害者面ばかり磨き上げおってッ!」
卓越した剣術に、変幻自在の忍術。
怒りによってそれらは研ぎ澄まされ、4人に容赦なく牙を向いた。
「くそ、毒で上手く動けねぇ」
「きゃあ!!」
「姉様!!」
ラクリマがゴブリンによって巴投げを喰らう。
アンネリーゼはそれを見て激昂した。
「ヘブンズ・ウィールッ!!」
「……ワイヤーで操るだけでなく、声でも反応する武器か。だが、そんなものこの俺には通じん!」
「やってみなきゃわかんないよ!!」
(ぬっ! コイツ……まるで瞬間移動のようにッ!)
曲線的な歩法から一気に直線へ。
虚を突かれたゴブリンの動きが止まる。
その瞬間を狙ってヘブンズ・ウィールは容赦なくゴブリンに直撃する。
「ぐわぁあ!!」
「ヴァレリィ、やっちゃって!」
「おうよ!! ────ドラグラ・ゴールドラッシュゥゥゥウウウッッッ!!」
「しまっ────」
気付いたときには無数の拳を1秒間に何発も浴びせられていたゴブリン。
あまりの強度に彼の肉体はどこもひしゃげ、バキバキと破滅の音が響き渡った。
「ぐはっ! あ、がぁああああ!!」
壁に叩きつけられたゴブリン。
最早戦闘続行は無理そうだ。
「さぁ、観念しやがれ」
「く、この俺が……負けて、たまるかッ!」
まだ立ち上がる。
4人が身構えたときだった。
────ザシュウッ!!
「え?」
「なんだと!?」
ゴブリンの背後から赤い光の刃が貫いた。
彼自身なにが起きたのかわからず、そのまま脱力していく。
ドシャリと倒れた先にいたのはひとりの男だった。
「まだ生き残りがいたとは、見苦しい」
その男はクライメシアとは別のベクトルで美しかった。
しかしそれでいて恐ろしい。
手に持つのは魔力で編んだ十字剣だろうか。
禍々しいほどに赤いそれは邪悪のイメージに近い。
そして男はアンネリーゼたちを見るも鼻で笑い踵を返した。
「おい待てやコラァ!! いきなりしゃしゃり出てきて挨拶もなしかよオイ!!」
ヴァレリィは納得がいっていないようだ。
かく言うアンネリーゼもそうだ。
だが、次の瞬間。
「お前たちに俺が殺せるとでも?」
「あぁん? テメェなにを言っ────」
ヴァレリィの首は今まさに、ゴブリンが持っていた刀で跳ね飛ばされようとしていた。
ラクリマもグレイスも反応できず、アンネリーゼも認識できない。
男はそのまま刀を振り抜こうとしたときだった。
「悪ふざけはやめてもらおうか」
深淵刀を携えたクライメシアが現れ、刀を砕く。
男は彼女の登場に不敵な笑みをたたえて、後方へ間合いを置いた。
「卿が何者かは知らないが、少々やんちゃが過ぎるのでは?」
「その4人では無理そうだが……お前なら俺を殺せるかもな」
先ほどから自分を殺せる相手を探しているこの男の正体。
アンネリーゼはハッとする。
「聞いたことがある……その黒い外套、真っ赤な十字剣……"地上最強の魔導剣士"」
その名をイザール。
たったひとりで超難易度のクエストを無傷で達成した英雄だ。




