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マギアス、そして周囲の変化

「マギアス? マギアスってあの……」


「そうだ。卿らの時代にもあるらしいな」


 魔術の使えない人間であっても、極微量ではあるが魔力を宿していると近年の研究で明らかになっている。

 稀なケースとされているのだが、本人の内面的な作用によって別の概念に変異することがあるのだとか。


 魔術とはまた別のパワーを持つエネルギー、それが『マギアス』だ。

 精神力であったり、願望であったり、きっかけは様々で、その能力の強弱も様々。

 

「これはあの魔導人形……失礼、アモルが宿していたマギアスだ。恐らく強い恋慕かなにかでそうなったのだろう」


「まだ輝いてる……あれ、でも中身はもうくすんで見えない」


「そうだろう。もう宿主と離れてしまっているのだから。……あのままいけば、ここから化け物が生まれていたかもしれない」


「え゛!?」


「可能性としては高い。少なくともかつてのアモルはこの中のモノを産む気だったろうさ」


「そうなんだ……。それでさクライメシア。これ、どうするの?」


「無論処分する。今回は卿にマギアスのことについて知ってほしかったから呼んだ。……まぁマギアス持ちにそう何度も出会うとは思えんが、気を付けたまえ」


「うん、わかったありがとう」


「どんなマギアスにも『特定のルール』というものがある。そのルールをやぶることはできない。すなわち、つけいる隙があり、弱点があるというわけだ。この書庫にはマギアスに関する書物もいくつかあったから、目を通しておくといい」


 クライメシアとの会話後、アンネリーゼは下の階へと戻る。

 マギアスというワードがずっと彼女の脳内にこびりついていた。


 奇妙な引力を感じる中、頬を二、三度叩いて気を入れ直す。


(封印街のこともあったのに、もっと厄介なのがいるってことか)


 さらに強くならなくてはならない。

 のびのびとした向上心が、アンネリーゼに明日への勇気を与えた。



 そして次の日、アモルを屋敷に残して一行はギルドへと向かう。

 いつもの受付にいつものようにシャチハタがいた。


「お、来たなセンセ。長い休暇やったな。寂しかったで」


「お久しぶりですシャチハタさん」


「クエスト受けに来たぜ~」


「うし、ほなふたりともここに座ってくれ……えぇっと」


 パラパラとリストをめくるシャチハタだが、すぐにその手を止めて噂話をした気ににやけながら顔を近づけてきた。


「そういや、アンタらこの噂知ってるか?」


「噂?」


「フェローチェ・パーティーのことやがな。アイツんところ今メッチャ人やめてるらしいで」


「え?」


「金はあってもあぁも暴君体質の組織やしな。持ち逃げのことがあってからもうガタガタや。もうかつての3分の1もおらへんのとちゃうか」


 アンネリーゼたちが快進撃を続ける中、かつてのアンチクショウのパーティーの統率は崩れてしまっているらしい。


「そういや、最近のし上がってきたギルドパーティーがあってな。確かそのリーダーの名前ミセリアって言うんやけど、アンタ知っとるか? アンネリーゼちゃんのことずっと気に掛けてるらしいわ」


「知ってるもなにも。その人は私の先輩です。フェローチェ・パーティーにいたとき、よくしてくれた人なんです。そうですか……あの人、今自分のギルドパーティーを」


「アンネリーゼちゃんと同じやな。皆、アイツを見限って自分の道を歩こうとしてる。……また挨拶しときや。アンタの活躍、めっちゃ喜んでたでぇ」


「はい、ありがとうございます」


 懐かしい人の名前を聞いて、どこかホッとした。

 今日もまたふたりはクエストを受ける。


 禁域指定のダンジョンを乗り越えたふたりは、ダンジョンで今日も大暴れ。

 数日とは言えブランクを感じさせない動きに対象の魔物たちは掃討されていく。


 充実した時間だった……。





 場所は変わり、とある別荘の一室。


「このたびはお招きいただき誠にありがとうございます」


「ギルド長、仰々しい挨拶は抜きです。まぁどうぞおかけになって」


 部屋いっぱいに飾られた芸術作品。

 封印街の絵画たちは世界中にばらまかれ、格式ある家のもとに届けられている。


 そんな中でもここに飾られているのは『彼女』のお気に入り。

 

「して、カトレシア様。本日はどういったご用件で私めを?」


「この間の封印街のお礼を再度、と思いまして」


「ギルドの者として当然の対応をさせていただいたまでです。再度の礼など大変恐れ多い」


「"お父様"も今回のことに関しては大層お喜びでしたよ」


「なんと!」


「ギルド中枢部への昇格、叶うと良いですね」


「は、ははッ!!」


 お父様と聞いたとき、ギルド長は思わず立ち上がり、歓喜のあまりそのまま腰を屈める。

 

「なんとお礼を申し上げればよいか……あぁ、感謝の極み」


「フフフ、喜んでいただけてなによりです。さて、我が兄フェローチェのことですが」


「フェローチェのこ……、いえ、フェローチェ様のことですか?」


「あの横暴さゆえ、家族に愛想を尽かされ半ば勘当された身。私は長らく彼を擁護しておりましたが、力及ばずあそこまで落ちぶれてしまった。お父様はお怒りです」


「……ど、どうなさるおつもりですか?」


「お父様は私に対し、早急にフェローチェの傍を離れ、二度と近寄るなと仰せです」


「つまり、フェローチェ・パーティーには今後貴族の方々からの融資は」


「えぇ、受けられません。仕方のないことですね」


 ギルド長は押し黙る。

 これまでにいくつものギルドパーティーが崩壊しメンバーがバラバラになっていくのは見てきた。


 だが、今目にしているのは最早、歴史的瞬間とも言えるレベルだ。

 自分より目上の存在たちの決断の応酬に、どうして横槍を入れることができようか。


 だからこそ歯がゆい。

 なにより、今後ギルドはどうなってしまうのか。


「ギルド長、相談したいことがあるのですが」


「は、なんなりと」



 変わらぬ細い笑みに妖しい艶が帯びていく。



「私もギルドパーティーを作ろうかと思うのですが?」


「ギルドパーティーを? カトレシア様が?」


「はい」


 カトレシアがなにを考えているのか。

 その美しい笑みの奥にある意図を読み取ることはできない。

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