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あの魔導人形は今……

 封印街クリア後、ラクリマが使い魔をハンニバルにやったことで、救援が早くに来た。

 作品ともどもハンニバルへと戻ってきたアンネリーゼたちを出迎えてくれたのは。


「ブラボー! こんなにもたくさん作品を持ち帰ってくれて私も嬉しいですわ」


「カトレシア様。ご依頼の品はこれで全部です。封印街に関してのレポートはまた後日提出いたします」


「わかりました。ご苦労様ですラクリマ女史。……アンネリーゼ様! お怪我はありませんか?」


「え、あ、うん。大丈夫だけど」


「よかったですわぁ。アナタになにかあったらどうしようかと……」


 などとすり寄ろうとしたカトレシアを遮るようにクライメシアが割り込む。

 

(けい)が心配する必要はない。わたしがいるからね」


「────友達の安否を気遣うのがおかしいですか?」 


「まぁまぁふたりとも。……カトレシア、クエストは達成した。明日ギルドで報酬を取りに行くから」


「はい。差し上げますとも。あ、お昼にお茶など……」


「悪いけど、ごめんね。また今度に」


「あらそうですか。残念ですね。────では皆様、明日までごきげんよう」


 挨拶を済ませたあと、帰路につく3人。

 クライメシアはお気に入りのハーモニカを吹きながらアンネリーゼとヴァレリィのうしろを歩いていたが、どうも不機嫌そうだった。


「ねぇクライメシア。カトレシアと仲良くしたら」


「……そういう卿も仲がいいとは言えないじゃあないか」


「私は、う~ん、ちょっと苦手って感じかな。でも悪い子じゃないと思うんだけど」


「まぁ、卿がそう思うのなら……」


「女の交友関係、おっかねぇ」


「あの人は特別だよ。さぁ、屋敷見えてきた。そうだ。しばらく休暇取らない?」


「お、休暇かぁ。いいな。ここんとこ働きづめだったからよぉ。明日にゃドカッと報酬貰えんだからパァーッとやろうぜ!」


「パァーッとか。うん、いいね、それも」


「それも? ほかにやりたいことあんのか?」


「ま、ちょっとね」


 それから数日たった。

 時間の流れは目まぐるしく、彼女らの近況も変わった。


 莫大な報酬を用いて屋敷を改築した。

 新しい工具や部品も購入し、工房の質も上げる。


 ────そして、アンネリーゼはついに完成させた。


 休暇のほとんどを消費して作り上げた新たな存在。

 ヴァレリィとクライメシアをリビングに、アンネリーゼはお待たせしましたとウキウキした様子で紹介する。


「ほら、入ってきて」


「では、失礼いたします」


 廊下から出てきたのはメイド服を着たひとりの少女。

 ウルフレッグの長い髪に翡翠の瞳。


 物憂げな表情から見れる上品さと神秘的な雰囲気にヴァレリィもクライメシアも目を見張る。


「お、おい、この、メイドのねーちゃん、どうしたってんだ?」


「アンネリーゼ、もしやこの娘は……」


「あ、クライメシアにはわかっちゃうか。……そうだよ。以前にモミジ谷で戦った魔導人形」


「い゛ッ!?」


 ヴァレリィが怯えたような形相で飛び上る。

 その様を見ながら、かつての魔導人形は長いスカートを摘まむようにして仰々しく腰を折った。


「お初にお目にかかります……と、言いたいところではございますが、以前に矛を交えた者同士であるとうかがっております。生憎、その記憶は完全に消去され私は新たな私として生まれ変わりました。今後はこのお屋敷にてお世話をさせていただきます」


「たまげた。工房でなにをしているかと思えば……。しかし全体のイメージがガラリと変わったようだな」


「顔の輪郭とか、あと瞳も少し変えてみたの。皮膚の質感なんてすごいよ? 魔導人形に使われる人工皮膚って結構高いから中々手に入らないんだけど。ホラ、こないだの報酬で取り寄せられたから」


「その件に関しましては、マスターには感謝してもしきれません。これから誠心誠意を以てお仕えさせていただく所存」


「アハハ、うん、これからもよろしく。あ、そうだ。名前つけてあげないとね!」


「名前、ですか? 私はただの魔導人形です。名前などなくても人形とお呼びすればわかりますが」


「いやいや、これから仲間としてやってくんだから。名前くらいないと」


「そう、でしょうか。かしこまりました。では、マスターの望むままのお名前を」


「そうだなぁ。う~ん……ねぇ、名前なにがいいかな」


「いや、決めてなかったのかよ!」


「そこまで頭回らなくて……」


「つってもよぉ……じ、じゃあ! こんなのどうだ、"アモル"!」


「アモル……、愛という意味ですね。わかりました」


「へ? 愛?」


「卿よ、わからずに適当に言ったのか」


「いや、うん、なんかポンと浮かんだのがこれで」


「まぁ、良いのではないかな? アモル、素敵な名前だ」


「アモル、アモル、アモル、アモル、愛、愛、愛……不思議です。この言葉、この名前を聞くと、とてもポカポカするのです」


「気に入ってくれたみたいね。じゃあ、今後ともよろしく、アモル」


「はい、どうぞ末永く。この私を御身に」


 こうして屋敷にまたメンバーが増えた。

 アモルの性能はアンネリーゼの折り紙付き。


 掃除、洗濯、料理に買い出し。

 家事におけるあらゆるスキルが完璧なまでに備わっている。


 なのだが……。



「ヴァレリィ様」


「のわっ!? て、て、テメェ! 俺の背後に音もなく立つんじゃあねぇ!!」


「申し訳ございません」


「何回目だよこれ……頼むから今度は普通に声かけろ。で、要件はなんだ?」


「はい、それが────……」


 アモルはあぁしてヴァレリィの背後に立って声をかける。

 しかも何度もだ。


 なぜ彼女がそんな行動をするのか不思議でならなかった。

 ちょっとした好奇心がうずき、聞いてみようかなと思ったときだ。


「アンネリーゼ、ちょっといいかな?」


「クライメシア? 珍しいね。昼下がりなのにリビングで本読んでるなんて」


「卿を待っていたのだよ。ちょっとわたしの部屋まで来てほしいのだ」


「ん、いいよ。どうしたの急に」


「……卿に見せたいものがある。まぁ来てくれ」


 クライメシアの書庫。

 入って一番最初に目についたのが……。


「これって」


「そう、以前あの魔導人形から摘出したあの部位だ」

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