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悪夢のような街の外で

 気が付けばそこはあの巨大な渦の真ん前だった。


 日は水平線の彼方へ。

 点々と散らばる星が夜を運んでいる。


 その空の下で、一行は地面に倒れ伏していた。

 クライメシアは少し離れた場所で海を眺めていた。


「う……ここは。あ、ヴァレリィ、皆!」


「いでででででで、なんだ、なにが起きやがった」


「うぅん、ラクリマ姉様?」


「う~ん、あと2時間……」


「いや、姉様、起きてください」


「どうやら、外へ出られたらしいな……。おい、見ろ。俺たちの乗っていた馬車が」


 ハーストの指す先には古びた馬車が。

 しかし馬の姿はどこにもなかった。


 まるで初めからそんなものはいなかったかのように。

 奇妙ではあったが、あの作品たちを確認すると確かにあった。


「作品は無事みたいだぜ」


「ってことは、クエスト達成か? ヒャッホウ! やったぜ!!」


 ヴァレリィが飛び上がり、ハーストが胸を撫で下ろす中、アンネリーゼはふと渦のほうに振り向き、街でのことを思い出していた。


 偏見と憎悪による惨劇の街ヨフゼフ。

 今なおもって謎多き禁域。


 意識も知識もどんどん変わっていく中、70年も変わらずこの大いなる渦は顕在し、このままい続けるだろう。


「なぁ、これどうやって運ぶよ? こんだけの量押してけってか?」


「シッ、黙ってろ」


「はぁ? なんで……」


「……レディたちの気持ちをくんでやれ」


 ハーストとヴァレリィはしばらくその場で立ち止まる。

 ラクリマとグレイスはなにかを話し合っていた。


 そしてアンネリーゼはクライメシアのもとへ。


「クライメシア」


「……見たまえ。紫苑とピンクの世界をバックに廃港が佇む。良い絵になるのではないかな?」


「……うん、綺麗だね。あの人たちにも見せてあげたい」


「もう永遠に叶わないだろうがね」


「……絶対に?」


「無理だ。死んだからじゃない。彼らはこれまでに何度も死んでいる。民衆と同じだ。差異はあれ似たような歴史を歩んでいるのではないかな? 我々のような者を待ち続けるために」


「それじゃあ……」


「レジスタンスも判事も民衆も……地獄を繰り返す」


「どうにかできないの?」


「特定の条件がわかればできるかもしれない。確証はないがな。だがそれでも彼らが救われるとは限らない。……もう一度入るか?」


 クライメシアの淡々とした言葉に、アンネリーゼは静かに首を横に振った。

 クエストは終わり、夜の(とばり)は落ちていく。


 幕が降りたなら役者は退場するのが、この世の常だ。

 しばらくふたりで海を眺めていた。


 



「姉様、私、悪い妹です」


「……言ってごらんなさい」


「私にとって姉様はこの世のすべてです。姉様のお手伝いをすることが私の喜びです。でも……でも私、自分勝手な思いを抱いてしまいました」


 ラクリマは柔らかな表情を崩さず黙ってグレイスの次の言葉を待つ。


「私、いつかヨフゼフの封印街の謎をすべて解き明かしたいです! あの街でなにが起きたのか、どんな人たちがいて、どんな思いで生きてきたのか……すべて、すべて」


「そう、自分のやりたいことが見つかったのね。素敵よグレイス」


「う、うぅ……」


 最愛の姉に抱擁されながら、グレイスは写真を握りしめる。


 

 人は繰り返す。

 心に影が覆うと、途端に狂暴になり、晴れてみれば口々にこう言う。


『あのころは時代がおかしかったんだよ』


『あんなことはもう二度と起きちゃいけないね』と。


 人は繰り返す。

 グレイスは歴史に興味を持ちながらも、そんな歴史が大嫌いだった。




 しかし、だからこそ────。


 彼らの描く色彩は。

 彼らの奏でる音色は。

 彼らのつむぐ物語、その人々は。


 時代に負けぬ美しい輝きを放つのだろう。

 命をかけて守りたくなるほどに。


 繰り返されるしかない人間性からの解放、そして自由の美しさ。

 不器用であろうとそれを愛おしいと思う心を、誰が責めることができようか。



 ────それがもしも、『ロマン』と言われる古くからなる感性ならばなおのこと。

 

 


 




はい、封印街編終了!

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