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vs.アンラマユー判事

 アンラマユーは空間転移を使いこなす。

 拳や足技など、物理的な距離を無視するように繰り出していった。


「く、奴の射程範囲は広い。突然隠れては現れるから神出鬼没だ」


「あのヤロー、デカい図体してなんて戦い方しやがる」


 一番前で戦っていたヴァレリィとハーストがその脅威に歯を噛み締めていた。

 勇気を出したレジスタンスの協力も経てアンラマユーに攻めかかるも、空間転移で翻弄し次々といなしていく。


「うぉぉおお! さすがは判事様だ! 連中をぶっ殺せ!」


「正義は我らにあるぞ! 判事様万歳!!」


 民衆の声援を受け、アンラマユーはさらに得意げに笑って見せる。


「ウワァーッハッハッハッハッ! 愚かなレジスタンスども。こやつらの力を借りればどうにでもなると思っていたか? 浅はかな。もっとも、こんなことをしてもお前たちの破滅は決まり切っているがな」


「どういうこと?」


「ふふふ、若いな。分断するときに気づかなんだか?」


「まさか……事前に民衆を分断して」


「然り。すでにお前たちのアジトはつきとめてある。時間にして大体20分程度か。ふふふ、貴様らが後生大事にしているお宝が炎に包まれるのが目に浮かぶわい」


「なんてひどい。アナタには人の心がないんですか!? この街の素晴らしい絵画や音楽をどうしてここまで!」


「黙れ! 絵だの音楽だのなんの価値もないものにうつつを抜かしおって。しかも女神だの美女だのと。こうして処分することで連中の目を覚まさせてやっているのだからむしろ功徳というものだ。だのに連中はこうも醜くしがみつき……あぁ嘆かわしい嘆かわしい。連中は異常者に成り下がった人間未満の存在だ。だから処刑してやったのだ。いや、駆除というべきか。ウワッハッハッハッハッハッ!」


「なにそれ……ようは自分の感性が合わないからって、権力使って好き勝手してるだけじゃない!」


「小娘連中はうるさいな。……ん? そう言えば、あの奇抜な格好をした女がおらぬな。なるほど、アジトで待っているということか。よし、貴様らを殺したあと、その女も火炙りにしてやろう。ウワァーッハッハッハッハッハッハッ!!」


 アンラマユーの高笑いに背後の民衆も高笑いする。

 彼らの目にはもう炎しか映っていない。


 処刑に酔いしれ、本来の目的と逆転してしまっている。

 これが歴史には語られなかった異端狩りの恐ろしさ。


 "自由"と"強要"。

 本来相容れないはずのふたつの概念。


 だが、ふたつは暴虐よって無理矢理結合させられた。

 結果、処理しきれないほどの膨大な矛盾を、その心に抱えることになる。


 ────それが封印街の惨状なのだ。


 その名のとおり。

 闇と時空の奥深くに封じなければならないほどに。


 

 グレイスは怒りに拳を握りしめる。

 この理不尽・不合理を、邪知暴虐の判事を許すことができなかった。


 そしてそれはヴァレリィやハーストも同じである。

 だがそれ以上に……────。


「もっぺん言ってみろ……」


「あ、アンネリーゼ、さん?」


 あれだけ手こずって後退りをしかけていた彼女の雰囲気が一変。

 瞳にはドス黒い殺意が宿り、自慢の武器を持つ手に一切の震えがない。


「なんだ小娘。このワシとやろうというのか? やめておけ。お前のその回転機構は確かに驚きだが、そんなものワシには……」


「そんなこと聞いてんじゃない」


 一歩、また一歩と前へ出る。


「絵や音楽に価値がない? 異常者? 人間未満? ……あの人を火炙りにする?」


 『天国への車輪(ヘブンズ・ウィール)』が唸りを上げながら、ジワジワと魔力を放出していった。

 

「いい加減にしなさいよ! 自分のやってることが、ただのワガママだってわかんないの!?」


 ────ガシャン!! ズガガガ! ズギャアアアッ!!


 ヘブンズ・ウィールが変形した。

 中央の軸が露出するように円盤がふたつに分かれる。


 魔力をまとった蒸気が勢いよく放出され、各部が繋がり合うような機械音が響いた。


 ────『ヘブンズ・ウィール=ツヴァイト・ギア』


「な、なんだあの形?」


「いや、わからねぇ。アイツと組んでるけど、こんなのは見たことねぇ」


 アンネリーゼから放たれる怒りと闘気にヴァレリィもハーストも息をのんだ。

 グレイスでさえ、先ほどまでの怒りが吹っ飛んでしまうほどにその勢いにのまれた。


「わかんないってのなら。ぶん殴ってでもわからせてあげる」


「……貴様、小娘。なぜだ、なぜそんなにも怒る? 作品如きに、見ず知らずの人間のために」


「アンタにはわからない。大切な人が大切にしているものを侮辱されてたり、殺されようとしているのがどんなに辛いか。傷付けられることがどれだけ哀しいか。……アンタは正義を盾に人の心を踏みにじった」


「おのれ、言わせておけば!!」


 アンラマユーの殴りかかりを容易く躱す。

 先ほどより回転威力の増したヘブンズ・ウィールを振り回した。


「ヘブンズ・ウィール!!」


 呼び声に反応し軌道を変えてアンラマユーに襲い掛かる。

 ワイヤー操作との掛け合わせで、空間転移にも負けないトリッキーさを生んでいた。


(ふん、馬鹿め。貴様の攻撃、見切ったぞ!)


 次の瞬間、アンラマユーの手刀がワイヤーを切り裂いた。

 凄まじいパワーとスピードにより切り離され、アンネリーゼは体勢を崩す。


 すかさずアンネリーゼに手が伸びて、今にも握りしめんとガッチリと捕まえた。


「アンネリーゼちゃん! 野郎……彼女を放しやがれ!!」


「テメェ! もう許さねぇ!」


「アンネリーゼさん!」


「動くな! コイツを握りつぶすぞ。ウワッハッハッハッハッハッ!」


 高笑いしながら視線をアンネリーゼに映す。

 だがすぐにそれは止まった。


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