クライメシア合流
「え、クライメシアが!?」
「えぇ。もう少し待っててと言っていたわ。ただ……」
レジスタンたちとは離れた場所で、ラクリマはあの民衆たちの歪な再生能力のことを彼女に話した。
見ただけで怖気が走るものだったが、クライメシアの腕ならまず手こずることはないだろうとも。
「クライメシアはこうも言っていたわ。ここは自分のいた階層の空気によく似ているって」
「それってどういう……」
「わからない。時空の歪みによって色んな法則が歪んでいるのかも。『深淵への階段』でも同じことが起きていて、クライメシアはその気配を感じ取っているのよ」
「な、なんか一気にスケールが大きくなったような」
「そうねぇ。でもどんな力場が発生しているにせよ、そこには必ず原因があるわ。もしかしたら、なにか関係があるのかも。……十分な調査をするには時間も人員も足りない。残念だけど……」
「そう、ですね」
ふとレジスタンスたちを見やるふたり。
回収した作品の整理を行っており、ひとつひとつを見て目を輝かせている。
「あの人たち、すっごく嬉しそうですね」
「えぇ」
「ようやく作品を安全な場所に移送できるって、すっごく張り切って……」
「犠牲も多かったみたいよぉ。何人もの仲間が目の前で殺されたって……」
「……どうしてここまで、命をかけられるんだろう」
「アンネリーゼ?」
「いや、別に否定をするってわけじゃないんです。私、芸術とかそういうの詳しくないから価値とかわからないですし……なんでなのかなって」
「美しいと思うものを守ろうとしているっていうの、私はわかるわぁ。特にグレイスなんかはね」
「すみません勉強不足で……」
「謝らなくていいわよ。芸術って色んな側面がある。自分の魂の切り売りであったり、それこそその作家が生きた時代を映す鏡のようなね」
レジスタンスがなぜ作品を守るのか。
それは彼らが生粋の"街の住人"だからだ。
芸術や神話を愛する街で、きっと多くの作品に触れてきた。
物言わぬ作品に詰まった作者の情熱、狂騒、苦悩、そして希望。
作者が愛する作品を彼らもまた愛した。
それは憧れであり、他者の精神に触れるもっとも身近な象徴。
「彼らも言っていたでしょう。精神の自由。美しく力強い生命力に溢れたものに共鳴し、自らもその一部であるという自覚と誇りを持って生きる。……彼らにとって、そう言ったものが好き勝手に破壊され消えていくことは耐え難いことなんでしょう」
「そう、なんですか……」
「グレイスも私も同じ。あれほど素晴らしい作品が消えていくなんて……」
「……守りましょう。彼らの想いを」
「えぇ、そうね」
ふたりは並んでレジスタンスのほうへと戻る。
するとようやくクライメシアが帰って来た。
「失礼、合流が遅れてしまって申し訳ない。おぉっとアンネリーゼ。そう怖い顔をしないでくれ。怒鳴るのもなしだ。これでも一生懸命に働いてきたのだから」
「心配したのわかってる?」
「もちろんだとも。わたしの好奇心で卿に余計な心労を重ねてしまったこと、深く詫びる」
「……もう。ホラ入って。これから作戦会議をするから」
「ほう、ということは……」
「うん、この街を離れるために動くときが来たの。障壁は大きけど」
「微力ながら加勢しよう」
「ふふ、クライメシアがいれば百人力、いや、億人力じゃないかな」
「ずいぶんと期待されてしまっているものだ。それに応えられるよう粉骨砕身で挑もうか」
「マジで砕かれないでね? いや、ホントに……」
「さぁ、どうだろうな? クスクス」
アジトへ戻る3人。
クライメシアにとってはようやく初めて入る場所。
「お初にお目にかかる。わたしはクライメシア。アンネリーゼたちが世話になったね」
「貴殿がそうか。無事合流できてよかったな。聞いたところによると、相当な使い手だとか」
「言うほどでもないさ」
「ふふふ、中々に肝の座った御仁らしいな」
(それどころか化け物の頂点みたいな奴なんだよなぁ……)
ヴァレリィが内心どんよりとあのときのことを思い出す。
「じゃあ、そろそろ作戦会議を」
「うむ、始めよう。諸君、これが我々最後の戦いだ!」
静かに、それでいて強く頷く。
絵画のひとつに、革命の前夜を描いたものがあったが、まさにそのワンシーンを再現しているかのようで、全員の士気がより上がった。




