禁域指定:『ヨフゼフの封印街』
「ではお話ししましょう。……依頼は探索、そしてある物品の回収がメインになります」
ギルド長に淹れてもらった紅茶をたのしみながらも、単刀直入に依頼内容を話していく。
「結論から申し上げれば……『禁域指定』に入っていただきたいのです」
これを聞いてアンネリーゼとギルド長はちょうど含んでいた紅茶を盛大に吹き出した。
ヴァレリィはキョトンとし、クライメシアは小首を傾げている。
どういうことかわかっている者とそうでない者が綺麗に半々に分かれた。
「か、カトレシア様! それは一体どういうことですか!?」
「そうだよ! 禁域指定の意味わかってる!? 立ち入っちゃいけないの! どんな理由があろうと入っちゃダメ!」
「あらあらあらあら、ふたりして声を張り上げるなどはしたない。わかっていますよ。でも特別許可証があれば問題はないでしょう?」
そう言って上等な紙質の封筒をギルド長に手渡す。
封蝋のデザインからして、ハンニバル中枢部のものだ。
ギョッとしたギルド長はすぐさま中身を確認すると……。
「……確かにこれは特別許可証。ん? お、お待ちください……────『ヨフゼフの封印街』!? あ、あそこへ行かせるというのですか!?」
「封印街って……70年前に謎の霧が覆い尽くしたっきり外部との接触がなくなったっていう?」
「おいおいおいおい、勝手に話進めんなって。一体どういうことだよ。禁域指定だぁ? 封印街だぁ? ちょっと、キチッと説明しろ」
禁域指定。
ダンジョン、もしくはある特定の場所には何人たりとも踏み入ってはならないというルールがある。
そういう意味では『深淵への階段』もまた同じだ。
入るには中枢部からの特別許可証がいるのだが、なぜかカトレシアはそれを持っている。
「中枢部とは少しばかり個人的なご縁がありまして……。実はどうしても必要なものがその封印街にあるのですよ」
「必要なもの?」
「あそこにはまだ歴史的な芸術品の数々が眠っているというのです」
ヨフゼフの封印街。
封印街と言われる前は、活気に満ち溢れたどこにでもあるような街。
なにより芸術と神話を愛する芸術家や詩人も多く、彼らの作品はこのハンニバルにも知れ渡っている。
だが、70年前のあるときよりパッタリとその栄光と名誉の音色は人々の耳には聞こえなくなった。
まるで厳重に鍵をかけられたかのように、霧とともに街の門は閉ざされたままになっている。
「アナタ方は『ヨフゼフの灯火』というのはご存じですか? 真夜中、あの封印街から上空に向かって飛ぶ光の玉。多くの旅人が目撃しております。調べましたところ、あれは70年前に使用されていたかなり古いタイプの照明弾だそうですよ」
「まだ人がいるってこと?」
「それはわかりません。外部との交信を試みているなにかはいるようなのですが……、こちらからの交信には一切答えないのです。伝書鳩も発光信号も、はては魔術による交信も反応はなし」
それは人か、はては異形か。
未知なる恐怖が心にまとわりつくも、アンネリーゼの興味は途絶えなかった。
「今、専門家の方々をお呼びしています。込み入った調査はその人たちにお任せして、アナタ方はその芸術品たちを回収・保護してほしいのです」
「もしも、中に人がいて、助けを求めてたら……」
「判断にお任せしますが、どのような場合でも芸術品が最優先です。なるべく多く持って帰ってきてもらうとありがたいのですが……」
カトレシアはアンネリーゼに受けてもらうことを前提に話している。
そも、こういった話はそれこそアンネリーゼたちよりも遥かに高ランクのギルドパーティーに依頼すべきなのだが……。
「卿はずいぶんとアンネリーゼのことをかっているのだな。その自信はなんだ?」
「友人を信頼する。いけませんか?」
「……いいや、別に。だが、その封印街というのにいささか興味が湧いた。どうだねアンネリーゼ?」
「私、行ってみたい、気もするけど……」
「ん、おいどうした? お前らしくもねぇ。てっきり行こうっていうんじゃねぇかと思ったが」
そうなんだけど、と口を濁す。
未知なる冒険があるのはわかってはいるが、今の自分たちで大丈夫だろうかという不安があった。
もしも自分ひとりであれば、というのなら、彼女はすすんで行くだろう。
だが、こうしてパーティーを組んでいる以上軽率な判断はできない。
クライメシアやヴァレリィの実力を信用していないわけではないが。
これまで以上に慎重になっていたそのとき、ドアがノックされる。
「……どなたかな?」
「カトレシア様のご依頼を承った者です」
(え、この声……)
入ってきたのは────。
「あら、アンネリーゼ。アナタも依頼を受けるのぉ?」
「アンネリーゼさん! あぁ、お久しぶりです! 元気でしたか!」
ラクリマとグレイスの姉妹。
彼女らこそ、クエストに参加する専門家だった。
ここでアンネリーゼの目の色が変わり……。
「行きます。やらせてください! 全力で挑みます!」




