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ギルド長の尋問、カトレシアの来訪

「いや、すまないね。来てもらって……さぁかけたまえ」


 ギルド長との面談。

 日程調整の結果、大猿クエストの3日後だった。


 貴族の屋敷の一室のような応接室。

 ここだけ別次元的な内装で、外とのギャップにくらくらしそうだった。


「素晴らしい造りだろう? このギルドはほかとは違って貴族の方が訪れる機会が多くてねぇ。こうして常に美しく整えているのだよ」


「は、はぁ……」


「おい、一体なんのようだよ。俺たちは忙しいんだが?」


 相変わらずの無礼な態度をとるヴァレリィをアンネリーゼが鋭くいさめる。

 ヴァレリィはどうもギルド長のようなタイプの人間が苦手らしい。


 むしろ敵意に近いものを抱いている節がある。

 短気な彼のことで、こうして態度に出てしまうのはアンネリーゼとしても、近くにいてずっとハラハラしていた。


 しかしギルド長は慣れたような態度で話を続けた。


「ハッハッハッ、度胸があっていい。若さとはそうでなくては。……さて、本題に入ろうか」


 上座に座り向かい合うふたりを裁定するような視線を向ける。

 

「まずはBランククエスト達成おめでとう。君たちのような新進気鋭のギルドパーティーがこうして結果を出してくれることは、我々ギルドとしても喜ばしいことだ」


「は、はい。ありがとう、ございます」


「あの大猿を倒したそうだね? 我々ギルドには、報酬の受け渡しの際にあとから不正が発覚していざ取り返そうとしてもすでに使いきったあとだった、というのを未然に防ぐためにこちらでクエスト達成報告が本当か否かを確めるための術があるというのは知っているかな?」


「あぁ、それは知っています。ただそれはギルド長を含む一部の人しか知られてないシステム、だとか」


「そのとおり。ここまでは割りと知られていることだからあえて説明ははぶく。……今回のこともだ。我々は君たちの報告を確めた。結果は真実。ゆえに報酬を迷いなく渡したわけなのだが……」


 ギルド長の目はもう笑ってはいない。

 猛禽類にも等しい眼差しをアンネリーゼたちに向けながら、彼得意の尋問を開始する。


「噂によると君たちはふたりで組んでいるようだが、たったふたりであの大猿を倒したのかな? あの軍隊ですら手に負えなかったあの化け物を、たったふたりで?」


「おい、なにが言いてぇんだ」


 ヴァレリィがイラつき始めた。

 彼自身、クライメシアの存在を明かすべきでないというのは理解している。


 だがこうも詮索されると感情に出てしまうのがヴァレリィの欠点だ。

 そんな彼に物怖じすることなくギルド長は続ける。


「君はたしかヴァレリィ、君だったな。……祭りの日、あの魔導戦士ハーストと喧嘩してボロ負けしたそうじゃあないか。……彼は一流の戦士ではあるが、あの大猿相手に無傷で勝てるかどうかと言われると、さすがにそれは難しいのではないかと思うのだよ。だが、君たち……あの戦いのあと、()()()()()()()()()()()()()()()()


 この言葉にアンネリーゼは心臓が跳ね上がったような感覚に襲われた。

 嫌な汗が吹き出し、手足が震える。


 その反応をギルド長は見逃さない。

 

「……フッ、若いな。もう態度に出てしまっている。舐めるなよ。私がただイスにふんぞり返っているだけの無能かなにかと思っていたのか? 答えろ。どうやってシステムをかいくぐった? いや、そうではない別の手段かもしれないな。……どうあれ、お前たちの現段階の実力ではあのクエストは無理なことはわかりきっている! なのに達成しあろうことか無傷で帰還するなどありえん。さぁ────」


 突如場の空気が"変異"した。

 アンネリーゼたちにとっては助け船、ギルド長にとっては形容しがたい招かれざる客。


 ────クライメシアの登場だ。


 壁に寄りかかるようにして佇む彼女を見て、思わず立ち上がるギルド長。

 先ほどの余裕とはうってかわり、幽霊でも見たかのように青くなっている。


「き、貴様ッ! 何者だ! いや……どうやって、どこから入った!?」


「すまないね。(けい)の話をずっと"ここ"で聞いていた。わたしはクライメシア。この娘たちのギルドメンバーの()()()だよ」


「ギルドメンバーの、ひとり……? 待て、お前がいるなどという情報はまったくないぞ?」


「わたしはアンネリーゼとは遠縁にあたる者で、つい最近このハンニバルにやって来た。いつもは彼女の屋敷に籠らせてもらっているのだが、たまには身体を動かそうと思って、ついでしゃばってしまったのさ。これが卿にいらぬ誤解を与えてしまったらしい。彼女らは悪くないよ」


 クライメシアの得体の知れない気配に押し黙るギルド長。

 蛇に睨まれたカエルのように身体が震えて動けない。


(長らくこの仕事をしていると、多くの強者や知恵者を目の当たりにする。そんな私の感覚と経験則が告げている。────()()()()()()()。変に踏み入れるとロクなことにならないタイプの存在だ)


 柔らかな女神的な微笑の裏側に隠された本性に、ギルド長はすっかり勢いを失ってしまった。


「……恵まれたなアンネリーゼ君」


「あ、はい。どうも……」


「クライメシア、か。覚えておこう」


(これは、なんとかなったっぽいな。ふへぇ、アブね~)


 とりあえずは危機は免れた。

 ギルド長もクライメシアが現れてからは、妙に静かになりそのまま解放されるかと思ったのだが……。


 ────コン、コン、コン。


「誰だ?」


「私です」


「この声は……! い、今ドアをお開けいたします!」


 突然の来客、そしてその声の主に非常に驚いているようで、ギルド長はまるで慣れた召使いのように仰々しくそのドアを開けた。


 アンネリーゼは思わず呆然となる。


「あら、アンネリーゼ様。アナタが応接室にいらっしゃるなんて珍しい」


「カトレシア?」


 またの再開にカトレシアは嬉しそうに顔をほころばせ、アンネリーゼは作り笑いを浮かべる。


「ちょっとした依頼を受注していただこうと思ったのですが、お邪魔でしたでしょうか?」


「いえ、ちょうど終わったばかりでしたので。どうぞカトレシア様。今、お茶をお淹れいたします。君たち、もう帰ってもいいぞ。今後とも励むように」


「お待ちください。彼女らにも聞いていただいてもいいですか?」


「か、カトレシア様からのご依頼を、ですか? しかし彼女らはまだ……」


「────なにかご不満でも?」


「あ、いえ、……そのようなことは」


「よかった。ではこの方々にも紅茶をお出ししてください」


 カトレシアは確かに妖しい雰囲気を持つ少女だ。

 だが、彼女のなにが周りをそうさせるのか未だにわからない。


 物腰柔らかに見えて、どこか重圧的で恐ろしい。

 それでいてどこか安らぎと母性的なものをかね添えた声で他者を導くのだ。


 ギルド長が席を外している中、アンネリーゼに出会えて上機嫌そうなカトレシアはふとクライメシアに目をやる。


「……」


 一切の反応をしないクライメシアを、しつこいまでにジィィィッと見つめる。

 妙な空気が流れる中、アンネリーゼは依頼の話を聞こうとした。


「それで、カトレシアの依頼っていうのは?」


「あぁ、そうでしたわね。ですがまぁ、紅茶が来るまで待ちましょう。ゆっくりと話したいものですから」




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