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ふたりの答えは……。

 ふたりの距離は間近まで至る。

 月が見下ろす中でクライメシアは笑っているが、アンネリーゼは陰影で表情はうかがい知れない。


 ヴァレリィは立ち上がりながら彼女に力なく手を伸ばしかけ、クライメシアはじっと彼女を見据えていた。

 血の匂いを洗い流すかのように、そよ風が3人の肌を撫でる。


 クライメシアが期待の眼差しにも似た視線を向ける中、アンネリーゼが口を開いた。


「そういうの、……ないよ」


「ん、ないとは? わたしがおぞましい化け物だから────」


「そういうこと言ってるんじゃない!」


 アンネリーゼのキツい口調とその目つきに、思わず余裕の笑みが消えた。

 じっと観察するような目つきで、プルプルと震えるアンネリーゼの次の言葉を待つ。


「そうやって人をからかうの、悪趣味!」


「……なに?」


「悪趣味って言ったの! そりゃあ、クライメシアのことだから、なんかすごい秘密があるのはわかってた! でも、こんなやり方ってある!? ホントに……ホントに死んじゃったかと思ったんだよ!?」


「え、いや、待て……(けい)よ、そこなのか?」


「そこもどこもない! はぁ~もう、ビックリさせないでよバカ!! 二度とこんなことしないで!」


「え、あ、その……」


「わかったの!? わからないの!?」


「わ、わ、わかった! わかったから落ち着け! 大丈夫だもうしない。死なない限りはな」


「死なないで!」


「もうわかったから!」


 そんなふたりの様子をヴァレリィは呆然と見ていた。

 あの場から急に日常に戻ったかのような雰囲気についていけないでいるのだ。


 その雰囲気を作り出したアンネリーゼ。

 一体どういう精神構造をしているのか……。


「お、お、おい。おいったら!!」


「あ、ヴァレリィ。どうしたの?」


「どうしたの、じゃねぇよ! さ、さっきのは一体なんだ!? んでッ! なぁんでお前はあれ見て平気なんだよボケ!!」


「平気ってわけじゃあないけど……いや、なんでだろ、それよりもクライメシアが死んだことで頭がいっぱいいっぱいになっちゃって……」


「おっかしぃーだろぉーがッ!!」


 ヴァレリィは恐る恐る近づいていって。


「クライメシアよぉ、お前一体……なんなんだ? 魔物、なのか?」


「魔物と言えば、魔物なのかもしれないな。あの姿を見せて言い訳をするつもりはない」


 月夜のほのかな光があるとはいえ、ヴァレリィの顔色は死人のように悪い。

 今にも心臓が飛び出そうな思いを抑え込みながらも、ヴァレリィは必死に立っているのが分かる。


「それで、卿はどうするのかな? 化け物と一緒は怖いか?」


「ヴァレリィ……その、無理にとは言わないよ」


 クライメシアは微笑みを見せ、アンネリーゼはうつむいたまま彼に決断を委ねる。

 

「……アンネリーゼ、お前はコイツについていくのか?」


「彼女はね、深淵への階段(アトランティス)から来たの。探窟隊と一緒にいて、見たことない魔物に襲われて殿しんがりをやってたときに助けてもらったの」


「お前が……?」


「そのあとも助けてくれた。私は、クライメシアを信じたい」


 別に助けたわけじゃないんだがな、と言いたげな視線をアンネリーゼに向けながらも黙してヴァレリィの返答を待つ。

 クライメシアはヴァレリィを見極めようとしていた。


 彼の恐怖の感情のさらに奥。

 クライメシアは密かに銃に手をかけようとしていた。


 真の姿を見て、はいさようならというわけにはいかない。

 あの姿を見たからには秘匿ひとくともがらとなるか、それとも拒絶して死に体となるか。


 理不尽かつ非人道的な思想をその美貌に隠しながら待つ。

 そしてヴァレリィは溜め息交じりに髪をクシャクシャと乱しながら。


「わかったよ……。こうなりゃ一蓮托生いちれんたくしょうだ」


「ヴァレリィ?」


「……嫌々で承諾されてもこちらとしては迷惑なのだがな」


「誰も嫌だなんて言ってねぇだろ! それにな、別にアンタのことなんざ怖くねぇ! なぁんとも思ってねぇ! ちょっと……びっくりしただけだ!」


「ふ~ん……」


「な、なんだよその顔はよぉ! いいか。お前が何者かなんて知ったことじゃあねぇし、別に誰かに言うつもりもねぇ。……それでよ。急に食べたりとかはしないんだよな?」


「ん~? それはどうだろうか~? もしかしたら寝込みを襲って……」


「もう! クライメシアもからかわないッ!」


「わかった。すまない。なにもしないよ。ただヴァレリィ、ひとつだけ言い訳をさせてくれ。────詳しくは言えないが、わたしは元人間だ。このように人間の感性もまだ残っている。オーケイ?」


「オーケイ? じゃねぇよ。……まぁアンタは強いしな。いざってときはキリキリ働いてもらうからなッ!」


「善処しよう。だが、日中で陽が当たる場所では役立たずでな。時と場所を選んでくれるとありがたい」


 クライメシアが軽く肩をすくめてみせると、ヴァレリィも安心したように息を漏らす。


「アンネリーゼ、帰ろうぜ。明日、ギルドに報告だッ!」


 ヴァレリィが笑顔を見せて踵を返す。

 怖がりだが、実力もあり、切り替えも早い。


 仲間に恵まれたことを感謝しながら、アンネリーゼは彼のあとを追いかける。

 クライメシアは月を見上げながらハーモニカを取り出すと、いつもの軽快な音色を奏で、ふたりのうしろを歩いた。


 

 次の日、アンネリーゼたちはギルドへ報告。

 多額の報酬のみならず、大猿を討伐したということで、弱小ギルドパーティーそのものであったアンネリーゼたちの知名度はグンと上がった。


 これには彼女らを陰ながら応援してくれた同業者たちからも祝福の声が上がる。

 ギルド内ではシャチハタも鼻が高そうであった。


「いやぁ~、さっすがアンネリーゼちゃんや。初のBランククエストをクリアするなんて、やっぱモノがちゃうでホンマに」


 パラパラとレポートをめくりながら自分のデスクでニヤニヤとしていたときだった。


 ────バサッッッ!


 突如として背後からレポートを取り上げられる。

 

「ちょ、なにすん────ぁ、ギルド長……こりゃ、どうも」


 黄金の貴族服めいた衣装をまとう男。

 鋭い目でレポートの一言一句を黙読する姿に、シャチハタも口をつぐみ、場にも緊張の空気で張り詰める。


「……このアンネリーゼという少女。ここのところずいぶんと調子がいいようだな」


「そりゃあもうギルド長! 今あっしの注目のギルドパーティーでして、へぇ! 初めて見たときにピンときたんですわ! この娘はやるでぇ~って!」


「……」


 ギルド長は続きそうになる彼の言葉を遮るようにレポートを乱暴に返した。

 

「ぎ、ギルド長?」


「気に食わんな」


「へ?」


「聞けば、彼女は役立たずということでフェローチェ・パーティーを追い出されたらしいじゃあないか。……そんな奴が、ひとりになった瞬間にうなぎのぼりでこうも功績を上げていくとは……不自然とは思わないかねシャチハタ君?」


「え、いや……頑張っとるなぁ~としか」


「……昨晩、初のBランククエストをやり遂げたそうじゃあないか。ほ~う、あの大猿を! 国が頭を悩ますほどの力を持ったあの魔物を! 弱小ギルドパーティーが?」


「ギルド長、なにが言いたいんですかい?」


 普段陽気なシャチハタの表情が一気に険しくなる。

 

「────言われずともわかるだろ。連中を応接室まで連れてこい。……この私が直々に話を聞いてやる」


 ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らして執務室へと戻っていくギルド長を見ながらシャチハタはレポートに視線を落とした。


「あのギルド長が尋問かいな……こりゃあ、エラいことになったでアンネリーゼちゃん」

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