修行とクライメシアの正体
あれから数日経過した。
モミジ谷の風が都市ハンニバルに涼しさを運んできたようで、若干過ごしやすい気候へと変化していく。
店舗では次の季節に合わせた衣装や装備がポツポツ展示され始めていた。
品数はまだ少ないが、もう少し日数が進めばぞろりと揃えられて大盛況となるだろう。
そう、ギルドパーティーだけではない。
商人もまた慌ただしく、遥か向こう側で流れる入道雲を都市の背景に動き回っている。
そんな中でもアンネリーゼたちは変わらない活動を続けていた。
「おうアンネリーゼ、最近ずっと地下にこもってばっかだけど、なにしてんだ?」
「う~ん、ちょっとね」
「なんか作ってんのか? 新しい武器とか」
「あ~それもあるけどね。それよりも優先したいことがあって」
「歯切れ悪ぃなぁ」
魔導人形の件でアンネリーゼ・パーティーは名を馳せることに成功する。
おかげで上のランクの依頼も受けることもできて、ほかのギルドパーティーとの交流も増えることにもなる。
「今日も! 修行!」
「またかよ!」
「あのね、報酬上がったとはいえ、難易度とか跳ね上がってんだから油断なんてできないよ? まだまだウチは弱小なんだから」
「気にしすぎだって。つえーヤツが現れてもまたボコせばいいんだからよぉ」
「ほら、いつまでもソファーに寝転んでないで、起きてホラホラ!」
手を叩いて促すとヴァレリィはのそのそと起き上がり始める。
「あ、そういやよ。クライメシアはどうしたんだ?」
「あ~、最近は部屋にこもりっきりだね。なんか書庫でなにかやってるみたい」
「ゲ~! あの本の部屋にか!? 俺だったら発狂しちまうね。おう、お前呼んでこいよ」
「私がぁ?」
「おうよ。アイツってさぁ、クエストにぜんっぜん参加しねぇじゃん。ひひひ、ちょっとずりぃんじゃあねぇのってよぉ」
「はぁ、そういうこと。まぁ話してみるね」
アンネリーゼはクライメシアの部屋へと向かう。
ノックしても返事はないので、ゆっくりとドアを開けてから書庫のほうに続くドアのほうを見た。
書庫のドアは少し開いており、そこからぼんやりとロウソクの灯が漏れ出ている。
そこだけまだ夜が明けていないような雰囲気の中で、クライメシアは机に向かい分厚いノートに鉛筆を走らせていた。
真剣な表情で文字や図形をしたためているようで、机の上には山積みの本と何本かの研ぎたての鉛筆、専用器具が置いてある。
クライメシアは目線をそのままに、誰かが入って来たのを気配で感じ取っていた。
「足音からして……アンネリーゼかな?」
「あ、う、うん! 入っていい?」
「あぁ入りたまえ」
書庫からクライメシアの声が響く。
アンネリーゼは誘われるまま、ドアを開けて書庫のほうまで足を運んだ。
クライメシアはノートを閉じて彼女を出迎える。
「卿がここへ来るなんて珍しいな。ヴァレリィ同様苦手なところかと思った」
「私はそこまででもないよ。……ねぇちょっといい」
「ああいいとも。遠慮はいらないよ」
アンネリーゼは先ほど下のフロアでの会話のことを話す。
「なるほど、ヴァレリィがわたしを不信がっていると」
「そこまでではないと思うけど。少しは修行とかクエストに顔出せって言ってる感じかな。……クライメシアが強いのは私が一番よく知ってるよ。でも、このまま隠しとおすのは少し無理があるんじゃあないかな」
「ふむ、わたしの都合で折角のパーティーの結束が歪んでしまうというわけだな。やはりこの問題は避けられないか。よしわかった。ちょうどいい機会だ。ひとつ、試験を受けてもらいたい。簡単な適性検査だ」
「え? 試験?」
「修行はこうも日が照っていると難しい。よって日が照る必要のない時間や場所のクエストにはわたしも参加しよう。そして、────ぜひわたしの『正体』を知ってもらおうか」
「クライメシアの正体って……あれでしょ? 陽の光を浴びると灰になっちゃって……」
「あれは一部に過ぎない。……ヴァレリィに伝えてほしい。もしもクエストで機会があれば、ぜひともわたしの真の姿をその目で刮目し、そして選んでほしいとな」
「選ぶって?」
「……わたしの正体を見て、それでもこのパーティーに残留するか否かをだ」
優しく緩ませている口元。
しかしその目つきはどこか恐ろしくもあった。
「言っておくがこれは卿にもかせられたものでもある。もしもわたしの正体を知って『こんなはずではなかった』と情けなく抜かすようなら……」
今までになく冷徹な一面を見せるクライメシアに、アンネリーゼの背中は一気に冷たくなった。
真冬の山にでも放り込まれたかのような寒々しさが、彼女の精神を覆っていく。
まだ暑さの残る季節だというのに、この書庫の空気は完全に別物へと変化していた。
「わたしに興味を持ち、わたしに魅入られたがゆえの宿命だ。諦めたまえ」
「あ、あの……その……」
「残忍か? 残酷か? 冷酷か? ……無理もないことだ。試験前の泣き言、甘んじて受けよう。だが、これは決定事項だ。────久々にちょっと楽しくなってきた」
そう言ってまた笑みを浮かべるクライメシアの顔は、まるで別人であるかのようだった。
アンネリーゼは思わず唾を飲みながら、とりあえずそれを受け入れ、下へ降りてヴァレリィにそのことを話す。
「ほ~ん、ずいぶん挑発的なことしてくれんじゃあねぇか。そうだな。そうでなくっちゃあ面白くねぇ!」
「や、やるのぉ?」
「当ったり前ぇじゃねぇか! よし! そうと決まりゃ早速修行だ!」
「あ、そういやそうだったね。アハハ」
「コラ! テメェから誘ったんだろうが! ほら行くぞ!」
ヴァレリィはガハハと笑いながら外へと歩いていく。




