vs.魔導人形
最初に躍り出たのは意外にも魔導人形。
先手必勝と最初に向かうはアンネリーゼへ。
欄干と欄干とをジグザグに飛び移りながら斬りかかる。
とても身重とは思えぬ身のこなしにおののきながらも、アンネリーゼは回転機構を作動させた。
「天国への車輪!!」
声と同時に唸りを上げて振るわれる長巻を弾き返す。
その軌道と威力に驚いて表情を変えるも、魔導人形の判断は冷静そのものだった。
「どぉおおりゃあああッ!!」
ヴァレリィの拳と蹴りをかいくぐり、大橋から身を乗り出してそのまま下へと落ちるように消えた。
「な、あの野郎!」
「ヴァレリィ! 行っちゃダメ! 罠かも!」
「罠ぁ!?」
「覗き込ませようとしてるのかも。覗き込んだ直後に真下に引きずり落とすつもりかもしれない」
「なるほど……」
ふたりは背中合わせになるようにして、橋の真ん中へと移動した。
先ほどの喧騒が嘘のように、場は穏やかな静まりかえりに包まれる。
川のせせらぎ、木々の揺れ。
舞い散る紅葉は静かにしたたる血を思わせる。
「アンネリーゼ、奴の居場所はわかるか?」
「今ヘブンズ・ウィールで探ってる……」
ヘブンズ・ウィールで軽く大橋を小突いてみる。
振動を感知して、ワイヤーを伝いアンネリーゼに敵の位置を知らせようとするも……。
「ダメ、感知できない」
「なに?」
「気配がしないの。もう橋の下にはいないのか。それとも人形だからかな? いや、でもさすがにそれは……」
そのときだった。
ふと落ちてくる紅葉の量が多くなった気がした。
ハッとなって上を見上げると、軽業のように舞い降りながら長巻をふたりに振るってくる魔導人形の姿が。
「ヴァレリィ!」
「くっ! 避けろッ!」
ザクンッ!!
横一閃に振るわれた長巻は大橋の一部を斬り、鋭い穴を開けた。
そして切っ先にはピチャピチャとしたたる血が。
「ぐ……いっでぇ……」
「しまった……ヴァレリィ平気! ごめん、今すぐ回復薬を!」
「させるとお思いですか?」
またしても飛びかかってくる魔導人形にアンネリーゼはついに本気になり、ヘブンズ・ウィールを豪快に振るい始めた。
ヘブンズ・ウィールの回転に対し、魔導人形も独楽のように回転しながらの連続斬りで迎え撃つ。
(この魔導人形、強い! ありえない……こんな機能は搭載されていないハズ。……いや、待って。もしかして)
ほんの一瞬、アンネリーゼの視線は魔導人形の膨れた腹に注目する。
本来ありえない力の根源はもしかしたらかなりシンプルなものなのかもしれないと。
「わきが甘いですね」
「それはどうかな?」
「なっ」
ほんの一瞬の隙をついて、一騎に肉薄する。
それもただの速度ではない。
クライメシアから教わったあの直線的な歩法による踏み込みは、魔導人形の動きを鈍らせることに成功した。
「どぉぉりゃああああ!!」
「くぅうう!!」
まだ不完全な歩法、足りない分は武器の射程距離で補う。
ヴァレリィの龍法を模した螺旋的軌道と強烈な魔力による回転力をヘブンズ・ウィールに乗せて魔導人形にぶつけた。
長巻を防御に使ったが刀身は半分に折れ、反動で吹っ飛んでいった。
しかもその先に待っていたのは……。
「よう、さっきはよくもやってくれやがったなッ!」
魔導人形に対して容赦のない旋風脚。
上から下へと振り下ろす軌道の蹴りは見事に魔導人形の頭部に炸裂させた。
その影響で橋が壊れるのではとアンネリーゼは警戒したものの特に異変はなく、倒れている魔導人形に近づくと、なにやら口をパクパクさせている。
そして彼女はお腹を守るように両腕で身体を包み込み動かなくなった。
さながら本当に胎児を守ろうとしているかのようだった。
これにはヴァレリィも気味が悪そうに、そして後味が悪そうにしている。
「な、なぁ。魔導人形が子供だなんて……嘘だよな?」
「わからないよ。でも、この魔導人形……なんだかさびしそうで……」
「どうするんだ?」
「ねぇ、この魔導人形、ウチに持って帰っていいかな?」
「ハァ!? お前正気か!?」
「調べてみたいんだ……この"ヒト"に一体なにが起こったのか」
「おいおい……知らねぇぞ俺は」
「わかってる。……大きい袋とかいるよねやっぱり。そのまま持って帰るのはあれだし」
「袋……あるには、あるけどよぉ。でも報告はどうするんだ?」
「その武器。折れた武器を提出して、身体は川に流されたっていうのはどうかな?」
「ま、まぁそれくらいしかねぇか。言っとくけどよぉ。俺は持たねぇぞ」
「わかってる。これは私のワガママだから」
こうして、ふたりは魔導人形を入れた大きな袋と折れた長巻を手にハンニバルへと戻っていった。
ついたころには夕方で、ちょうど人通りも少なくなっていたので怪しまれずにはすんだ。
明日、クエスト達成の報告を。
そして今夜、魔導人形を工房にて解析することに。




