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風と紅葉としたたる血

 ────モミジ谷。

 

 パラリパラリと、季節外れの真っ赤な紅葉が風に舞う。

 次元の歪みかそれとも大地を流れる龍脈の影響か、ここでは年がら年中秋のような景色が広がっているのだ。


 気候も良し、風情もよし。

 しかしてここも安全な場所ではない。


 ここもまた魔物が住む場所でもあるのだ。

 遥か昔、極東の島国の貴族がここに落ち延びて、自分たちの楽園をと豪勢な屋敷を建てたそうだが、最早それは夢の跡と化している。


 ところどころにその名残とも言える屋敷の残骸やら、古びた建築物がなんとも言えない儚さを宿し、紅葉と穏やかな川のせせらぎがわずかながらも、その空恐ろしさを和らげていた。


「こんな場所で魔導人形はなにをしてたんだろう」


「殺人しといてそのままピクニックってほどイカレちゃいめぇ。……いないよな?」


「さすがにそれは……いや、うぅん」


「おい、意味深に唸るな! 怖くなるだろうがッ!」


「あれ? もしかして怖い系の話とか嫌い?」


「だ、だ、誰もそんなこと言ってねぇだろうが!」


 こうもわかりやすい反応を見ていると、彼は意外に繊細なのかもしれない。

 現に残骸や建物の陰などを気味悪そうに見ている。


(でも意外だったなぁ。ホラーと全然縁がなさそうな見た目してるのに……どっちかっていうとドンパチ派手にやるタイプ)  


 そんなことを考えながら、朱塗りの大橋まで辿り着く。

 かつての往来が想像できるほどにその幅は広く、年月によって剝げていった色を埋めるように紅葉がそろそろと被さっていた。


 その橋の中央に、誰かがいる。


「ヴァレリィ」


「おう、わかってる。……こっちに背中向けてやがるが、それでもわかるくらいに血濡れたエプロンと臭いを漂わせやがる。アイツがそうだ!」


 ふたりは注意深くにじり寄る。

 背中を向けたまま微動だにしない相手は余計に不気味で、なにか策を講じているのかもと、アンネリーゼたちの心を暗く鷲掴みにしていた。


 魔導人形の手には長巻ながまきと言われる変わった刀剣を握られており、今でも血が滴っている。

 こちらの気配に気がついたのか、少しだけ顔をふたりのほうに傾けた。

 

「先ほどのギルドパーティーではないようですね。……ようやくハンニバルも私に追手を差し向けたというわけですか」


 冷徹な口調で零度の視線を向ける魔導人形。

 黒色のボブカットヘアーから覗く瞳には、本来人形が持つはずがない人間的憎悪の光があった。


「おうテメェ! 人殺ししておいて、ここに仕事きてたギルドパーティーも襲ったそうじゃあねぇか! なにやったらそんな外道に堕ちちまうんだ?」


「外道、ですか。確かにそうかもしれません。ですが、たとえ堕ちてでも叶えたいものがある。手に入れたいものがあるというのを、所属していたあのパーティーで学んだのですよ」


「学んだ? 一体どういうこと? アナタが所属していたギルドパーティーで一体なにがあったの!? なにが、アナタをそこまで……」


「お教えする義理はありません。立ち去りなさい。そうすれば見逃してあげます。私は忙しいのですよ」


 そう言って大橋の奥へと行こうとする魔導人形に、ヴァレリィはさらに激昂したように制止を促した。


「テメェの理屈なんざどうでもいい! こんなことしてただで済むのかって話だよ! 逃がすわけねぇだろタコ!」


 魔導人形は静かに顔を横に振りながら、その身を返してふたりに向き合う。

 ようやく戦う気になったかと意気込んだヴァレリィだったが、その姿を見て瞬時に静かになった。


「な、なぁアンネリーゼ。あれ、よぉ……目の錯覚ってやつ、じゃあないよな?」


「う、うん……私にもちゃんと見えてる。でも、あんなの……」


 アンネリーゼたちの視線は魔導人形の腹部に注がれている。

 丸く膨れたそれは我が子を宿した女性の下腹部そのもの。


「……あぁ、これですか。アナタ方人間からすれば、奇怪そのものでしょう。魔導人形が妊婦のような腹をしているなど」


「な、なんだ……オメェ、一体、なにしやがったんだ!?」


「わかるはずもない……わかるわけがない。私はしょせん女の形をした人形……本物の女のように、愛しい人の子をその身に宿すことはできない。神からも人からも許されない……」


「な、なにを言っているの!? それが殺人となにか関係あるわけ!?」


「ありますよ。でもそれを話すのも億劫です。……追手である以上、アナタ方をここで蹴散らさないわけには参りません。お覚悟を」


「チッ、やりにくい奴だ……ッ!」


「そんなこと言ってる場合じゃない。行くよ!!」


 異様な姿の魔導人形に挑むふたり。

 紅葉が闘気に当てられ、上へ、左へ、右へと舞い上がる。


 そんな中で、魔導人形は不気味な微笑みをたずさえていた。

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