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次の日に備えて

 しばらく静かだったが、祭りの雰囲気に当たりに行けば3人は再び元の調子を取り戻す。


「おい! 美味そうなのあるぞ! 食うぞ!」


「ちょっと! お肉なんてついさっき食べたばっかだよ!?」


「肉は何度食ってもうめーんだよ。なぁクライメシアもそう思うだろ?」


「まぁ、好きにしたまえ。懐に余裕があるのなら」


「うぐ」


 そんなこんなで陽気に出店を見たりしていると、上空に花火が打ち上がる。

 響いてくる轟音と華やかな色彩で周囲は色めき、大歓声が起こった。


「こんな綺麗な花火、見たことない……」


「え、お前ここ出身だろ? 見たことくらいあるんじゃあねぇのか?」


「ううん、そういうことじゃないの。今まで働いてばっかで、荒んでたから……こうやってゆっくり見る機会なかったなって。だから……花火がこんなにも綺麗だなんてって」


「……なぁ、もっとよく見える場所に移らねぇか?」


「え?」


「よし、そうと決まれば行こうぜ!」


 ヴァレリィに手を引かれ、街の高台まで移動する。

 そこも人でいっぱいだったが、下で見るよりもよく見えた。


 天に近くなり、花火の美しさがより映える。

 それがアンネリーゼの心をさらに照らしてくれた。

 

 この巨大ギルド都市ハンニバルが、彼女を祝福してくれているかのように。

 アンネリーゼはほうっとその光景に見惚れた。


 音とともに生温かい風が吹く。

 髪や頬を撫でて、実に心地いい。


「へへ、どーよこの場所! ずっと目ぇつけてたんだぜ? ここならいい景色が見れるってよ!」


「お手柄だな。どうだアンネリーゼ? けいの街は実に美しいだろう?」


「……うん」


 そして祭りは絶頂を迎える。

 誰も彼もが歌い、踊り、飲み、そして笑った。


 その輪の中へヴァレリィもアンネリーゼも入っていく。

 彼女からすれば、まるでおとぎ話の国に入ったような、不思議な感覚だった。


 人前ではしゃぐようなタイプではないのは自分でもわかっているのに、一緒に楽しむというこの高揚感が抑えきれない。


「羽目を外し過ぎなければいいが……」


 クライメシアはそっとふたりを見守る。

 空いている席に座り、静かに酒を愉しんだ。


 時が過ぎるのは早いもので、そろそろ終幕が近付いた。

 3人は帰り際、屋台へよってそれぞれの私物を買うことにした。


 いらぬ出費かもしれないが、これはひとりひとりの思い出を買う儀式だ。

 アンネリーゼは猫の置物、ヴァレリィはジョッキ、クライメシアに至っては意外にも……。


「それ、ハーモニカ?」


「あぁ」


「ほぉ~アンタが楽器をなぁ~。今度披露してくれよ」


「吹きながら帰ろうか?」


「アハハ、クライメシアって多才だね。どこで覚えたの?」


「遠い昔とだけ言っておこう。さぁ帰ろう。我々の屋敷に」


 そう優しく微笑みかけ、クライメシアはハーモニカを吹きながら2人の歩幅に合わせる。

 陽気なようでどこか落ち着くメロディーだ。


 ヴァレリィは酒のせいもあってか、上機嫌でそれを聞いている。

 

(楽しかった。また来年も、なぁんて……いや、できるのかな)


 アンネリーゼから小さな笑みが零れる。

 今回の祭りで未来への期待が膨らんだ。


「明日から仕事。頑張ろうね!」


「うげー! もう仕事すんのかよ!? あ、明後日からにしねぇかぁ?」


「ダメ!」


「げ~」


「私たちはまだ駆け出しなんだから、少しでも頑張らないと」


 アンネリーゼの意志は固い。

 ヴァレリィは嫌々ながらも賛同した。


 祭りのあとの帰り道は少し寂しくはあったが、希望が満ちているような気がする。

 こんなに清々しい気分は何年ぶりだろうと、アンネリーゼは鼻歌交じりに帰路についた。


 明日からまたギルドで仕事だ。

 魔物退治に素材収集、失せ物探しに単純な探索。


 そして、ダンジョンの踏破。

 

 またいつもの日常が始まる。

 そう思ったのだが、次の日ギルドにおもむくと……。


「え、なんですかこのクエスト?」


「やっぱ気になるやろ? ……題して、魔導人形の怪ッ! どや?」

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