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ハーストの実力

「ほう、その魔力の回転力、中々大したもんだ。だが、そんなモンで俺を倒せると思ってるのなら大間違いだぜ」


「ほざきな! 俺の龍法(ドラグラ)を舐めんじゃあねぇ!」


 意気込むヴァレリィに対して、ハーストは迎撃態勢そのものすら取っていない。

 ヴァレリィの魔力量を中々だと評価しておきながらもあの余裕、見逃すわけにはいかないと自然とアンネリーゼの集中力も高まる。


「テメーなんざこの一発で向こう側までブッ飛ばしてやるぜッ!」


「さっきも聞いた台詞だな。なんでもう1回言いやがった? ボケてんのか?」


「こんの……ッ!!」


 不気味な唸りと轟音を上げながら右の拳打が飛ぶ。

 これには取り巻きたちも悲鳴を上げた。


 だが、ハーストはニヤリと不敵な笑みを浮かべて、それを簡単にいなしてしまう。


「な、なにぃ!?」


 一瞬なにが起きたかわからなかった。

 龍法の拳はハーストの両の掌の動きに合わせるように軌道をずらされてしまったのだ。


「すさまじい回転だが、こんなもの、ちょいと魔力で誘導をかけてやれば容易に軌道をコントロールできるのさ!」


 ハーストは簡単に言ってのけるが、彼の手段はそう易々(やすやす)とできるものではない。

 アンネリーゼはこの一瞬の出来事に対し、自身なりの考察をしてみた。


(もしかして、ネジと同じ理屈かな? ボルトとナット……回転する方向、進んでいく方向に合わせて、ハーストは掌の魔力で回転を作った。あとはそのままネジを締めていくみたいにヴァレリィの動きに合わせていったんだ。当然、進む力の強い龍法はその回転の方向に誘導される)


 柔よく剛を制す、と言ってもいいかもしれない。

 だがそれこそ並ではないのだ。


 初見でヴァレリィの龍法の魔力量と回転による推進力を見破り、即興でコントロールできるほどの魔力回転を生み出すなど。


 どれかひとつでも間違えれば、そのまま自身の回転を突き破って龍法が炸裂したかもしれない。

 

「な、なにぃいいいッ!?」


「見たところお前も魔導戦士のようだが……そんなんじゃあ俺には届かないぜ!」


 ハーストの動きは瞬時に機敏になる。

 それは格闘の型というよりも、流麗なる芸術のよう。


 火のような勢いで攻めるヴァレリィに対し、ハーストは水のような柔らかさでの攻撃だ。


(魔力は最小限にして、掌底が当たったど同時に魔力を放出ッ! そこまでの動きはまるでシルクの波みたいに緩やかで綺麗……ヴァレリィとは対極の戦い方だ)


「このこのこのぉおおお!!」


 怒涛の攻め。

 それらをいなしていくハースト。


 ヴァレリィの勢いが一瞬弱まったのを見計らい、軽く足払いして体勢を崩したと同時に、掌底を叩き込んだ。


「どわぁああああ!?」


「ヴァレリィッ!」


「ふ……中々の攻撃だったが、短調だな。そんなんじゃあ先が思いやられるぜ」 


 取り巻きから黄色い歓声を浴びながら、ハーストはしりもち状態のヴァレリィに現実を突きつけ、彼女らとともに次の場所へと行ってしまった。


「派手に負けたな。大丈夫かヴァレリィ」


「ててて、平気だ。あ~あ~、酔いが冷めちまった。ダセぇなあ俺」


「立てる?」


「あぁ、なんとかな。チクショー、あの野郎め。今度出会ったらタダじゃあおかねぇからなッ!」


「ただでは転ばない、か……」


 クライメシアは呟くと次の場所へ移るよう進めた。

 先ほどの騒ぎで衛兵が来るかもしれない。

 

 祭りでの乱痴気騒ぎは基本ご法度。

 周囲もより騒がしくなってきた。


 そそくさと逃げるようにして次の場所で休息をとる。

 比較して人の通りは少なく、落ち着くには持って来いだ。


「ハァ、ハァ、ちくしょー! こんなハズじゃあなかったのによぉ!」


「なぁんであそこで喧嘩しちゃうかな……」


「うぐ……す、すまねぇ」


「いや、まぁいいよ。人混みは苦手だし。ここなら休憩できる」


「夜風がちょうどいい塩梅に吹き抜けるな。……アンネリーゼ、収穫はあったか?」


「え? ……うん、勉強になった」


「それはよかった。喜べヴァレリィ。卿の敗北は無駄ではなかったぞ」


「だー! うっせぇッ!!」


 もう少し休んでからもう一度祭りへ行って楽しむことにした。

 今度は荒事はなしという約束を取り決めて、出店を3人で回ったりすることに。



 一方、戦いを終えたハーストは取り巻きたちとより一層祭りの雰囲気を楽しんでいたのだが……。


「はい、ハーストお酒よ」


「おう、ありが────……」


 ジョッキを受け取ろうとしたそのときだった。

 ガシャン、と音を立ててそれは地面へと落ちる。


「……な、なに?」


 ハーストは目の前の光景が信じられなかった。

 確かに握ったはずなのにスルリと指が零れるように取手から離れたのだ。


「ハースト大丈夫!?」


「あ、あぁ大丈夫、少しミスっちまっただけだ」


 両手が震えていた。

 指の感覚が朧気でもある。


(……あのときか!? あのヴァレリィって野郎の攻撃でッ!)


 こんなことは一度もなかった。

 桁違いの威力を持つ彼を頭で思い描いたとき、よぎるのは悔しさの念。


(チッ……この俺にここまでダメージを負わせるとは……この借りはキッチリ返してやるぜ!!)


 ハーストは取り巻きたちにわからぬよう歯軋りする。

 

 

 

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