クライメシアとアンネリーゼ
────神を殺した。
3人の視線が集まる中、ただこのひと言のみもらした。
「信じるか否かは卿ら次第だ。かつての深淵渡りで、わたしは神を殺した。……今言えるのはただそれだけ。それ以上でも以下でもない」
「いや、そんなぶっ飛んだこと言われましても」
「いえ、ありがとうクライメシア。またなにか話したくなったら言ってね?」
「……」
「あ、そうだ! 折角だしアンネリーゼと一緒に行動なんてどうかしら!」
「へぁ!?」
「姉様ぁ!?」
しかもこのままアンネリーゼはクライメシアとテントに残されることになった。
ラクリマのことだからなにか目的があるのだろうとは思うが……。
「あ、あのぉ……」
「はぁ」
(気まずいッ!!)
「卿よ」
「はい! な、なんでしょうクライメシアさん」
「さん付けや敬語はしなくていい。呼び捨てでかまわん。もっとくだけた言い方をしてはくれないか」
「え、じゃあ……改めて、よろしく……クライメシア」
「ふむ、どうやらそこまで明るい性格ではないのかな? 見当違いか」
「あぁ、私、なんていうか……人間関係が苦手っていうか、距離感がっていうか……アハハ」
「そうか。まぁそういう性格もある。わたしは気にはしないよ」
落ち着いた声色で諭しながら、アンネリーゼに酒を勧める。
だが日の明るいうちから酒を飲むことに躊躇したアンネリーゼの気持ちを察し、自分だけ飲むことにした。
「しかし、この時代の酒もまた美味いな。何杯でもいける」
こうして見ると本当の人間のよう。
だが、実際はよくわからない存在。
異能を持つ人間なのか、それとも別の異形なのか。
舌鼓を打つ姿は若干可愛げにすら見える。
「どうした。わたしのことをじっと見つめて。やっぱり欲しくなったか?」
「いや、そういうことじゃなくて……その、私クライメシアのこと、全然知らないから」
「そりゃあそうだろう。わたしと卿は昨日出会ったばかりだ。わたしも卿のことをよく知らない。だが……」
「────え?」
いつの間にやら肉薄されており、顔を近づけられ、頬を優しく撫でられていた。
アンネリーゼは硬直し、クライメシアは妖しく微笑みながら。
「卿がわたしに興味を示すように、わたしも卿に興味がある」
「え、えぇ!?」
「だが覚悟はしておくがいい。わたしのことを知ろうとすればするほど、いずれ恐ろしいものを目の当たりにする日が来るだろう」
「は、はぁ……」
「ふ、まぁそれまで卿のことをじっくり見させてもらうとするさ」
「え、もしかしてさっきみたく私の影に?」
「そのつもりだ。やっと外の世界を見れたのだ。実に興味深い」
困惑するアンネリーゼの頭を撫でながら、クライメシアがまたイスに座ったときだった。
曇った表情の姉妹がテントに戻ってくる。
その表情だけでわかった。
嫌なことが起きそうだなとわかると、変に心が敏感になる。
平穏を脅かされそうで少し怖かったが、それを察したラクリマが努めて笑顔で。
「あら、お邪魔だったかしら?」
「い、いや、別になんにも! そ、それでなにかあったんですか?」
「ん~、言いにくいのだけれど」
「実は先ほど、ハンニバルの中枢部から連絡が入ったのです。……『深淵への階段』の調査を中止し帰還せよ、と」
アンネリーゼにとってはギルドパーティー追放に匹敵する、いやそれ以上の衝撃。




