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死体蹴り

マスタリング

それは不正行為を行なったり、プレイヤーにより予期せぬ展開を起こした場合にのみゲームマスター権限で行われる裁量である


そしてその罪状は「自らの誇りを傷つけられた」から

この時、カズナリは悟った


「変身ヒーローが変身中してはいけない。それと同じように俺がやっていいってタイミングじゃなきゃ攻撃してはいけないんだよ


「お前はルールを破ったんだ。当然の結果だよなぁ」



「マスタリング[絶対命中][クリティカル率100%]さらに[効果無効]![一撃死]!そして通常攻撃。これにより得られる情報は何一つない!まさしく犬死に!死ぬがいい!!」


素手での攻撃に様々な付加効果を付け加えてゆく

これによって彼がどんな武器を使い、能力を持ち、どんな戦闘スタイルでどんなスキルを使うのか一切わからない。俺が死んだとしてもその情報を味方に伝えることすらできずに死んでいくのだ。


短い間だったが、様々な思い出が走馬灯のように流れる。

アキナに出会い、一緒にペットを捕まえて、「また一緒に冒険しよう」と言われたこと、クランに入り、向こう見ずな勇気が認められたこと。悪い思い出ばかりじゃなかったな。


当の彼女は今後ろで何か叫んでいる。ごめんな。また迷惑かけちまって


『言っとくが死んだらコンテニューはないぞ。死んだらそれっきりお前のアカウントは使えなくなる。それでも戦うか?』


こんなことならもっと慎重に生きていくべきだったな


でも俺はもうーー



その時だ。バオさんが飛び出したのは。

加護を使い体力を回復して俺を突き飛ばしたのだ


敵の手刀は粘土細工に手を突っ込むかのようにいともたやすくバオさんの肩から胸にかけて手刀で一文字の傷をつけられると

団長は断末魔を上げながら絶命していった



「Foooooo!!!俺TUEEEEEEE!!」


「あっ、あっ・・・」


最早俺に立ち上がることもできなかった

バオさんが死んだ。俺を庇って目の前で死んだのだ

もっとも理不尽な理由で

カロンの高ぶる声だけが響く世界で

視界がぐにゃぐにゃと歪んで消えてゆく





「団長おおおおおおおおお!!」 





俺の声は届いたのか届かなかったのか、気がつけばリザルト画面だ


ランクA、成功。プレイヤーの活躍により上位の魔物がアークライトに興味を持ちました



「ちくしょう、何が成功だ」


もはや依頼の成否などどうでもよかった

カロンの言い分からしてこのシナリオは

『敵に誘き寄せられたプレイヤーたちがカロンと接触、これによってアークライトの存在が知られるまでが台本』だったのだろう


なんだよそれ、茶番じゃねえか。

こんな噛ませ犬の役を演じるためにVR MMOをしたわけじゃない


「ちくしょう、ちくしょう・・・」

その日、現実世界に戻った後も寝転がったまま俺はずっと起き上がることはなかった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「嗚呼、なんということだ。しばらく離れていた間にそんなことがあったなんて」



後日、クランマスターの葬儀は行われ、クランの団長の引き継ぎの儀が執り行われた。


皆が悲しみに暮れる中で

行方をくらましていたワザンの姿もあった。何食わぬ顔でしれっと戻った男に対し言及するほどの気力は最早誰にもなかった。



「このクランのマスターは私が執り行う。意義はあるか?」

「意義なし」「意義なし」「意義なし」



完全に彼のペースで次期クランマスターの引き継ぎは行われた。

そこまではいい、問題は次に起こった


「ところで、団長はなぜ死んだのだ?あれほど優秀な方がただのウッカリで死ぬことなどないハズだが?」


「それは・・・」



重苦しい空気


それでも事実を話そうと、ゆっくりと口を開いた

その時だ、俺が話すより早く同行者であったあの二人組が事情を話したのだ


「ワザンさぁん、報告書やギルドの告知にもあると思いますが、団長はあの上位の魔物にやられたんですーー」 



「ーー団長が善戦していた時にカズナリの野郎が手柄欲しさに勝手に突っ込んで、それを庇って死んだんですよぉ」

「俺たちも引き止めようとしたんスがね、盾で殴ってきやがるし、マジたまったモンじゃないっスよ」


「!?」


ありったけの脚色と虚構を添えて


おい、待て,なんだよそれ、そんなわけないだろ


ありもしない嘘をペラペラと

流石に俺も黙ってはいられなかった


「さっきからでまかせまかり言いやがって!!お前たちだって見ていた筈だろ!俺がカロンに攻撃をした時、『マスタリング』って叫んで動きが止まったのを」


だが、彼らは肩をすくめてまともに聞いてはいない

差し詰め「都合が悪くなったから大ホラを吹いてやがるぜ」といったとこらか


未だに状況が良くならない中

ゴルがウソの証言に見かねて乗り出す



「テメェ、何テキトーなこと抜かしてやがる。コイツがそんなことできるタマだと思ってんのか?」


「そ、そうですよ。あなた方が言っていることは大嘘です!カズナリさんに謝ってください!」


「ゴルさん、アキナ」


学生時代無難な人生を送って友達なんてものを作らなかったからわからないが

こういうのを持つべきものというのだろうか


「テキトーなことだってぇ〜?その場にいないお前こそなんでそんなことが言えるんですか〜言えませんよね〜ソースあるんですかー?」


「おっ、おー?テメェこそ口裏合わせて俺たちを貶めようって魂胆なんだろ?おー、怖」


「口裏合わせてテキトーなことを言ってるのはお前らだろうが!!ありもしないことペラペラと話しやがって」


この加勢にも臆せずレスバトラーたちは自らを被害者面して身をかわそうとする

完全な水掛け論、戦いはこのまま泥沼化するかと誰もが思っていた


「いい加減にしろ!新クランマスターの就任式を台無しにする気か!?」


業を煮やしたワザンが割って入った

元々この男は苦手な人間だったが

同時に一人の良識を持った人間のはずだ

さすがにこの場は公平な判決下すものだと思っていた




「この場にはいなかったが大体はわかったぜ。

カズナリ、お前、このクランに入ってからズーッとバオに気に入られようと必死にしてたもんな?前々からクランマスターの座狙ってたもんな?」


「なっ!?」


違った。こいつもダインや上位の連中と同じ自分のことしか考えていないロクでもない連中と同じ


「お前馬鹿みたいに最近レベルを上げていたよな?あれさ、次期クランマスターに選ばれたいからアピールしてたんだろ?」


「違う!俺は少しでもクランの役に立とうと」


「そうやって必死になってるところが怪しいな〜?ほんとのこと言ったら〜?」


「おうッ!いい加減、ほんとのこと言いやがれタコ」


反論しようにも言う前に大ホラ吹き野郎どもがたたみかけてくる。そしてワザンは次の標的に目をつける


「それとゴルぅ、今まで一匹狼気取っていたお前が随分とカズナリに肩もつなぁ?尚更怪しいぜ


「そうだそうだ、お前も影で根回しされてんだろぉー?」


「コミュ障ぼっちのくせに癒着かぁ?おう、意外とセコいんだな!」


「くっ」


寡黙なゴルにこういうやかましい人間は相性が悪い。

反論すら許さない言葉の畳みかけにめんどくさくなってしまったようだ


「か、カズナリさんはそんなことしてません!私が証言に•••」


「なに?俺たちがウソついてるっていうの?」

「そ、それは・・・」


「カズナリにそう言えって言われたんだろ?カワイソーに」

「そ、そんなこと・・・」



最期の1人になってしまったアキナも簡単に丸め込まれてしまった

極めつけは団長の一言であった


「正直彼らのために時間を浪費するのも面倒くさい。ここはどうだろう?不穏分子のカズナリ君をクラン追放にしてしまうのは」

「意義なし」「意義なし」「意義なし」


「決まりだ、カズナリ。お前は今日限りでクラン員はクビだ」


首を搔っ切るようなジェスチャーを加えて俺はその日クラン員を追放された

あっけないものだ

俺が想像していたクランってのはもっと和気藹々していて失敗をしても笑って許しあえる

エンジョイするクラブ活動みたいなものだと思っていた。

それが入って10日もしないうちに俺はクランをクビにされるなんてな

でも、アイツらはわかってたんだな。

あの時俺を笑ったのは、「お前ごときがレベル上げたところで強くはなれない」ってことではなく、「どんなにレベルをあげようがゲームは茶番でしかない」ってことだったんだな




「あなたのように周りを使ってやるのよくないとおもいます・・・私も辞めされていただきます」


「ふん、随分と惚れてんじゃねぇか?生憎人のオンナを取る趣味はないから、願い通りこの男と一緒にクビにしてやんよ」


「なら、俺もやめさせてもらう。俺がここにいたのはお前にパシリになるためじゃあねえからな。」


このあとアキナとゴルも俺を追うようにクランをやめた。


「アイツらの言う通り、俺は元々一匹狼なんだ。遠かれ早かれこうなっていただけだからな」そう言い残して去っていった彼の顔はどことなくさみしそうに見えた



「別によかったんだぜ?俺もやめようか考えようとしてたところだったし」


しかし、彼女は首を左右に振って抗議する


「でもさ、どうしようかな、俺達。あんなもの見せられたらもうクランなんて入りたくないよ」

「カズナリさん・・・」


「・・・私もクランはいいです。カズナリさんと遊べるならそれ以上は望みません」


勇気を振り絞り、頑張って俺の目を見て話す彼女の健気さに俺は顔を赤くした

運営にウンザリしていたけどまた捨てたもんじゃないな。


ピピピ!


なんだよこんな時に!?

俺の元に一通のメールがきた。しかも運営のアップデート告知以外のメールだ

あいにくフレンドを投げかけてくれるような友達はいない。

照れ隠しついでに俺はメールを見てみた


______________________________________

ハロー。新入りのプレイヤーくん。楽しんでくれてるかね?


不平不満を言うなら直接言ってもらいたいな。今度直接話せる時間と場所を設けよう

______________________________________


一体誰だ?ずいぶんと偉そうなメールだが・・・宛名は


「ハチマングウ タダヒロ」


倒すべき俺の「敵」と対面するにはそれはあまりにも急すぎる出来事だった

せぱたくろーです。遅くなり申し訳ございません。

しばらくは3日に1回ペースになるかもしれません。

次回はとうとう「敵」との接触です。お楽しみに

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