約款
あの大討伐を終えたあと
俺は強くなるためレベル上げをした。
あんな無意味な犠牲をこれ以上出さないためにも
自分が強くなりあの序列に組み込まれる必要があると思ったのだ
「ごめんな、付き合わせちゃって」
「いいんです。私もいつも暇ですから」
幸い時間はあったのでコツコツとレベルを上げ、ゲーム開始から一週間も経たないうちに俺たちはレベルも18になったのはいい進歩かもしれない
まだ第一線からは遠いが一応の戦力にはなれたようだ
あれから副団長はクランに姿を見せていない
目に見えてクランの士気は下がっているのはわかった
俺が頑張らないといけない
「それより前回は絶滅間際の動物を捕まえさせられたり、今回は地上げまがいなことしたりしてなんだか素直に喜べなくて•••」
「•••」
アキナがこういうのも無理もない
前回の大討伐の時、味方の攻撃で気絶していたので、阿鼻叫喚の光景を見ずに済んだのだ
正直あの依頼こそが《アークライト》としての真骨頂なのだろう。
俺たちが受けている依頼もたまたま余っていたわけではなくそもそもこれしかないのかもしれない。この世界の字が読めないのもそういうことなんだろうな
「よぉ〜、デートの帰りかい?」
「毎日毎日飽きないことで」
「•••」
(うぜぇ・・・)
ドンガメ亭に帰ってくるやおかえりの代わりに幽霊クラン員から冷やかしを言われる
俺を茶化すだけならいいが、彼女は嫌がってるんだからもう少しデリカシーあることを言ってほしい
普段は普段でVRチャットに引き篭もっていた人間だったのだが、顔を出したら出したでこれはウザい。
「お、ちょうどよかった。これから依頼に出発するつもりだったんだが二人も参加するか?」
いいタイミングで団長が入ってくれた
どうやらあの幽霊メンバーの二人と一緒に依頼に行くつもりだったようだ。
「それはもちろん•••」
「行きます!」
いつになくアキナがやる気に満ち溢れている
これ以上ナメられたくなかったのは彼女も同じだったようだ
それに対し連中の顔は「せいぜい頑張れよ」と返してきた
「ひどいな、本当に人が住んでいたのか?」
今回参加した依頼はゾンビ討伐だ
夢見の巫女リリンの予言では
死者を操る能力を持つ上級アンデッドであるリッチがオラカイト王国に向かって侵攻、自分の手駒を増やすべく、近隣の村を襲うそうだ
合流予定する予定だった友軍ギルドの部隊が功を焦り全滅し、俺たちがたどり着く頃には最低でもリッチ、冒険者ゾンビ三人、村人ゾンビ十五体と戦うことになるという。成功条件は『全てのゾンビの討伐』という
「未来を変えることは許される事ではありません。未来を変えるということは予期せぬ事態を起こすこと。だから変えることは不可能です」
仕方ないことなのだろうが昨日の今日だ
どうしても「救いなくない」と遠回しに言っているように聞こえた。まして敵の戦力が整ってからの半数以下の戦力で挑むのだ。あまりに無謀だった
今朝までは何気ない日常を迎えていた村も今や死体が徘徊する廃墟群だ。
「各員、警戒しながら進め、生存者がいるかも知れんが『感染』してるかもしれない。気をつけろよ」
「「「「了解」」」」
チームは四人二班で分かれた。俺、アキナと嫌味な先輩二人だ。団長達はほか三人引き連れて別働隊として行動するようだ。
「連絡は【テレパス】を使う。みんな無理をするなよ」
作戦としては二手に分かれ、ボスのリッチ、冒険者ゾンビの位置を探りつつ
ゾンビを先に殲滅すると言った内容だ。
「【ファイアアロー】!」
「【ドラムファイア】」
ボゴォォォォォ!
ズダダダダダダ!!
防御をとる知能も避けるほどの運動神経も持たない生ける屍はなす術なく炎と弾幕に包まれた
俺もファイアアローを取得していたが、やはり魔法職の使うそれは俺のとは段違いだ
先輩たちが二人仲良くガンナーの職業だったのが意外だったが、この依頼ではかなり効果的だ
近寄られた時の保険として盾役の俺がいたのだが、まるで必要なかったようだ
「とりあえず取り巻きはほとんど片付いたか・・・冒険者ゾンビのうち一体は団長がやってくれたみてぇだ。だが今の騒ぎでリッチのヤローもくるかもしれねぇ。みんな気をつけろよ、ん?」
ボコッボココッ
「きゃっ!?」
「うわぁ!!」
言ってる側から地面から手が出てくる。
動きを止めた後衛職からねらってくるつもりなのだろう
「させるか!【シールドバッシュ】」
盾の先端を地面に突き刺すと衝撃波によって地面に埋まっていたゾンビが勢いよく掘り起こされた。だが、致命傷ではない
「この野郎、調子に乗んじゃねえ!」
吹き飛ぶ死体の眉間に風穴が空いた
(くそっ、またか)
ゴブリンの討伐でも薄々気がついていたがナイトの職業は決め手に欠ける
おまけにこのMMOはリアルな描写に現実との区別がつくよう
そしてMVPの基準はほとんどの場合敵の討伐数が絡んでくる
大討伐も、今日のレベル上げも俺が隙を作り味方が止めを刺すようなことがほとんどだった
(これではMVPなんて取れやしない。)
このままでいいのだろうか、焦りが俺の中で募っていく
「た、助け•••」
「!?誰かいる、バオさん。建物の中に生存者がいます!」
「なに、本当か?」
こうしちゃいられない。
俺はみんなを連れて声のする建物に入った
結構開けた作りの家屋の端っこで女性がうずくまっている。唯一の生存者かもしれない
「た、助けてください。外にリッチが•••村の人たちも冒険者もみんなやられてしまって」
「ご心配なく、自分達はその魔物を討伐に•••?」
俺が彼女を励まそうとした時だ。俺は今の会話に違和感を感じたのだ
「なんでリッチって分かったんです?」
「え?」
「あなた、なぜ魔物が[リッチ]って知っていたんです?あなたは見た感じ冒険者でもない。俺はまだこのモンスターが[リッチ]とはまだ言ってない。それなのになぜモンスターの種類を言い当てたんです?」
「ふっ、ふははははは!」
女は立ち上がり笑い出した
見れば、女の体はドロドロと溶け、さながらサナギの中身が蛾になるようにそいつは長身の男になったのだ
「あなたがリッチ•••」
「そのまさかさぁ!いやー、バレちゃったなんて仕方ねぇな。それとリッチなんて呼ぶのはやめてくんないかね、俺にはカロンって名前があんだからさぁ、あ?なに?」
まいったまいったと言わんばかりのそぶりをするカロン、とても追い込まれているとは思わない余裕っぷりだ
「ところでさ、こんなところで油売ってていいの?」
「!?」
そうだ、まだ依頼の最中。ゾンビはまだ片付いていない。
しかも
「ゾンビ冒険者は二体残っている。お前らが倒さなきゃ攻略にはならないんだよ!」
「その必要はない!!」
そこには団長率いた別働隊がいた。・・・満身創痍の
「お前の虎の子ならたった今俺たちが倒した。あとはお前を倒すだけ・・・だ」
やはりムリが祟ったがバオさんは片膝をついた
「いいねぇ、みんな滾ってるなぁ」
最早、皆が皆疲弊している時、戦えるものが戦わなければいけない
ならば、戦うものが戦わないといけない
「アキナ」
「はい!」
「俺に加護をををっ!!」
加護を使い、アキナの付与で戦闘力を極限まで高め、そして
「俺がお前を倒し、必ずやお前の首をギルド持って帰る!」
「覚悟おおおおおおおお」
オレはカロンに斬りかかる
が
「マスタリング!!」
敵のボスがそう叫ぶと、俺の体は金縛りにあったかように体が宙に浮いたまま止まり、指一つ動かすことができなくなった
身動きできない俺に囁く
「ダメだねぇ、俺のお披露目会だぜ。
本当だったら女のカッコでお前らを不意打ちするつもりだったのに一度ならず二度まで俺に恥かかせてよぉ
カネ払って遊ばせていただいてる身を弁えろや」
男は怒りに満ち足りた声で平手を手刀の形に揃えると
俺に向けて振りかざした
俺は死を覚悟した。していた。
だが、その時誰かが俺を突き飛ばしたのだ
ズヌン!
「バオさん!」
俺に刺さるはずの手刀は団長の体を深々と貫いたのだ
せぱたくろーです。悲しい話が続きますが、
次回起こる悲劇によってカズナリは戦いの狼煙をあげることとなります
どうか次回も見ていってください