王の洗礼
「味方を庇う場合基本的に一人しか守ることができない。しかし例外として職業がナイトの場合、同時にもう一人守ることができる。また君が装備している【かばう】があればスキルレベルに応じて更に守ることができるわけだ」
「つまりはスキルの組み合わせ次第で戦い方が変わるのか、覚えることが多いな」
「私もカズナリさんの役に立てるよう防御スキルを覚えておきますね」
ドンガメ亭に入って三日目。俺とアキナは
バオさんから正しい立ち回りやスキルについての指南を受けていた。
俺たちがこうして必死をこいて勉強していたのも初心者として舐められないための他に、近いうちに行われるゴブリンの大討伐も控えていることもあるからだ
ギルドの創設者でありギルドマスターの第三王子ギルデロイからの一言が始まりである
「夢見の巫女から山で餌がとれなくなったゴブリンが人里に降りるという予知があった。」
高く聳え立つ強固な壁とお抱えのギルドによって平和が保たれているオラカイト王国
国民に対してひた隠しにしているのはギルドの存在だけではない
壁の外で猛威を奮っている魔物たちの存在もまた《アークライト》によってひた隠しにされているからだ
「これまで我が国が平和でいられたのも『魔物』という不安材料を国民から隠し通していたからでもある。ここで我々の頑張りを無駄しないためにも人里に降りるまでにゴブリン達を根絶やしにして欲しい」
と言うのがギルドマスターの見解だ
大討伐数日前ともなれば普段は他所で雑談しているプレイヤーたちも顔を出すようになり
あちこちのクランがバタバタしていた。
特に大変そうにしていたのはクランのマスターたちだ。基本的に強敵相手にも過小戦力、もとい少数精鋭で挑むのがモットーの我がギルドがその総戦力をぶつけてくるというのだ。クラン同士でも連携を取らないといけないからだ
「今作戦は山一つが戦場になる。何か大きな指示の変更などがあれば麓で待機している部隊から連絡が入ることになっている。各員前もって【テレパス】を取得すること。スキルポイントが無いものは事前にクランマスター俺に申告してほしい」
今回はギルドの中でもとりわけ強いとされる序列一位から八位までのギルド員も来てくれるそうだ。中には後衛職からここまで成り上がった人間もいるそうだ。MVPを横取りされがちな後衛職でその地位に立てるなんて優秀な人であることは間違いない
話す機会があれば色々と聞いてみたいな
そして作戦の日は来た
「キィィィィッ!」
「来たぞ、主戦力が来るまで持ち堪えろ!」
つんざくような金切り声を上げてゴブリンが一斉にこちらに向かってくる。
俺たちの役割は上位のギルド員からなる主戦力が来るまでの間前線を持ち込ませること
そして俺の役割は味方の攻撃時に生じた隙を盾で防ぐこと
「前衛三人の防御はします!次の攻撃の準備をお願いします!」
「任せときな、くらえ!」
前もってエンチャンターがバフをかけ
第一陣が攻撃し好きができた時俺やバオさんのような盾役前に出て前衛を守りながら一陣のバフをかけ直すその後方で準備をした第二陣が突撃しながら全面に出る。
理由は後で話すことになるが、プレイヤーたちは一昔前のターン制ゲーム並みの動きしかできないため(少しは融通は効くが)理にかなった行動はこうなってしまうのだ
バオさんの座学とフリーハントによる実戦訓練のおかげか立ち回りには問題なかった。しかし
「グ・・・ゲッ」
「うっ!」
さすがはリアルなMMO、頭を潰されて倒れる姿は目を逸らしたくなる。基本的に部位が破壊される描写はないが死に際の描写に関してはバリエーションが多くリアルで製作者の悪趣味さが露見している。
人間とは違う生物だが、やはり同じ人型を殺すのは抵抗がある
実際に今麓の方でサポートに回っている人間の中にはゴブリンが人型ということで戦うことに抵抗をおぼえ後衛にまわっている人間も少なくはない。正直、俺も人型相手に戦うための勇気を手に入れたいところだ
『第六班、七班。そちらの方に援軍が来ます』
そんな折、麓で待機しているクランから連絡が入った。
派手な装備をした有翼人が同族の仲間を引き連れて現れた。彼こそが序列八位のエース
増援として駆けつけてきてくれたのだ
『我が名はカイト•ハルジオン!助けに来たぞ!』
「やったぞ!援軍がきた!」
誰かが歓喜の声を上げた。一騎当千の英雄たち
あとは俺たちは撤退すればいい。
そう、誰もが思っていた
『ミスリルレイン!一斉射!死んどけ!』
「範囲攻撃、まずい!各員防御と回避のバフをかけつつ攻撃をやりすごせ」
「アキナ、俺から離れるな!」
「は、はい!•••きゃっ!」
カイトが天に剣を掲げると部下達も同じ動きをする。剣の形をした銀のエネルギー波の雨がが降り注いだ
ジュダダダダダダ!!!
光の剣が敵も味方も関係なく突き刺していく。
「まて、まだ逃げる準備が・・・」
「や、やめてくれぇぇ!」
鋭い鉄の塊が地面に降り注ぎ時折何か柔らかいものに突き刺る音と悲鳴が聞こえるが
盾を構えて近くにいる味方を庇うだけで精一杯だった
•••
銀の雨は止んでくれたのか。俺の後ろに隠れていた三人は気を失ってはいたがみんな生きてるみたいだ
「あ、アキナ、みんな・・・よかった生きてる。バオさん、皆返事してくれ・・・」
味方の攻撃が止んだあとは地獄そのものだった。木々は薙ぎ倒されどれがゴブリンが人間かわからない有様だったし、あらゆる匂いが混ざった悪臭が手伝って気分が悪くなる
アキナの補助魔法、そして俺自身ガードを解いていなければ全滅していたかもしれない
負傷していた人間もいたが、団長をはじめとしたクランのメンバーは一部しかいない。おそらくはいないのはそういうことなんだろう
アキナは気絶していた。この光景を見なかっただけ意味幸運なのだろう
空を見上げると、打ち損じのゴブリンのトドメをさしに回っていたカイトが次の場所に向かおうとしていた最中だった
「馬鹿野郎、味方ごと撃つやつがあるか!!」
「うっせ、避けれないお前らが悪いんだろ!バーカ!」
流石の俺も頭にきたがをカイトは悪びれる様子を見せるどころか子供のような反論をする
「よせ、カズナリ。それよりもまずいことになってしまった。ゴル、説明してくれ」
口論が中断され、カイトとその部下達は別の場所に向かった
俺が呆然し、カイトと口論をしていた間にもマスターはすでに状況を整理し、新しい情報を集めていた。俺も感情的になっていた。今は感情に流されている時じゃないもんな
ゴルが半死半生のギルド員を引きずりながらやってきた。先程の攻撃でやられたんだろうか
「今さっき逃げようとしたこいつから聞いたんだが、麓の連中が山に火をつけ始めやがった!」
「戦いの痕跡を消すためか。こんなことをするのは間違いなくギルデロイ王子の指示だろうな。」
下にいる人間はゴブリンとの交戦を避けたがっていた人間だ。それを間接的に殺せだなんて、人のやることか!?
「王子の指示って、状況が変わったら【テレパス】で連絡してくれるって話じゃないですか!?」
あまりにも行き合ったりばったりすぎる。しかし、こう言う事態に慣れているのかクランの先輩たちはあまり驚きはしない
「そうだが、裏であらかじめこのことを知らされていた奴もいたみたいだ。ここにいないクランメンバーの中にもそういうやつがいるかもしれねぇ、特にワザンとかな」
「よせ、そう疑うもんじゃ無い。【テレパス】を使って呼びかけをする。俺たちは麓に戻るぞ」
そういえば
作戦中、副団長のワザンの姿がないことに気づいた。
仮に普段姿を見せていなかったメンバーともどもはじめからこうなると知っていて、はじめから俺たちを見捨てる気があったとするなら
•••いや、やめておこう
それよりも今は生きることが先決だ。
動けるものが動けないものを庇い
俺も気絶したままの彼女をおぶる
ヒーラーは守り手と共に行方不明、交戦地帯を避けて下山した
麓の見方の注意喚起が来たのはそのあとだった
鳥や動物の声も慌ただしくなり、火の手が回るのを予感させられていた。
「いやぁ、逃げ回る敵を倒すだけで点が入るからありがたいねぇ!巣穴を見つけられてよかったな」
「身籠ってるやつもいたし、実質一匹倒してニ匹カウントだぞ!」
「双子なら三匹分だ」
「「ははははははは!!」」
「第一位のストレンチオ、二位もいる。まさか、そんな」
降りる途中、不謹慎な話題で盛り上がっている戦士を見た。ギルドマスターの戸惑いの声を聞き、納得した。まさか上位の人間がこんな奴らだとは思ってもいなかったようだ
その時の団長の顔はおそらく生涯忘れることはないだろう
何が序列八番までの有力な戦士達だ。どいつもこいつも
「サーシャ、どこにいるの!ねぇ、返事してよ!」
「早くこいつを治癒してくれ、このままじゃ死んでしまう!」
下山した後も地獄だった。俺たちのように仲間とはぐれたもの、味方の攻撃で死にかけたもの。自ら火を放ったことで心を病んだ者
とても勝利とは言えない光景だ
「茫然とする気持ちもわかるが手を動かせ、今人手が足りないんだから」
動揺する俺に後ろから声をかける者がいた。その声は第三王子だった
「山が燃えたんだぞ!俺たちも巻き添えになるところだった!言うことがあるんじゃないか!?」
「心配なく。山火事としてのカバーストーリーはできているよ」
「貴様!!」
殴りかかろうとしたが団長によって引き止められた
「よせ、相手はギルドマスターだぞ。加護のない人間を殴れば簡単に死んでしまう、やめろ!」
「ふざけるな、こんな非人道的なことが許されるものか!」
「その指示に従ったのは君だ。自分の行いに疑問があると言うなら山に行って取り残された人たちを助けるといい。それこそ英雄的行為だろう。」
羽交い締めにされ
ギルデロイは殴られないと分かっていたのだろう、俺を嘲笑うような余裕な表情を見せつけ去っていく
「か、カズナリさん。山が、燃えている」
アキナの動揺した声。振り返れば火は瞬く間に広がっていく。実際の火事は見たことないが、絶望させるには十分すぎた
あの山にはゴブリンだけではないたくさんの命があったのだ
それだけの犠牲が国の平和に釣り合うのだろうか
この作戦に五万人弱の冒険者が導入され、うち二千三百人ほどが負傷、わかっているだけでも十六人が死亡、ニ百五十人以上の行方不明者がでる。作戦史上で最小の被害として記録された
依頼成功
報酬
36000G
Info
※プレイヤー側:のロストは後に発表します
攻略ランクS
文句のつけようのないこの上ない成功。その調子で頑張りましょう
せぱたくろーです。投稿遅れてすみませんでした。
次回の投稿は明後日4月17日(土)を予定しております
またよろしくお願いします