役割
「ポチはかなり噛み癖があるそうなので気をつけてくださいね」
出発前に受付嬢に言われたことだ。なるほど、確かに噛み癖はありそうだ
ペット捜索のために出向いたのに、まさか戦闘になるとは思ってもいなかったからなぁ
「犬の名前みたいな名前をつけやがってぇー!何がポチだ!ふざけんな!」
名前をバカにされて怒ったのかカロロロ、と威嚇するような声をあげ、俺を睨みつけている
こいつは謝った方がいいか?俺たちは臨戦態勢をとる
「松明を持っていては思うように戦えないだろう。俺が【照明】をつけてやる」
あれは俺がファイアアローと迷って所得しなかったスキル。
ダインの手のひらから光の玉が出てきて天井に打ち上がるや暗闇を照らしだした。持っているんならはじめからそうしやがれ!
ザザザザザザ!
と、よそ見をしているとワニは俺の距離を詰める
「早!」
「よ、よし、俺が守って・・・」
俺が剣を抜く間もなく側面に回り込まれてしまったあわてて盾を取り出そうとするが
〈武器を外してください〉
目の前に注意書きのウィンドウ現れた
「しまった!」
俺の持つ盾は大きさのため剣との併用はできない
慌てて剣をしまい盾を構えようとする、が
『間に合わ・・・』
そして
俺の首元にフルスイングした尻尾が直撃する
『ぐ、おっ!』
視界に火花が散り世界がグルグルまわるーー
そして俺の体はゴムボールのように地面をバウンドし頭からヘドロの地面に叩きつけられた
遠くから甲高い悲鳴が聞こえる
•••痛え、臭え、これがリアルな描写か。ふざけんな、こんな、ところ、リアルにすんな
意識が飛ばなかっただけまだマシなんだろうが全身が痛い
「大丈夫だ、生命力がゼロにでもならなければ骨が折れたり気を失ったりはしない![骨折]や[気絶]みたいなバッドステータスなら話は別だがな、立て!」
痛みにのたうち回る俺に先輩は腕を組んだまま俺に激励する。そりゃどうもですよ。
カズナリ
生命力20→13
俺の目の前でウィンドウが開く。
痛みの割には体力は減っていないのがせめてものの救いだ。俺が防御に特化した職業にしておいたのがここで助かるとは思わなかった
倒れている俺に追撃をかけるように飛びついてきた
「グゥオアアッ!」
「!?」
ガリィ!
ポチの自慢のアゴをなんとか盾で押さえ込んだ
間一髪、今度こそ攻撃を防ぐことに成功したようだ
ギリギリギリと嫌な音がダンジョン内に響く
「今でこそ防いじゃいるがこのままだとジリ貧だ」
アキナは襲われている俺をみて戸惑っており、ダインは相変わらず厳格そうな顔つきで俺の戦いを見ているだけ
二人からの支援はあてにできないか
俺はなんとか食われない程度に盾をスライド左手だけ出して魔法を唱える
「【ファイアアロー】!!」
ボン!ボン!ボン!
「!!?」
「どぉりゃああああああ!」
怯んだ隙にワニを渾身の力で盾で押し出し距離を取る
「やったか!?」
思わず俺は叫んだ。
生け捕りが任務だから本当はやってはいけない。でも殺らなきゃ殺られる!こっちも命がかかってるんだから!
ほぼノーダメージ、
怯んでいるが捕まえるにはもう少し弱らせる必要はありそうだ
打開策はないか?俺はアキナのステータスに目を通す
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名前 アキナ 性別 女 年齢17歳
種族 人間(最初に所得、レベルをあげられるスキル+1)
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職業 エンチャンター
境遇 迫害され生きてきた
動機 誰かの役に立ちたい
生命力15魔法力32防御力15攻撃力3俊敏性12幸運13
スキル(スキルレベルキャップ2)
•ファイアエンチャントLV1 技ポイント9/10 装備やアイテムに炎属性を付与する スロット1
•アイスエンチャントLV1 技ポイント10/10 装備やアイテムに炎属性を付与する スロット1
•杖適正LV1 パッシブ
•ライトニングボルトLV1 技ポイント12/12 スロット1 雷の弾を敵に飛ばす、着弾時対象の周囲に隣接してるものにも小ダメージ
•変装 パッシブ
特筆すべきは魔法力、とはいえ攻撃手段は【ライトニングボルト】のみ、あいつに組みつかれた時に撃たれたら俺までお陀仏だ
ワニが起き上がり突撃の姿勢を構える
くそっ、もう元気になったのか
「アキナ!しっかりしろ!お前の力が必要なんだ」
このままではやられてしまう。俺は立ち往生してる彼女に向けて叫んだ
「ここでやられたら、俺はまた何も成し遂げられなくなる。もう嫌なんだそんなの」
「グゥルルァアア!」
ワニが咆哮をあげ尻尾で殴りつける。ガード成功
〈警告 盾にダメージ蓄積52%〉
急に警告画面が?なんだ、ダメージ蓄積って?
「言い忘れていたが、盾は連続で使用するとダメージが蓄積されるぞ!100%超えると壊れはしないが二分間防御はできなくなる!」
「なら助けろ唐変木!!」
「しかし、動き回られては捕まえられないからなぁ」と唐変木はいう
〈警告 盾にダメージ蓄積67%〉
「たのむ!俺を助けてくれ」
「私なんかじゃ、何も」
アキナの目から大粒の涙が出る
「ぶっちゃけお前のこと一人じゃ何もできない子だと思ってた」
おい、俺何言ってるんだ
〈ダメージ蓄積78%〉
「でも違った。本当はお前の方が冷静に物事も見てるしちゃんと前もって対処できてた!俺が一番ダメダメだったんだ!」
アキナは涙を両手で拭いながらふるふるとかぶりを振るっている。
〈ダメージ蓄積89% このままだと危険です〉
「俺は一人じゃ何もできない!頼む!力を貸してくれ!奴が噛みつきをした時、盾に【アイスエンチャント】をかけてくれ」
「あ、あ、、ああぁ・・・」
怪訝そうに見てるダインのことはもうすでに気も止めなかった
とにかく俺は彼女に向き合うためにも俺の心の中を見せたかったに違いない
尻尾攻撃がくる。違う。それじゃねえ!これ以上で盾にダメージを加えるわけには・・・腕で防ぐしかねえ
カズナリ
生命13→5
「痛ッッッッ!!」
腕を弾かれてよろける俺に
トドメと言わんばかりに目の前で巨大な口が開く
アキナは今にも泣きそうだ。頼む、耐えろ、頑張って唱えてくれ
「この野郎!」
負けじとカウンターで盾を開いた口に突っ込む。
その瞬間
『【アイスエンチャント】!』
彼女は盾に氷の冷気が覆い
ポチは盾に張り付かせてくれた。
これならなんとか捕まえられそうだ
「よし、動きは止められたぞ!」
「そうだ!離すんじゃないぞ!【ディバインバインド】」
ワニの上から黒いバンドもようなものが覆い被さりそのまま包み込んだ。瞬く間に黒い塊となったそれが何度ももがくがびくともしない。
どうやら捕獲は成功の様子
「そうだよな、秘匿組織なのに普通の犬を捕まえる依頼が来るわけないよなぁ」
依頼の詳細欄を見るが長文の中にちょこっとひと単語だけ『ワニ』と書かれている。読んでも読んでなくても多分同じことになってたんだろう
「カズナリさぁーん!」
へたりこむ俺にアキナは嬉しそうな顔で駆けつけてくれる
「私、私、やりました!」
「あぁ、やったな!」
「ふっ、はじめはどうかと思ったがなかなかいい素質をしている。俺から教えてやれることはもうない」
その光景をいい話だと腕組んでうんうんと頷く先輩、クソ腹立つなこの男
すると、地下道がグニャグニャと歪み出す
「なんだ!?」
「依頼が達成したからリザルト画面に入るのだろう。いい戦いだったぞ。また会おう!」
世界が歪みだし、先輩もサムズアップしながら消えてゆく。このまま一生現れるな!
「カズナリさん」
「え?」
「私、あなたに会えて本当によかったです。よければまたー」
アキナが何かを言いかけたとき、暗転した空間に放り込まれ、経験値や報酬が出てきた。さらには
MVP ダイン
の文字もあった
『なにもしてないくせに・・・クソッ、あとで覚えてろよな』
文字相手に欲しいならくれてやるよ!とキレていたが
俺が MVPの重要さを知るのはまだ先の話である
そして気がつくと俺は畳の間に戻っていた。正確には『俺の意思は』か、どうでもいいが
「私、あなたに会えて本当によかったです。よければまたー」
不意に思い出した別れ際の彼女の笑顔に俺の体温が上がってくる。外の風で頭でも冷やそうと俺は窓を開けた
「やべ、もう夕方だ・・・」
始まる前は昼下がりだった空はすでに赤く染まっていた。
早く夕飯の準備しなくちゃなぁ
せぱたくろーです。デビュー戦はうまく行ったカズナリくん。早速ギルドバウトオンラインの洗礼を受けたようですが、これはまだまだ序の口です。
次回投稿は早ければ明日にでも投稿します。ではまたよろしくお願いします