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カズナリ、仕事辞めるってよ

俺は数年勤めていた会社を辞めた。


最近、入った仕事がかなり大変なもので精神的にまいってしまったのだ。

そんなことを言ったら『甘えるな』と言われそうだがそれにも理由がある

部長にすら知らされていない謎のプログラムを毎日毎日、組み立てる作業、それも正体のわからない元請けからの追加注文と仕様変更の数々

さながらゴールを知らされず障害物だらけの悪路を延々と走らされるマラソンのようなもの、さすがに精神的に応えるのだ



しかし、そんな会社とも別れる日が来た

長年連れ添った同僚が会社を辞める手引きをしてくれたおかげでなんとかやめることができたのだ


手に入れた自由に嬉しさを覚える反面

残してきた仕事や、あの駅のホームに並ばなくていいと思うと若干の寂しさも感じるが、気をあらためて行くしかない



「しっかし、この部屋も久しぶりだな。」


俺が働いていた会社には社内宅はなく、近くの安い賃貸を借りていた。


「自分で言うのもなんだが、まるで借りたての部屋みたいだ」


・・・借りたはいいが、ほとんど使う機会もなく少し掃除すれば快適に暮らせそうなくらいにほとんど手付かずであったのだが


一通り掃除を終わらせて俺は畳に大の字になる。久しぶりの椅子以外での睡眠だ

こういう心の余裕が人間には必要なんだよな。


「そういえば 」


このまま眠ろうか考えていたとき、ふと思い出したように俺は上体を起こした


俺が仕事を辞め、別れの挨拶をした時に同僚のオオニタは俺にVR MMOを勧めてくれたのだ

彼は体育会系のナイスガイだが、社会に出るまではよく遊んでいたという


こんな会社で働き詰めになることも多いし、今は結婚して小さい子供もいるからそれどころではないと言っていたが『子供が大きくなったらまたやりたい』と言っていたな


幸い今の俺には時間も貯金もある。俺はおもむろにスマートフォンをぽちぽちといじった





それから数日後、通販サイトの注文していたVR MMO用の装置が届いたようだ



VR MMO用ヘッドセット


頭に取り付け安静な状態でヘッドセットの電源を入れると、特殊な催眠音波が装着者を半睡眠半覚醒にした状態にするそうだ


そこから機械が脳から出る電流をヘッドセットが判別し、あらかじめ作ったキャラクターがそれに応じた動きができるように設計してあり

そのキャラクターたちはネットを介してゲームやチャットができるとかなんとか


ゲームの他にも買い物もできるため食事と睡眠以外はこれで事足りると言っても過言ではない


もっとも西暦も2035年にもなり今やスマートフォンやパソコンだって画面が飛び出す時代、技術的な革新はあってもおかしくはないのだが


そんなハイテクマシーンが目の前にある


「こ、これがVR・・・?」


8畳半の殺風景な空間の真ん中に小さめの箱が存在感を示している


ハイテクな機械だからもっと大層な箱に入っているのかと思っていたが思ったよりコンパクトな箱で届いてきたのでビックリしてしまった


確か俺が小遣いを貯めて買ったゲーム機の箱はもう一回りもっと大きかった気がする


なにせ俺のゲーム像は中学生時代でストップしている


ゲームは中学生の頃遊んで以来だ。受験シーズン前にはパッタリとやめて後はずっと勉強してばかりだった


俺は期待半分怖さ半分で小さな梱包を開くと、白い水中眼鏡みたいなものが出てきた


「こんなんでゲームできるのか?」


俺が子供の頃はこれよりも厚いディスプレイグラスを顔につけて、両手にコントローラーを持って遊んでいたんだが、小さな箱をひっくり返してもコントローラーらしきものは入っていない


だが、これで正解のようだ。スマートフォンでこれの取り扱い方法を調べ改めて技術の進化を驚かさられた


「なんか怖いがやってみるか」


早速押入れから出した枕を置き、横になった状態でヘッドセットを起動する


『催眠機能を開始します。画面の点に集中して見てください』


優しそうな女性のアナウンスが聞こえる


はじめは緊張していたが、みるみるうちに体がリラックスしていく


俺の意識が遠のいていく、夜眠るようにゆっくり、ゆっくりと・・・



俺は白い電子空間に飛ばされた。

なるほど、ここがVRの空間か

頬をつねっても全く痛みは感じないが体の感覚はあるし意識もはっきりしている


ネットを調べると元は魂を電子化して直接電脳世界に送り込む設計だったらしいが、今の技術でも十分自分の意識で自分の体を動かしていると錯覚してしまう


言わばあらかじめ用意した世界で皆が同じ明晰夢を見るのがVR MMOや VRチャットみたいなものだしな


『初期設定を開始してください。』


すると、俺の目の前にウィンドウが出てきて俺は思わず身をすくませた


「す、すごい!こんなのマンガでしか見たことないぞ」


しかし、設定する項目はパソコンやスマホと全く同じで助かった。あまりにもハイテクすぎて魔法の道具かなんだかのように思っていたがここでようやく親近感が湧いたのだから


『 「最後にアバターを作るのか」


自分の目の前に自分そっくりの人型が出てきた時にはびっくりした。

ここから自分好みに体をつくるようだ

ここから自分好みに変えるのは少し不気味だが、これから付き合いが長くなる肉体だ、ここは少し鼻を高くして、アゴも補足してみるか



初期設定を終えたら今度はゲーム探しだ。


再びウィンドウを呼び出すとVR MMOで調べた

VRの空間にいるのにやっていることは事実でスマホでネットをしている時となんら変わりないのは少し複雑だ


ゲームなんてどれも同じと思って調べたら莫大な量のタイトルに目移りしてしまった


AIの進化とVRの技術の発展でVR MMOが爆発的に増えたとオオニタは言っていたが、それにしたってかなりの種類がある。ビッグタイトルも十数本あるから、ここから絞るのも大変だ


この中からビッグタイトルのレビューを調べて特に評価の高いものを選びようやく数本まで絞ることができた


「こんなものか、あとはプレビューを押せばどんな作品かわかるんだな?・・・おわっ!?」


海洋アドベンチャーの『セブンオーシャン』のプレビューを押すと、自分の足元が突然ガレオン船の甲板になり、向こうから海賊戦の砲撃がとんできた

危ない!と、慌てて『幻想学園』のタイトルを押すと今度は空間がファンタジーな教室に変わり周りに可愛らしい妖精が俺の周りをふよふよと飛び、俺に悪戯をしてくる

抵抗しようとうっかり『多重宇宙戦記ゼクストウォーカー』のタイトルを肘で押すとまた世界が切り替わる


今度は江戸と未来都市がごっちゃになった世界でバニーガールとカウボーイが俺の目の前でビルより高く跳躍しながらゾンビ化した巨大怪獣とサイボーグのオークと死闘を演じている


目の当たりにした俺は立ちくらみを覚えた



そして俺は白い空間に戻る



「だめだ、どれもしっくり来ない。」



最後に残ったのはギルドバウトオンライン


ギルドバウトオンラインの説明欄は『リアルな描写、簡単なアクション、スキルや職業を駆使した高いカスタマイズ性と戦略性。』とありはじめから興味があった


これは運営の対応や民度の低さ、難易度やシナリオに苦言を入れている人間もちらほらといたがレビュー総数も多い宿命だとその時は受け入れていた。この時流し見ではなくちゃんと読んでいたらまた未来は違っていただろう


「お前が最後の希望だからな、頼むぞ!」


タイトルを押すと、中世ファンタジーの世界が目の前に広がる、草の茂った丘から龍の飛ぶ姿や、その先には大きな城が見える


視界を変えると中型の獅子のような魔物を取り囲んで戦っている。見た感じ、剣士と魔法使い僧侶とそしてナイトだ

ナイトに守られつつ僧侶が味方を治癒しながら

魔法使いの呪文で足止めされた魔物を剣士が大剣で斬りつける


「スゲェ、そうだよ!俺、こう言うのやりたかったんだ」

二十代半ばでありながら年甲斐もなく喜ぶ俺


それに気が付いたのか獅子は標的をパーティから俺に切り替え飛びかかってきた


「危なっ!!」


避ける動作もできず目をつぶって身構える


「•••?」


痛みはない、VRだからだろうか?


おそるおそる目を開けるとその答えがあった


『!?』


ナイトだが巨大な盾で魔物の飛びかかりを防いでくれていたのだ


「すげぇ、かっけぇよ」


もしかしたらこの時に俺がこの運命を決めていたのかもしれない


その隙を突くように大剣を持った剣士が魔物に斬撃を決めるところで世界がタイトルロゴの浮かぶ空間に変わった



『きめた』


『俺、このゲームにしよう』


せぱたくろーです、今回も読んでいただきありがとうございます。

次回はお待ちかねのキャラメイク回です。まだ希望に胸を膨らませていた頃のカズナリは一体どんなキャラを作るのでしょうか


次回は4月6日(火)の投稿となります。お楽しみに

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