十六章信じるモノ
「いい加減にしろよ、テメェーー!!!」
「ぐひぃ!」
バキィ!!ゴロゴロゴロ
俺のパンチがカミュことカミヤマの顔面にクリーンヒットし
大きな音を立てて壁にぶつかった
「や、ヤナギバさん落ち着いてください。ここ飲み屋ですよ」
「うるせぇ、ワザン様と呼べ!てめぇもぶっ飛ばされたいのか!」
俺は薄氷騎士団のクランマスターにて、ヤガミ様のお気に入り
有名ゲームプロデューサーと太いパイプがあると吹聴していたこともあり
VRゲーム界隈でもそれなりに有名な人間であった
それが災いし、同じクラン員がやらかしてしまった護衛ミッションの失敗が俺の失敗と扱われてVRMMO界隈で瞬く間に広まったのだ
『依頼失敗ざまぁwww』『〈悲報〉ワザンやらかす』『所詮プロデューサーのコネだけのザコ』
匿名掲示板に至っては身元が割れない分好き勝手書き放題だ
「だいたいこれは俺の失態じゃねぇ!なんでテメェらのとばっちりをうけなきゃいけないんだ!」
イルマ、カミュ、ドルフの三馬鹿が正座で並んでいるのを俺は酒をかっくらいながら説教する
リアルを捨ててゲームに打ち込み
依頼をこなし、ヤガミ様に媚び、バオを亡き者にして
クランマスターとして成り上がったまでは良かったが
俺の立ち回りには何一つ問題はなかった。
にもかかわらずあの無能どものせいで徐々に転落し始めている
「飲み代二万円、支払いはテメェらが出せよ!壁の修理費もな!!」
俺は足早に飲み屋を出た
最悪の気分だ。思い返せばカズナリと関わってからすべてがうまくいかなくなっているようだ
くそっ、どうして俺がこんな目に
「この俺が必ず殺してやるからなカズナリいいいい!」
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「貧民街から蜂起を起こすという予言がありました」
作戦会議室でイレイナが発した言葉に依頼の紙を読んでいる俺とアキナ、そしてワザンと取り巻きの片割れ以外の全員は息を飲んでいた
蜂起、要は反乱だ。
本来なら一般人程度プレイヤーの敵ではないのだが
前回の襲撃事件のように何者かの協力で強い装備をそろえていたというなら話は別だ
「先日起こった一連の襲撃事件と同じどうやら《ジュラ自警団》が一枚噛んでいたようです」
「《ジュラ自警団》?」
ジュラ自警団
「盗んだお金を孤児院や貧しい家に配ったり、問題を起こしている貴族を狙って暗殺を行い、貧民を中心に支持を得ようとしている小狡いギルドです。
彼らをのさばらせることは国の風紀にも関わります」
《黒蛇党》より信用できるだろうが
実際に俺たちは彼らのスケープゴートとして扱われていたのだ
俺は《アークライト》のことを信用していない
彼らの行き当たりばったりな行動が全部裏目に出ているから。
〈文字が正しく表示されていない不具合を修正します〉
今、バッグの中で声が聞こえた。
エルだ。初めて会った時もこんな感じだった
よく見れば、この依頼書や掲示板の文字が変わっていってるのがわかった。
まさかと思い俺は依頼書に手を取る
ワザンに至っては、文字も読めないのにと遠巻きに嘲笑っていているがそれどころではない
この時、俺は自分の中でモヤモヤ黒い霧のように溜まっていた違和感の正体がわかった
俺はこのギルドを社畜時代散々使い潰してきた会社と同じように見ているんだ
俺はやらされ感にうんざりしていたんだ
こんなことはしてはいられない
「そこで皆様にはーーー」
ビッ!!
「!?」
依頼書の破ける音が静かな会議室に響く
「カズナリさん、あなた何をやっているのかわかっているのですか?」
「おぉい、カズナリぃ!紙で遊ぶのは飽きて次はおねんねでちゅかー?」
やたら俺に絡んでくるワザンは無視し、俺は受付嬢に詰め寄った
一気に場の空気が張り詰めたのがわかった。
だが、俺は臆せずに話を進めた
「イレイナさん。俺は前回犯罪者の貴族を救う依頼をした。法の裁きを金で解決するろくでもない人間を救う依頼をな」
「今の依頼と関係ない話は慎んでほしいのですが、特別にお答えしましょう」
受付嬢はため息をつくと話をつづけた
「《アークライト》は断罪人ではございません。罪人を処罰するのは衛兵の仕事です」
受付嬢は「なんだ、そんなことか」と言わんばかりにカズナリに答えた
「お言葉ですがねイレイナさん。俺はこの目で見たんだ、『衛兵が金でなびく』ところを」
俺達が初の依頼を受けた時の事、俺を不審者と勘違いした衛兵に追われた時
先輩プレイヤーが金で『なんとかした』ことを話してやるとワザン以外の参加者のイレイナに対する目つきが変わった
いい流れだ。俺は話をつづけた
「そもそもその依頼は『その帰属が殺される未来を変えるため』ギルドから守るよう命じられたことだ。
今まで『未来は変えてはいけない』なんて言われてきたのにだ」
「貴族から信用されることも平和維持の一環です。それが何か?」
「《自警団》が支持されるのは、それだけ貴族ありきにことを薦める方法に問題があるからじゃないのか?」
「カズナリさん、わかるように説明してください」
「金持ちの命令で貧民街に地上げし、金持ちのオシャレのために絶滅間際の動物を狩るギルドと金で犯罪を見逃す衛兵。そんな連中に
国の平和を守られたくないんだろうなと思ってな。それに――」
俺は息を吸うととどめの一言を言ってやった
「|得体もしれない犯罪者ギルド《《黒蛇党》》よりもこっちの方が信用できますよ。実際、あのタレコミだって俺たちを身代わりにして罠かどうか確かめてきたためじゃないか。」
「もういいです、イレイナさん。反乱分子の言い分なんて聞くだけ無駄ですよ」
あと一歩のところで後ろからワザンが割って入ってきた
「これだよ、バッドエンドが嫌いなばかりにゲームマスターにケチつける奴『ぼくのなっとくのいくけつまつじゃない』ってなぁー!」
「そうだそうだ!この世界の倫理観を現実と一緒くたにするな!」
ワザンはくねくねと裏声を使って茶々を入れ、腰巾着が反論させまいとお得意の波状口撃を俺に浴びせかけていると
この場を切り上げようとイレイナはいつもの締めの言葉で会議を締めくくらせた
「もういいでしょう?カズナリさん。これは強制ではありません。行くか行かないかは皆様の自由です。時間がかかってしまったので依頼の詳細はウィンドウ欄でご確認ください」
「カズナリさん。行きましょう」
「あぁ。なんとしてもギルドの思うようにはさせない」
様々な思いを胸に俺達は現地へ向かう
俺にできることはした。あとはみんなの判断次第だ
「この依頼が納得がいかないのでしたら依頼は失敗扱いとしてリタイアすることも可能です。もっとも半数以上の可決が必要ですが」
ロクな作戦会議もせず俺達が現場に駆け付けた(正確にはワープだが)俺達に待ち受けたのは
暴力の限りで市民街を破壊し続ける貧民たちの姿であった。
暴徒たちは貴族街の門前まで押し寄せている
煤にまみれたようなみすぼらしい姿とは合わないほどその誰もが新品の上質な武具を身を付け
その誰もが闘志に満ち溢れている
「■■・・・■■■■!!」
何か叫んでいるようだったが声がくぐもっていて聞こえない
「カズナリさん来ます。」
「あぁ。お手並み拝見だな」
俺は傍観者として後方で皆の動きを見ていた。
ぶっちゃけた話でいえば俺が一人動かなくとも――
なんならワザン以外が動かなくてもチートの加護を得ている彼らだけで十分立ち向かることはできる
しかし、彼のことだ「敢えて本気を出さない」という選択肢を選ぶことも可能だ
その場合「カズナリが参加しなかったから攻略できませんでした」となるのだ
そんなことを知ってか知らずか奴隷の群れがこちらに向かって突き進んでくる
「お前ら!奴隷どもが攻めてくるぞ。カズナリのヘッポコ野郎の分も働けよ!」
しかし、同行者たちは微動だにしない
「おい、敵が来ているんだぞ!」
それに対しワザンと取り巻きは同行者たちに動くように語りかける、が」
「敵?いや、彼らは敵ではありません」
犬の頭をした同行者が話す
「私達はあのひとが捨てた依頼書を見ました。そこには『蜂起した民衆の対処』なんて言葉は一言もありませんよ。そもそも彼らは貧民街の人間ですらなかった。」
犬の頭の冒険者は破けた依頼書をワザンに見せる。確かにそこには「山を焼いたことにより、壁の外の住人たちが暴徒と化した《ジュラ自警団》の協力の元王国を攻め入っています」と書いてあった
「だから何だってんだよぉ。ギルド員は文字は読めない設定だ!なんかの間違いだろぉ!」
「そうです。我々ギルド員はこの世界の文字は読むことはできなかった。ですが何の因果かは知りませんがこんな文章を読んでしまった今協力はできません!」
破けた依頼書を見せる。確かにそこには「山を焼いたことにより、壁の外の住人たちが暴徒と化した《ジュラ自警団》の協力の元王国を攻め入っています」と書いてあった
犬だけではなくエルフや鳥の羽をした有翼人らもギルド員も抗議を始めた
「私たちはギルデロイ皇子の命令に従ったとはいえ、あの作戦には今でも納得しておりません。尻ぬぐいの為に戦えというのなら私たちは断ります」
「仮にこの依頼書を読まなかったら僕たちは騙されるところだった」
「これはカズナリの偽装かもしれないだろ。どうしてそんなことが言えるんだ!?」
「印を見てみろワザン。これは俺の偽装じゃない」
ワザンがひったくって読んでみたが、確かに字面や印はギルドの物である
「こ、これは一体・・・」
「だ、だ、だからケ・オスの倫理観はな――」
「憎い・・・」
見苦しくもワザンの取り巻きも弁明を図るが
押し寄せてきた兵士たちの言葉が遮る
「貴様たちが山を焼いたのか・・・貴様たちのせいで山で獲物を捕れなくなってしまったではないか」
今度は村人の声が聞き取れるような声で聞こえるようになった。しかも今までの流れを裏付けるように
なぜ急に読めないものが見れたり、聞きとれないものが感知できるようになったのかわからなかったが
「聞きましたかワザンさん。俺たちは今騙されようとしていたんですよ。それをカズナリさんは依頼書を読んで気づいたんです」
「ここにいるみんなは『この世の中を良くするために』戦っているんだ。倫理観云々じゃないんだよ。俺たちを騙して裏切ろうとしてるんだからな」
もっともゲームマスターの息のかかっているワザンは
知っていたんだろうがな
ゲームマスター側で俺達をだまそうとしていたのが分かったのだ
それも俺達が本来気づかない場所で
まるでプレイヤー側がヒーロー行為を行っていると「思い込んでいるところ」を影でほくそ笑んでいるかのように
「《アークライト》を信用できないならお前たちはどうする!?この物語はこのギルドに所属ありきの内容なんだぜ!」
「そのために俺は同意してくれる仲間を集めて対抗してやるさ。手始めにこの依頼はは『リタイア』させてもらうぜ、このことも報告しないといけないからな」
「お、おい、お前ら。待ー」
〈半数以上の同意を確認、依頼をリタイアします〉
皆が同時にウィンドウのリタイアボタンを押すと世界が歪み、俺たちはギルド内部に転送されていった
「依頼をやめさせることができたのはみんなのおかげだ。ありがとう」
依頼を済ませ、俺達は健闘を称えた
これもリタイアしてくれたみんなのおかげだと同行者たちに頭を下げて礼を言った
「いえ、礼を言うのはこちらの方です。もし、この事実を知っていたとしても僕たちはあの男に諂い依頼をしていたことでしょう」
「私たちも仲間が取り残したまま山に火を放った身としてこれ以上罪を重ねるわけにはいきませんから。しかし何故初対面の私たちをここまで信用できたのですか?」
「そうですよ。あの依頼書を見てもワザンさんの側につく可能性だってあったはずです。そしたらどうするつもりだったんですか?」
「そうならないと俺は信じていた」
俺の言葉にみんなが「え?」と返した。
言ってはおくが精神論ではない。
彼らのステータス欄の自由欄を覗いた時「オラカイト王国、ケ・オスの平和を守る」と書いていたこと
そして自由欄で依頼に参加者が皆ゴブリン退治に参加して、火をつけられたことに対し何がしらの感情を抱いていたことも分かったからだ
「ワザンの奴、火をつけらることも全部前もって知っていたんですね。ひどい話だ」
この話題も全部今回の事件と一緒に語ってもらうことにするつもりだ
本来ならこの事件の後、プレイヤーたちが村人を殺したことによってまた大規模な戦闘がおこることになっていたようだったが
俺達が依頼をボイコットしたことによりそれもお流れになったということが後でわかるのだがそれは別の話
エルディナ、君が来てから彼らの小細工が明るみに出ているような気がする
やっぱり君がやってくれたのか?
エルディナは今日もすやすやと眠っていた




