十五章ごっこ遊び
「バオさん、仇は打てなかったけどあいつから生き延びて帰ることはできたよ」
墓の前で俺は手を合わせる。
しかし、当然ながらこの下に彼の死体はない。
本当なら彼の中の人にメールを送ればいいことなのだが
キャラが死ぬとアカウントは消えてしまう使用上それは叶わない。
アドレスも番号も知る術がなくなった今はこう言った方法でしか伝えることが出来ない
|(まさかあんなにも早くバオさんの仇と対峙することになるとは思わなかったけど、落ち着いて戦うことができたよ)
感情的になったことで隙ができて返り討ちになってしまうのではないかと心配はしていたがどうやら杞憂に終わったようだ
ため息をついた後、俺はふらりと墓を後にした俺は町へと繰り出した
その昔、このゲームが開始された時のこと
後に外部のVRチャットが集いの中心になると知らなかった無辜なるプレイヤー達はロールプレイ用の建物を次々と設立した
学校、孤児院、大衆食堂
個々のアイディアや個性を活かそうと立ち並んだ店々が繁栄してたのは今は昔
俺がクランに入った初日ゴルさんに連れられた頃には人もほとんど通ることのない
ロールプレイ勢お断りを体現したようなゴーストタウンと化していた
それにもしかしたら社長らに監視されてるかもしれないしな
俺は使われていない宿屋の一室に入ると
妖精の少女がアキナと話していた。
記憶喪失の妖精相手にどんな話をしていたのか正直気になっていたが
だが、遠巻きに見れば
「ごっこ遊び」をしているようにしか見えなかった。
こんなこと二人に言ったら怒るだろうな
二人に「待たせた」と詫びを入れた後に軽く質問を始めてみた
|(しかし、出会った時の印象と全く違うな)
今でこそ物静かに質問に答える彼女だが、俺たちが出会った時の彼女はもっと明るく天真爛漫であった
記憶を失ったからと言われればそこまでだが
まるで別人、いや別のデータが書き込まれたようなそんな感じだ
「気分は、落ち着いたか?少し色々聞き出すことになるが大丈夫か?」
「はい」
尋問みたいで俺は少し気が引けてはいたが彼女も大丈夫と答えてくれたので質問を始める
なぜわざわざこんなところで尋問しているかって?理由は簡単だ
運営の息のかかった人間のことを考えると公式が用意したカフェは使いたくなかったのだ
アキナは心配そうに「また変な気持ちになったら言ってね」と記憶喪失のエルに言った
「あの時、俺たちを道案内してくれたりアイテムをくれたことも全部覚えていないのか」
「•••なにも思い出せない」
「じゃあ、君がうわごとで『自分が人間なのかNPCなのかわからない』と言ったことは?」
エルは首をふる。
ゴルさんとオオニタに連絡を入れたがまだどちらも返事は返ってこない今、地道に聞き出すしかないのだ
「質問はこの辺で終わりしよう。色々聞かせてもらって悪かったな。」
「大丈夫」
先日、依頼の最中に保護したNPCの少女を確保した俺たちはそのまま連れて帰り情報を聞き出そうとしていたのだがずっとこんなやりとりをくり返している
思った収穫がなく、どうしたものかと思った時、今度はエルが俺に質問をしてきた
「カズナリ、私もひとつ質問がある」
「ん?どうした?」
「カズナリやアキナは普段、どこに出かけている?」
「普段か、大体はギルドの依頼を受けて外に出かけるくらいだな」
「外?」
俺は外の世界とこの国について、そして自分たちが何者か説明した
オラカイト王国は魔物から人を守るため、更には魔物を認知させないよう城壁に囲まれている。
更に外から貧民、一般人、貴族、冒険者と王族と四つの区画に分けられている
一応、便宜上は貴族より優遇されているとはいえ、城の外に出るためにはギルドを通さないといけないことを伝えた。
そして俺たちが『この世界の人間ではない』と彼女と初めて会った時アキナが使った言葉で話した
「私も外に行きたい」
彼女は外に強い興味を示していた
基本壁に囲まれた窮屈な世界
この翼を使えば空も飛べるが、キラキラと光っているため人の目につきやすい。ギルデロイやイレイナに見つかったら討伐対象なされかねない
依頼についていきたいと言う彼女に全力で反対したが
「けど、外の世界を見れば思い出せるかもしれない」
と、その言葉に反論することができなかった
「今回の依頼は貴族の護送か」
今回俺たちが護衛対象になったのは前科三十犯の殺人犯
彼は「貧民は人に非ず、世の中の更生のためには貧民を皆殺しにすべき」という行動理念の元でこれだけの人数を死に至らしめたのだ。
さらにタチの悪いことに護衛対象の彼は有り余る資産で何度も保釈されている貴族ということ
夢見の巫女は予知でこのあと武装した遺族達によって襲撃され命を落とすから助けて欲しいとのことらしい
更にこの戦闘で相手の正体について何一つ情報は得られないというおまけ付き
|(未来は変えちゃいけねぇんじゃねぇのか?)
依頼内容を見ながら一人心で毒づく俺の横では皆がか「守れる命は守ろう!」
と士気を高めている
毎回毎回肩透かしと人死にを目の当たりにされた人間の末路か。
あんな人殺し一人のためにもしかしたらそれ以上の数の命が失われようとしているのに
モチベーション維持の理由を探す
何がなんでも人命を救いたい事実が欲しいのだろう
俺から言わしてみればヒーローごっこだな
「おぅ、ノリ悪いぞ!カズナリ」
俺に馴れ馴れしく声をかける奴がいた。その頭の悪い喋り方は忘れもしない、嘘をついて俺をクラン追放に追いやった要因を作ったワザンの取り巻きの一人カミュだ
「おぉん?お前もスカーレット装備持ってるのかよ!でも一式揃ってなけりゃ意味ないぜ?」
「一式揃っててもお前じゃ使いこなせないだろうがな」
痛いところカミュが歯噛みしながらこちらを見ている
相手が二人組の片割れだけとはいえ言い合いに対して強くなったのが実感できる。
こんな形で自分の成長を実感するのは
アキナの髪飾りを見るなりちょっかいを出す輩に嫌味の一つを言った後何も返せなくなったカミュを尻目に
俺たちはいち早く依頼に出向いた
|(嫌になるな、みんなおかしいとは思わないのか?)
正直、こんな依頼は受けたくなかったが
王国内で他ギルドの動きがあったということで他は王国の壁の中の仕事
エルの要望を答えるために選んだ依頼がこれだ
貴族を搬送する間馬車に揺られながらいつぞやの殺し合いの時と同じモヤモヤとした感覚が浮かんでは消えて行った
ドォォォォン!!
「なんだ!?」
どこからともなく飛んでくる魔法。揺れる馬車
「襲撃だ、みんな降りろ!」
同伴者の誰かが依頼開始の合図と共に俺たちは馬車を飛び出した。
炎の魔法により護送用の馬車が損傷、自走は不可。さすがに貴族様は無事なようだ。
「八方から来るぞ!馬車を中心に戦うんだ!」
落ちた飴に群がるアリのように三倍近い戦力差で被害者の会がゾロゾロと湧いてくる参加者八人では一人で複数を相手にすることにしなければならない
「よせ、こんなことをしたって意味はないだろ!」
「無駄じゃない!これ以上僕の父さんや母さんみたいな人間を増やしたくない!」
降りかかる剣を俺は盾で受け止め、【シールドバッシュ】で押し返すと、剣に持ち替えてもう一方からくる敵を斬る
復讐者は腹部を抑えよろけ出す決定打のなさがここで役に立つとは
致命傷は避けたかた、治療さえ早ければ多分助かるはずだ
しかし、復讐者は歩みを止めようともしない
「父さん、母さん。せめてこいつらだけでも・・・!」
|(カズナリ、離れて!)
「!?」
咄嗟に俺は盾に持ち替え【シールドバッシュ】を使う
吹き飛ぶ復讐者の体から光に包まれると
ドォォォォン!!
間一髪、盾で破片と爆風を凌ぐことはできたが、吹き飛んだ少年はもはやチリすら残っていなかった
「な、なんだ。今の」
|(あの人達はみんな爆弾を持ってる。戦えなくなったら爆発できるように)
なんということだ、俺は絶望した
あの人殺しを助けるためにはどういう形であってもなんの罪もない人たちを殺さないといけないのだ。
|(こんなの、どっちが悪者なんだ・・・これじゃカロンや《黒蛇党》とかいう奴らと同じじゃないか)
「これじゃキリがありません!」
「俺たちよりいい武器を持っていやがるのにどうすりゃあいいんだよ!」
アキナたちの悲痛な叫びに俺は現実に戻された
なるほど、絶望する暇もくれないってのか。
同伴者達が思考停止するのもやむなしってか?
「何やってるんだ貴様ら。それでもギルド員か!」
俺の後ろで貴族が罵る。手枷をされているのに口だけは達者だ
こんなやつのために戦っているのかと思うと無性に腹が立ってくる
そんな時
(カズナリ来る!後ろ!)
「うおっ!!」
ヒュン!
体を捻るように上体を退くと光の弾が頬を掠めた
「カズナリさん!!」
杖で剣と迫り合っているアキナが叫ぶ
「ちっ、外したか!」
たまたま視界が後ろに行ったとき
カミュが俺を狙っているのを見た
腰につけていた鞄に隠れていたエルディナが忠告していなければ間違いなく直撃していた
が
ドォォォォン!!
「きゃあ!」
「うわぁ!!」
一瞬、敵が自爆したのかと思ったが
カミュの【爆裂弾】のスキルを発動したのだ
このスキルは着弾すると広範囲に爆発が行き渡り
直撃せずとも爆風に触れただけでダメージが入る攻撃だ。今回のような多数敵が現れる依頼には効果があるが
行動不能になった敵が次々と自爆するのでかなり悲惨なことになっている
本来、技ポイントが尽きたらその攻撃は使えなくなるのだが
スカーレット装備の効果は『技ポイント上限アップ』
そして『フル装備時、時間経過と共に技ポイントが回復する』と言ったもの。弾切れするわけがない
奴の攻撃を弾くための【反射】スキルを今俺は持っているが
仮に反射させてカミュが死ねばその時点で敵を押さえつける術を失いここにいる全員が袋叩きに遭い結局全員死ぬこととなる
「お前、俺がスカーレット装備使いこなせてねえつったなぁ!ちゃんと使いこなせてるだろぉ!」
カミュは散々イキリ散らすと次弾を装填する
|(カズナリ、今度は広範囲のノックバック攻撃がくる!)
スロット数の都合で【視界強化】を装備できない今
バッグの隙間からエルディナが教えてくれるので
死角から来るカミュの動向がわかるのはありがたい
しかしよくスキルまでわかるな、記憶が戻ったのか?
「まずいな、ノックバックなんかされてみろ。敵の群れに放り込まれて袋叩きにされちまう」
【反射】のスキルで跳ね返せたとして使用回数は三回分しかない。使い切った時に撃たれたらアウト
仮に跳ね返させたとしてもカミュがノックバックして•••
待てよ?
「アキナ、【範囲拡大】してくれ!」
「はい!」
「何をするつもりか知らないが、これでもくらいやがれ!」
カミュはノックバック弾を俺に飛ばしてくる
しかし
「悪いな、脊髄反射で返しちまったよ」
攻撃を受ける瞬間に【カウンター】が発動。
【爆裂弾】よりも先に
【範囲拡大】で効果範囲が伸びた【シールドバッシュ】でカミュは吹き飛ぶ。
「オッ、おぉ!?なんだ!?」
ノックバックの効果は人間の体格に関係なく作用し、一定の距離まで移動する。
「なんのつもりかしらねぇが、踏ん張りが効いた時、次こそ吹き飛ばしてやんよ!」
まだカミュは気づいていない。
ノックバックは設定された距離分後ろに下がるのだ
たとえその先に護衛対象がいても
更に追い討ちをかけるように【反射】で帰ってきたノックバック効果を持つ【爆裂弾】が飛んでくるのだ
「ば、バカ!戻ってくんじゃね・・・オ゛ォ゛ッ!!!」
ドゴドォッッッッ!!!
カミュの体に魔法の炸裂弾が破裂し、ノックバックで戻ってくる更に戻される
「ギルド員!俺を守ってくれるんじゃねぇのかー!」
「ぶ、ぶつか・・・
そして巨大な弾丸と化したカミュは
馬車に直撃した
ゴシャアッ!
「おぐえっ!」
かくして、護衛依頼は
護衛対象を巻き込んでのカミュの自爆という形で失敗に終わった
同行者の証言で俺の【反射】は不問に終わった
結局、敵の正体はわからなかったが
貧民が到底買えないような武器を揃えられるほどの勢力
巷で動きを見せている《黒蛇党》が復讐を餌に手駒にしたのだろうか?
それとは別にまた勢力があるのか
ともかく嵐は近い
早いうちにワザンとケリをつける必要はありそうだな




