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プロローグ ~ギルドバウトの日常~

降りしきる雨がレンガ造りの建物を、石畳を殴りつけている

目の前の視界さえロクに見えないほどの土砂降りともなれば浮浪者でさえ外にはいないだろう


そんな中同じ色、同じローブを着た五人組が街を走っている

こんな姿を誰かに見られたら憲兵ものだが、俺達は別に不審者でもなければ宗教団体の一派でもない。見たものに認識能力を下げるローブを着て何度も陣形を変えながら進まなければいけない理由が俺達にはあるのだ


ギルド≪アークライト≫

オラカイト公国第三王子が設立した、魔物討伐と治安維持を目的としたギルド。

しかし、公には明かされておらず、秘匿性の高さから世界一の国土を持つこの国でも知る者も一握りとさえ言われている。


・・・そういえば聞こえはいいが実際のところ政治的な力を持たないみそっかすの三男坊が間接的に国の治安に関わろうとした結果だ


とはいえ現在ここで活動している人間はゆうに数万はいるとされ俺、カズナリもその一員。

今は別働隊と連携し、追手から要人を守りながら俺達のアジトまで連れていくという任務の最中である


この要人、ギルド評議会の一員であり、裏では俺たちの活動を推進している数少ない味方だ。当然敵だってなりふりなんて構ってられないだろうに俺たちが自滅するのを待つほどの余裕があるのか未だに動きを見せていない



「くそっ、忌々しい雨め・・・」

俺は恨めしげに空を見上げても大粒の雨粒ばかりで月も星も見えない。降りしきる雨とぼやけた街灯で視界は最悪だ

いくら味方の陽動や見たものの認知能力を下げる魔法のローブを着せて、何度も隊列を変えて進んでいるとはいえいつ敵が来るかわからない状況は不安にもなる。せめてもの救いといえば一般人と遭遇しないですむことか


「呪文の効果で転ばないようにしているけど足元に気を付けてね」

「すまない、アキナ」


10代半ばのやさしい少女の声、その声の主こそアキナ、ピンクよりの赤毛が特徴の補助職である『エンチャンター』の少女。前の依頼で行動を共にするようになった数少ない知り合いだ


俺たちがこうして転ばずに済んでいるのも『エンチャンター』が得意とする付与スキルのおかげだ

紅一点の彼女の僅かな気遣いだけでもこの荒んだ状況では清涼剤となる


「そろそろ角に入るぞ。そこを突き抜ければ俺達のアジトはもうすぐだ。カズナリ、ちゃんとリンドさんとはこまめに連絡をとっているんだな?【テレパス】はお前しか使えないんだからな」


「いや、連絡が取れない。もしかしたらなにか異変があるのかもな」


「そんな心配しなくたってリンドさんなら囮としてうまくやってくれてるッスよ!現に敵も現れてないしぃ、うまく引き付けてくれてんだ。さっすが序列7位、俺尊敬しちゃうっすよ!」


後ろから男二人の声がする。いかにも固そうな人間と軟派な声、その場で組まれた即席メンバーとはいえ彼らも同じギルドからの同業者だ

この二人が尊敬するリンドと男、彼も今回の作戦に参加している人物である



リンド・アーバン


彼はこのギルドの中で七番目の序列を持つ男

数字的に見てみれば微妙なものだが、一万人弱の現役冒険者を有するギルドを考えればどれだけの逸材かはわかるだろう

彼に限らず序列八位までのギルド員は皆が憧れる存在。皆が皆、逸話を持ち、眉唾まゆつばではあるが一騎当千の力を持つという


そんな雲の上の存在が俺達に声をかけてきたのは出撃前のこと、なんと序列七位の男が単身で囮役を買ってでたのだ


「MVPをプレゼント?」


俺たちはリンドの提案に一度は怪訝に思った。なにせ評価は依頼の出来次第でギルド側が出すものなのだから


「そうさ、見たところ君たちは補助職だろ?僕達前衛職とは違い前に出て活躍する機会が限られている。それってさ不公平だとは思わないかい?」


MVP、もっともシナリオに貢献したプレイヤーに与えられる称号。報酬や経験値のボーナスのかレアアイテムまで贈呈される特典だ


依頼の大半が討伐や敵ギルドとの抗争のアークライトでは主に敵を倒す機会の多い前衛職の方がMVPをとりやすい作りとなっている。現に補助職である『ナイト』に就いているカズナリもその決定打の弱さが災いし、何度も手柄の横取りされた憂き目を見ている


「だからこそ僕は職業の扱いは平等であるべきだと思っている。僕は偽物と馬車に乗り極力奴らの目を引くから評議会の方をギルドまで送っていってくれたまえ。」


「すげぇ、さすがはリンドさん。器が違うぜ!」


「リンドさん!俺、一生ついていきます!」



俺とアキナ以外の二人は彼に歓声をあげ喜んでいる。


「七位殿一人でか?」


すでに勝ち確のムードになっている二人に呆れながらも冷静に質問を投げつけた

その疑問はおかしなことではない。敵だってならず者といえどリンドに匹敵、それ以上の実力を持つ敵はごまんといる。たとえ格下だとしても数人がかりで来られたらまず勝てはしないだろう


その問いに対しリンドが笑顔で答える


「もちろん、僕一人ではできないさ。そこで君に提案がある。今回の依頼のために【テレパス】のスキルを付けてくれないか」


【テレパス】は半径30キロ以内の同じスキルを持つ者同士で心で会話できるようになる能力。


ぱっと見通信能力としては高そうに見えるがお互いがその能力を起動しており、お互いが同意していないと機能せず、さらに(取り外し可能ではあるが)六つあるスキルスロットを二つ埋めるためあまり使い勝手は良くない


「この能力を使って近況を報告してくれ、もしかしたら敵の罠があるかもしれない。僕も変わったことがあったら連絡しよう、逐一連絡を頼む」

そう言って七位は作戦の準備のためにこの場を後にした


「君の聡明さに答えて必ずやこの役割をまっとうして見せよう」


(そうは言っていたがずっと連絡がつかない、ちゃんとテレパスは繋がっているハズだが・・・)


一抹の不安を抱えながら俺達は裏通りを抜ける、すると

『おっ疲れちゃーん』


場違いな高揚した声


その声の主は首から肩にかけてカラスの羽であしらったファーの付いた外套を着て、顔には鼻と口を隠すペストマスク、どう見ても一般人には見えなさそうなカラス男が姿を現したのだ


間違いない。こいつがならず者ギルドの人間、それも名のある人間だ。四対一、数ではこちらが優っているが、あの余裕からして向こうは前衛職、それもスピードがあるタイプだろうか



俺はダメ元でリンドに【テレパス】を送信する



「ハラハラしっぱなしの三時間、鬼のいない鬼ごっこ!感想聞かせてよ!!」


ねぇ、どんな気持ちどんな気持ち?と左右にステップしながらカズナリたちを煽っている。


「鬼のいない鬼ごっこだと?!わかりやすく話してみたらどうだ!!」


「たわ言をいいやがって、ただの待ち伏せ作戦をカッコ良く言ってるだけじゃねーか!?」


或いはただのおふざけ野郎か、なぞなぞの問いかけのような言葉を口にするカラスにしびれを切らし野郎2人が前に出た

下手に挑発に乗るのは死に直結する。俺も俺で止めに入ったのがまずかった


「こーゆうことだよーん!」


「きゃあっ!」


なんと要人が短剣を出し、前にいるアキナを人質に取ったのだ


「アキナッ!」


俺は捕らえられた彼女を助けようとしたが、カラス男が割って入ってくる



「だからさー、気づかないかなー。騙されてるの君らなんよw本当の囮は馬車に乗っているお友達じゃなくて、君ら」


さっきまでオラついていた2人は見てわかるレベルで愕然としているのがわかった

カラスはため息をついて頭を傾げて自分のこめかみを右手の人差し指でぐりぐりとする



「何言われてたのかわかんないけどさ、この世界で君らみたいなザコが活躍できるようなうまい話があるわけないじゃんw所詮は損する側とさせる側は一定なんよ」



「あー、シケたわ、とりま始末しますか。とりあえずリンド?だっけ?あっちはスパイを君らんちに運んでもらう仕事残してあるから保留(ほりゅー)ってことで。じゃ、ネタバレも済んだし、ギルドの未来を草葉の陰で指咥えて見てな」


平等だのなんだの言って結局リンドは我が身かわいさにMVPのために味方を、俺たちを売った

騙したリンドすらならず者ギルドの手のひらの上で踊らされていたのだ


救えねぇ、とことん救えねぇ


結局、この陽動作戦も、リンドの約束も、それよりもこの依頼さえ全部茶番だったわけだ。成功しようが失敗しようが早かれ遅かれ俺たちは損をするシナリオとなっていたのだ


「救えねぇ」

「あ?」



「どいつもこいつもウソつきばかり、自分のことしか考えてない・・・それが救えねえって言ってるんだよ」


ピクッとペストマスクが動いた、今の言葉で頭にきたのだろうかカラス男は俺に詰め寄ってくる


「俺様からしてみればそんな補助職が俺様に喧嘩売る方がよっぽど救いがないんだが!?」

クチバシが俺の顔に当たりそうな位置まで近づいてきた。いや、気にするべきは外套に手を突っ込んだことか?思いの外短気で驚いた

もう少し時間を稼ぎたかったが仕方ない


「現実を見ろよ!こっちには人質、お前にはお荷物二人。仲間には裏切られ、助けにはこない!おまけにお前は俺様より早く殺せるほどの技はない!お前がいっっっちばん!救えねーんだよ!バァ〜・・・」


「かぁ?」


ゴォオオオオオオオッ!!


ペストマスクが得物のククリナイフを取り出した瞬間のことだ

彼の背後からリンドが乗っている馬車が突撃してきたのだ


間一髪か、あと一瞬遅ければ死んでたかもしれなかったが

どうやら間に合ったようだ


しかしなぜこの場にリンドが現れたのか

最後の最後に俺たちの身を案じて俺たちを助けに来た?そんなわけはない

彼が情に厚い男ならこの世界ではすでに死んでいる。まず序列八位までには入らない


(おい、どういうことだ!安全な場所だと聞いてこっちにきたのに)


そう、俺が嘘のルートを教え、まんまと騙されたのだ

彼が【テレパス】を切っていなくて本当によかった


「リンドぉ!?」

「暗殺者ぁ!?」


「「なんでこんなところに!!」」


反射的にペストマスクは後ろから駆け抜けてくる馬車目掛けて技を出す


「しまっ」


その優れた瞬発力が命取りだった


「カァズナリィイイイイイイ!!!」


リンドの断末魔が響く

攻撃を中断する間も無く刀身からでた黒い焔が馬車を飲み込む

リンドも、そしてスパイも


「俺様のシナリオが・・・ヤガミ様に叱られ、る・・・」


失意の只中、膝から崩れ落ちるカラス男

彼もまた感傷に浸ることなくリンドの後を追うこととなった


「どうやら俺でもお前を殺す技はあったようだな」


ペストマスクの胸から剣を引き抜くと同時に町並みが、仲間たちがノイズとともに消え

暗転した世界からゲームのリザルト画面が出てきた


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依頼失敗


報酬

12000G


Info

※ゲームマスター側:マサクゥル プレイヤー側:リンドがロストしました。


攻略ランクD

次はもっと頑張りましょう


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「この結果がどう物語に反映されるか楽しみだな、大方、ならず者ギルドごと『無かったこと』になるんだろうが」


目に前にでかでかと浮かぶ依頼失敗の文字をしたり顔で眺める


この知らせはVRチャットを経由し、SNSや大型匿名掲示板を中心に話題となっていった


もとよりギルドバウトオンラインも民度は低く、リンド、カラス男ことマサクゥルも別名で他のVR MMOで問題を起こしていた人間だったこともあり盛り上がりも尋常ではない事態となっていた


【悲報w】ギルドバウトオンライン、イベントまたも延期、爆死待ったなし

【ざまぁ】マサクゥル、補助職にやられる【お山の大将】

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らおちゅう@want_you・10秒

りんどざまぁwwwデマ情報流したり他のMMOでも色々やらかしてっから頭来てたんだ!

#ギルドバウトオンライン


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基本このゲームは運営側もプレイヤー側も一度死ねば二度とアクセスはできなくなる仕様だ。

死人に口なしとはこのことか


ギルドバウト内部でも二人ともかなり求心力は高くこいつらからおこぼれをもらっていた取り巻きもいたのだが、今では彼らに対するこれまでの不平や不満が撒き散らされる騒ぎとなった。


今を振り返すと評議会員を騙るスパイがギルドに匿れるフリをしてこちらの情報を抜き出し、隙あらばならず者ギルドが有利になるような政治に持ち込もうとゲームマスター側は思い描いていたのだろうが、これもどうなるか楽しみだ。

もっともここのゲームマスターは筋書き通りのことしかできない連中だが



「さて、今晩までにリアルの仕事を終わらすか」


炎上具合を確認し、VRヘッドセットを外し俺は現実の世界へと帰還する


また話す機会があればVR MMOを始めるまでの経緯でも話そうか


せぱたくろーです。今回、処女作であるVRMMO復讐ものを書かせていただきました

このたびは読んでいただきありがとうございます。

次回作も一週間のうちに書ければと思っております

では、また次回お会いしましょう


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