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6 私の真実の愛(※ディーノ視点)

 私は学園に入るまで、王宮で育った。王都に屋敷を構える貴族も多く、それなりに交流もあり、特にバルティとは兄弟のように育った。


 父上と母上には私しか子供がいない。私が生まれた時には難産で、母上は私が生まれてからも数年をベッドの上で過ごした。


 私の周りには綺麗なものと実用的なものが揃えられた。綺麗な部屋に綺麗な服、言葉遣いやマナー。同時に、遊ぶ暇もないような教育。時折招かれるバルディとも、今思えば親の真似事で綺麗事だが、国の理想を語り合った。7歳にもならない子供が2人揃って、だ。


 母上は私が5歳の頃にようやく元気になられ、医師は私の弟妹は見込めないという宣告をくだした。私は幸いにも優秀だと思われていたので、父上は早々に私に王太子の身分を与えた。


 それと同時に、貴族の子供を集めたお茶会が頻繁に開催されるようになる。その中で異彩を放つ、ファリア・ハーバリア侯爵令嬢とは気があった。というか、他の令嬢はこう……子供だった。子供なのだから仕方ない。


 父上と母上は、ファリアとの婚約を早々に纏めて、私とファリアは二人で会うことも多くなった。楽しい時間だったが、どちらかといえばバルティと話す方が楽しかったし、淑女にそれを悟らせないようには教育されている。


 何故その時、私はユーリカの存在に気付かなかったのか。時々髪の長い子息がいるな、とは思ってはいた。その造作の力強くも綺麗で理知的な顔付きには、バルティに似たものを感じてよく覚えていた。


 それが、学園に入学したら女生徒の制服を着ている。ユーリカは男装していたのだ。それから私は、ユーリカに目が行くようになってしまった。ファリアといる時には気を付けてはいたが、その理由が自分でもよく分からなかった。


 男装していた理由を一度、2年になり生徒会で一緒になった後、生徒会室で尋ねた事がある。彼女はこともなげに言った。


「あぁ……そんな小さな頃のことをよく覚えておいでですね。私は辺境伯家の長子でしたので……今は弟がいますが。ふふ、女といえど国境を守る役目があるのだから、と男装をして剣の真似事をしておりましたの。今は手習い程度です」


 果たして彼女のいう手習い程度とはどのくらいのものなのだろうか。


 私はいよいよ胸の高鳴りが抑えられなくなってきた。


 一番話していて楽しいのはバルティだ。バルティと私は似たような環境で育ったのだから、必然そうなる。だからといって、バルティにそんな胸の高鳴りを覚えたことはない。当然だ。


 だが、女性でありながら成績は私とバルティと競い合うほど、剣も乗馬もやると言いながら、淑女としても申し分ない。時々新しい法案について論じたりもする。


 ファリアは素敵な女性だ。淑女として見た時、彼女以上の存在は同年代に存在しないだろう。


 だが、私はファリアに一度も胸を高鳴らせたことなどない。仲のいい幼馴染という気持ちが強い。守ってやりたい、砂糖菓子でできた妹のような彼女。


 そして、ファリアと国の未来について語り合ったことはなく、今後もないだろう。彼女は私を立て、社交は完璧にこなす、まさに王妃に相応しい教育を受けている。


 でもユーリカなら……淑女でありながら力強く立ち、国の未来も語り合えるだろうユーリカなら……いや、ユーリカがいい。私の気持ちは、傾いていた。


 そしてあの日、夕暮れの生徒会室で仕事をこなす彼女を見て、気持ちは抑えられなくなった。


「殿下には婚約者がいらっしゃるでしょう?」


「太陽に顔向けできないような愛など受け取れません」


 どこまでも凛々しい。ハッキリと断る姿にすら、私の気持ちは高揚する。


 変な性癖ではない。私の周りにあったのは、綺麗なものと実用的なもの。


 それを兼ね備えた女性に、どうして私が惹かれないでいられるだろう。


 これこそが真実の愛だと私は確信している。……ファリアは何も悪くない。


 ただ、ユーリカ……我が真実の愛が、あまりにも私には理想的なだけだ。

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