表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/22

21 契約解消

 夏季休暇が明けての初登校日からも、バルティ様は校門で待ってくれていた。どんな日も1日も欠かさず。


 私は暫く王都を離れたことで、だいぶ気持ちが回復した。くよくよと悩むのをやめて、剣や乗馬で体を動かして、家族と一家団欒して過ごしたのがよかったようだ。


 その間に自覚してしまった。バルティ様に会いたい、と。……バルティ様のことが好きだと。


 今は偽りの契約期間。彼も優しくしてくれているが、彼はよくも悪くもまっすぐで……契約だから、なのか、本当は私を想ってくれているのか、逆にわからなくなってしまった。


 生徒会の引き継ぎも終わり、夏季休暇明けからはめまぐるしく日々は過ぎていく。


 何度も、本当はどう思ってるんですか、と聞こうと思った。チャンスはあった。でも、私は自分から恋というものに触れるのが怖くて、優しく細められる眼鏡の下の青い目を失うのが嫌で。


 ただ楽しいだけの優しい時間を共有したまま、とうとう卒業パーティーの日が来た。


 この日は卒業生は盛装での昼間の登校が義務付けられ、いつもはテーブルと椅子の並ぶ講堂が片付けられ、大きな窓も開け放たれてガーデンパーティーを兼ねるような盛大なパーティーが開かれる。


 私は瞳と同じ菫色の、少し大人びたマーメイドラインのドレスを着ていた。私にはあまりプリンセスラインのドレスは似合わない。珍しく髪も結い上げ、普段は薄化粧だが恥ずかしくないようにしっかりとメイクもした。


(変だと言われたらどうしよう……)


 馬車に揺られながらそんな事を考えていたら、紺色のシンプルなタキシード姿のバルティ様が見えた。


 馬車の到着で扉が開けられると、彼は目を見開いてから笑顔になり、白手袋の手で降りるのをエスコートしてくれた。


「とても綺麗です、ユーリカ嬢。……卒業、おめでとうございます」


 彼から渡されたのは、紫を中心に据えた大きな花束で。その中の小花は、いつかのはじめてのお茶会で渡された物で。


「……バルティ様」


「行きましょう、ユーリカ嬢。さぁ、お手をどうぞ」


 彼からの花束は馬車に残し、くれぐれも大事に飾ってとお願いして馬車を返した。


 パーティーは楽しかった。これでみんなと毎日顔を合わせることもなくなると思うと、寂しくもあったし……避けられた時のことを思い出さなくて済むと思ったら、ちょっとだけ安心した。


 殿下とファリア嬢も仲睦まじく、4人でお喋りをしたりもした。これからはこうしてなかなか顔を合わせる事も無くなるだろう。ファリア嬢とは、手紙を交わすことも約束した。


 殿下は私が殿下を許すまでは謝らないつもりらしい。許して欲しくて謝るのではなく、許されてから誠心誠意謝りたいのです、とファリア嬢にこっそり聞かされた時は、バルティ様と殿下はまさしく従兄弟だわ、と笑ってしまった。


 夕暮れ時、卒業生だけが残ったパーティー会場でダンスの時間が始まる。


 私は一人そっと抜け出して、生徒会室にきた。


 波乱の1年間だったけれど、バルティ様と仲良くなれた。それが嬉しくて、ダンスはこれから社交会に出ればいくらでも踊れるからと、こっそり見に来てしまった。


 今日で契約は解消される。寂しいが、バルティ様はいつも通りだった。それが答えだと……思う。


 背後で扉の開く音がする。


 振り返ったそこには、バルティ様がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ