20 たとえ偽りでも(※バルティ視点)
あの後、こちらで掴んでいた以上の噂を流したとされる人間が生徒会室にきた。全て女生徒だった。
思っていたより多い、が、これで全てだと思うほど私は彼女らを信用していない。
横の繋がりを全て吐かせた。それが少し骨が折れた。
「……では、あなた方が噂を流した、ということでよろしいですね?」
「ま、待ってください! 噂は流しましたが……それもこれも、全て殿下とバルティ様を思えばの事です!」
「そうです! 私たちはバルティ様をお慕いしております。なのに、殿下にフラれたのをバルティ様に慰められるなんて……あのユーリカ様は卑劣です!」
これを皮切りに、口々にユーリカへの根拠のない批判が溢れかえる。
あまりに情けない。全校集会を本当に聞いていたのか? と思うほど、まだ彼女たちはユーリカに非があると思っている。
『将来の宰相閣下は腹芸が苦手ですのね』
楽しげに笑った彼女を思い出す。
苦手なわけじゃない。腹芸ではちゃんと伝わらないのではないかと思っていた。
だが、正面から叱りつけても、ディーノが……殿下が頭を下げて見せても、彼女たちにはそれがどれ程の重みか理解すらできないらしい。
分かるように話してやらなければならないようだ。私もまだまだ、学ぶことが多い。
「そうですか……」
私の笑いを含んだ言葉に、彼女たちの聞きたくもない言葉はピタリと止んだ。
ニッコリと笑いかけてやる。見惚れているようだが、今はそんな場合ではないと理解できないらしい。
「君たちの処分は決まっています。一年の留年です。学園を卒業するのは義務ですから、あと一年下の学年の者と学生生活を共になさい。もちろん全校集会で、憶測で噂を流してはならない、と私どもは演説を流しましたが……さて、留年という形になると憶測でもなんでもないでしょう。どんな噂が流れるか、どんな待遇を受けるか……皆さん、よくご存知なのでは?」
「ま、まさか、そんな、噂ひとつで……」
「そ、そうです! 私たちは悪くないです……!」
「留年だなんて……! ひ、ひどいです!」
「だまらっしゃい。あなた方がしたことがそのまま返ってくるだけです。……生徒会長が学園長と陛下にかけあって決めたことですが、何か不満が?」
彼女たちの顔色が悪くなる。中には泣き出したものもいたし、それでよくまぁユーリカ嬢をいじめようと思ったものだ。
私は笑みの表情を崩さず、彼女たちに本当にこれで全員ですか? とたずねた。裏にはもちろん、まだ隠す気があるならなおさら容赦はしないという意志を込めて。
ポツポツと出された名前はこちらで把握している者もいれば、そうでない者もいる。どこまでが嘘か真かはこちらで調べてから、また遅れてくるだろう彼女たちを呼び出さなければならない。
私は処分の口外を禁じ、それが破られた場合……貴族の子息令嬢が学園を退学させられる、というのは前代未聞だが……その可能性もある事を伝えてから外に出した。
「……バルティ。いいのか? 君はこういうのは、あまり得意じゃなかったと思ったが……」
「いつまでも、苦手を苦手にしておくわけにはいきません。……守りたい方がいるので」
「……演技じゃなかったんだな」
「まだ、しばらくは演技ですよ。……彼女の心に負担をかけたくはないですから」
私は取引と言いながら、彼女に近づいた卑劣な男だ。彼女を守ろうとして、逆に彼女に守られてしまった。助けられた。情けない。
私の気持ちが重荷じゃなくなる日まで、幸い彼女は一緒にいる時間を楽しんでくれているようだから……居心地のいい関係でいよう。
もうすぐ夏季休暇がくる。彼女には、少し休んでもらいたいと願う。