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18 私に残ったものは(※ディーノ視点)

 騒がしくなった講堂が静まった頃、私とファリアは頭を上げた。真っ直ぐに全体を見渡す。


 一瞬、ユーリカに目を止め、そして私は全校生徒に向かって声を張った。


「この度は、私が校内を騒がせる真似をしてしまった事を、心よりお詫びする。噂は根も葉もないデタラメであり、しかし! そのデタラメは私の行動が原因だった。本当にすまない」


 そして隣のファリアを見る。そっと手を握ってくれた。


 凝り固まった理想という色眼鏡で世界を見ていた私に残ったもの。残ってくれた、大事なもの。そして、傷付け、その上さらに傷付けさせてしまった人。


 謝らなければ、助けなければ。しかし、私はこの国唯一の王太子だ。


 上に立つ者が頭を下げることを容易にしてはならない。そして、上に立つ者だからこそ頭を下げなければならない時がある。


 ただ、真実が、正論が、誰かを救う手立てでは無い。……それは、親友であり従兄弟である、バルティに任せておけばいい。


 すまない、ユーリカ。


 心の中で何度謝っても足りないだろう。だが、君がこんな情けない私に家臣として私に忠を見せてくれたからには、義をもって応えたい。


 王太子として。


「この通り、私とファリアの仲には何の亀裂も、わだかまりもない。我々の仲に何かあったとしたら、その時は正式な書類が交わされ国民に通告されるだろう。そしてその時は、国が乱れるまで来ることはなく、国を乱さないために我々は手を取っている」


 ユーリカはいつも私をまっすぐに見てくれる。勘違いをした、恥ずべき姿を見せた、それでも今なお私を王太子として、いずれ主君となる者としてまっすぐ見てくれる。


 君に応えよう、ユーリカ。私はまず、この学園の生徒会長として、起こした問題に立ち向かおう。


 必ず……時がきたら、君に謝りにいく。上辺だけでなく、心から。今はその時ではない。私はユーリカに見捨てられる者である可能性がある。


 見捨てられないような者として、上に立つ姿を見せよう。汚いと、真実を知る君にだけは罵られる覚悟がある。甘んじて受けよう。


 でも君はきっとどんな状況でも私を主君としてたててくれるだろう。だから、嘘をついてでも、今ここにいる貴族の子息令嬢の前では主君であろう。


「バルティの言った通りだ。噂は根も葉もないもの、それに惑わされる君らを私は正さねばならない。将来、共に国を治める者たちとして、恥ずかしくない行いをして欲しい。流言に惑わされてはならない。君らが惑わされたら、君たちの領民もまた惑わされる。国民が惑わされる。今回の事については、私に責の一端がある、それを謝罪したい。騒がせてしまってすまなかった。そして、お願いしたい。私の行動に疑いを持ったのなら……ここは学園だ、身分の差は無い……直接私に尋ね、諌めるべきは諌めて欲しい」


「共に生活をする中で、私たちには問題が起きることもあるでしょう。感情は大事なものです。しかし、理性もまた大事なものです。何か不満があるとき、おかしいと感じたとき、理性で考え言葉にし、それを生徒会や私にお伝えください。共に考えます」


「ファリアの言う通りだ。……以上をもって、これ以上特定の生徒への不当な行いを禁ずる。破った者には相応の罰がある。また、今回の件を当事者に謝ることは許さない。行動をもって示すように」


 ユーリカ、これで少しは、君に主君としてまた見てもらえるだろうか。生徒会長として、勉学を競うライバルとして。


 関係は元通りにはならない。起こったことは変わらない。謝罪を禁ずる、これが果たして君が望むことかはわからない。


 ただ、元通りにはならなくとも、健全な環境に戻って欲しいと願う。


 私に残ったもの、ユーリカからのまっすぐな視線、隣に立つファリア、頼もしい親友バルティ。


 私は私の理想を砕いた。砕いてもらった。その余波が君に行ってしまった。だから、これから、もっとたくさんのものを手の中におさめていこう。


 君も含む皆が、考えて前を見て進めるように行動しよう。怖れられるのではなく、敬われるように。


 ユーリカの勇気と強い行動に、私が敬意を払うように。君にも、いつか敬われたい。

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