14 胸が苦しいよ(※ディーノ視点)
なんでこんなにも当たり前のことに気付かなかったのか、自分でも愕然とした。
ユーリカは理想的な女性だ。そう思った、理想的な、私の隣を一緒に走ってくれる女性。
私の周りにはずっと、綺麗なものと実用的なものばかりがあった。
ファリアは綺麗なものだ。守らなければいけないもの。彼女を守るために、私は幼い頃に語った理想の国を実現させるため、実用的なものを学び身に付けてきた。
結局、私の真実の愛はずっと私をそこで待っていた。綺麗なものとしてしか見ていなかった自分の愚かさが恨めしい。
ファリアだけではない、ユーリカも傷付けた。だが、今は……ファリアが、私を見捨てないでくれて、その安心感と、失う恐怖で縋り付くのに精一杯だ。
「殿下、重いです」
「……いやだ、ファリア」
「分かりましたから。私は、ずっと、これまでも、この先も、殿下のおそばにいますから」
「……あぁ」
守られていたのはどうやら私の方で、それはファリアだけではなく、バルティにもだ。
バルティはずっと言っていた。ファリアを見てやりなさい、と。
ファリアもバルティもとっくに成長していたのに、私は学んできたと思っていたのに、まったく心が成長していなかった。
この綺麗なもの……私の婚約者がずっと笑って暮らせるように、守っていきたい。
そのための理想の国。決して全ては叶えられないかもしれないが、考えをやめてはいけないと思った。
そして、自分の考えに刺激をくれるユーリカと出会った。それを……良いことだと。恋だと、……真実の愛だと。
自分が嫌になる。自分の理想を叶えるのに必要な、新鮮な、ピースを見つけたことを真実の愛だというなんて。
理想を掲げる事と、夢を見ることはちがう。私は目標に向かって走りたいのであって、空を飛びたいわけじゃない。
地に足をつけ、本当に守りたいもの、失いたく無い腕の中の温もりを見つめる。
砂糖菓子で出来た人形のごとく整った見た目の、物語に出てきそうなお姫様。
しかし、彼女は私の間違いを正すためなら、嫌い、とも言える胆力を備えた強い女性だ。
ファリア以上に私のことを想い、私が守りたい者はいるだろうか。一緒に歩みながら、こうして崖から落ちそうになった時に、身を挺して私を正道に戻してくれる女性が。
こうなるまで、どれだけの努力を重ねてきたのだろう。
私はファリアに、まだ真実の愛を告げる資格はない。だが。
「ファリア、私を待っていてくれてありがとう。そして、本当にすまなかった……。私は、君を失うのも、君が笑っていられない国にするのも、嫌だと分かった。……大言壮語な理想はもういい。まず、一番身近な君が笑っていられる国を……君と、つくりたい」
「殿下……、お気付きになってくださったのならいいのです。これからは、同じ速度で、少しずつ歩みましょう」
ファリア、君はどこまで聡明なのだろう。私のことなど遠の昔にお見通しで、ずっと気付く機会を与えてくれながら、間違いを起こした私を引っ張り上げてくれた。
私はあと二人に、心からの謝罪をしなければいけない。
胸が苦しい。自分の愚かさを自覚するというのは、本当に苦しいことだ。
だが、今は。
この苦しみを勝手にぶつけてしまったあの二人の元に行くのは、もう少し待とう。
私は私の一番大事な人を抱きしめていたいし、親友であり従兄弟である大事な彼の恋路を邪魔するつもりはないからな。