10 王太子殿下の婚約破棄?!
「ファリア……」
「私が何も知らないとお思いですの? いつまで私を、10歳の子供だと思っているのです? 殿下」
なかなかズバズバと物を言うな、と呑気にしていたら、殿下が驚いたよう顔をしている。
あ、もしかして、初めてファリア嬢にこんなに言われてるんですね。やっぱり私はどうも、バルティ様とファリア嬢にとっては起爆剤だったようだ。
先程のバルティ様の挑発と忠告、それを外で聞いていたファリア嬢の入室タイミングと進言。
当事者だけど、私はまるっきり傍観者だ。口を挟む隙も必要もない。
「ファリア……? 君がまさか……、そんなことを私に言うとは」
「えぇ、言いますよ。殿下、貴方の婚約者は私です。それはこの学園の誰もが知っています」
「それは……」
「なのに、昨日の朝は何事です? 従兄弟であり親友であるバルティ様を押しのけてユーリカ様に話しかける。常識を弁えてください。人目があるのですよ、いくらユーリカ様がお好きだろうと、ユーリカ様に迷惑をかけるおつもりですか?」
「だって……」
「だっても何もございません。全て伺っていますよ。——淑女の手を親しくも無い間柄で勝手に握る、私がいながら告白をする、何ですかその不誠実極まりない行動は。第一、ユーリカ様が怖がられるとは思わなかったのですが?」
もはや、ディーノ殿下はたじたじである。一応悪いとは思っているのだろう。
そもそも、私に告白する前にファリア嬢に自分の気持ちを伝えたりはしなかったあたり、本当に情緒面は5歳児である。これはいけない。ここでなんとか叩き直さなければ。
「貴方は2人の淑女の面子を潰し、恐怖を与えた。貴方には理想と愛の別がない。その位は私も存じてます。ですが、それを理由に行われたこの分別の無い行動の数々。立場ある人間がとっていい行動だとお思いですの? 殿下、いい加減に目を覚ましてくださいまし」
いつの間にか、いつも柔和に笑っているお姫様のようなファリア嬢の顔が真顔になっている。
殿下は正論を前に返す言葉もなく口をパクパクさせている。
「だから私も散々言ったでしょう。ファリア嬢をちゃんと見なさい、と」
「う、うるさい! ファリアもファリアだ、なぜ私をそうまで責める?!」
「浮気だからですわ」
「浮気だからですよ」
「浮気どころではなくなると申し上げました」
ファリア嬢、バルティ様、そして私もようやく口添えできました。
婚約者にポンポンと正論でやり込められ、従兄弟であり親友は同じことを何度言っても流されてきた分の重みを込めた声で告げ、私は硬い声であの時と同じようにお断りする形で進言する。
情緒5歳児の殿下は頭を抱え、苦悩している。理性ではわかっているのだろう、これは元々破綻した行動であり、本来してはいけない事。私の何がそんなに殿下の理想だったのかは分かりかねますが、ファリア嬢のこの心の広さとやり手ぶり、私なんかよりも余程素晴らしくお強いお方ですよ?
頭を抱えたままあとずさり、壁に背を預けて何をどう答えるべきか、理性と感情、思考と情緒の間で悩みに悩み抜いた殿下は、次にとんでもないことを言い出しました。
「ファリア……私たちの婚約を破棄しよう。まずはそこからすべきだった」
そうじゃないんだなぁ、殿下ぁ!