第85話 さてと、これより出陣です。
前回のあらすじ:作戦準備という名の時間つぶしです。
マーブル達と軽く作戦会議を行った後、砦の宿舎へと戻り、恍惚状態から戻ったアンジェリカさん達の元へと合流、合体攻撃などの話を持ちかけると、予想以上に食いついたので、今回はその線で進めていくことに決定し、軽く打ち合わせなどを行った。
ある程度目処がついたところで、マーブル達にオニキスが加わって遊んでいる様子にホッコリしていると、今日の任務は完了したようで、ウルヴ達が戻ってきた。ウルヴはそのままお茶を用意してくれ、そのお茶を堪能する。やはりお茶に関してはウルヴの腕を超えることはできないな。そのウルヴはフェラー族長やカムドさんを始め、希望者があればお茶の入れ方を指導しているとのことだった。万が一戦えなくてもこれで生きていけるだろう。あ、これフラグじゃないからね。
ウルヴ達にも今回の私達の戦術を伝えると、特に反対意見はでなかったが、ラヒラス曰く、自分たちもその合体攻撃に参加したかったとのこと。あ、あの顔は何か思いついた顔をしているな。恐らくそういったことのできる魔導具でもこれから作ろうとしているのだろう。作るのは構わないけど、フロスト領内だけでしか使うことは認めないからね。まあ、その辺はわかっていると思うから口にはださないけどね。
全員揃ったところで、改めて作戦を伝える。
「今回のタンバラの街へと攻め寄せてくるサムタン公国軍の数は約3000程、そして、別働隊として動くのはタンヌ王国内にはびこっている盗賊と、それを支援する公国軍所属の召喚術士と魔物使いといった形だね。私達はその別働隊をアンジェリカさん達と一緒に殲滅する。カムイちゃんの報告だと、別働隊の規模はおよそ100前後、その内公国軍の支援部隊が20位だそうだ。恐らく支援部隊による召喚術士や魔物使いによる魔物達を先頭に、その後ろを盗賊達が続く感じになると思う。そこで、ウルヴとアインとラヒラスは後方から盗賊達を殲滅して欲しい。あ、公国軍の支援部隊は放置で。」
「アイス様の狙いはわかったけど、本当に殲滅しちゃって構わないの? 一人くらい捕らえて情報を吐かせたりしないの?」
「今回についてはその必要はないかな。どうせ大した情報を持っていないだろうし、情報を吐かせるなら公国軍の支援部隊からの方が良い情報をもっているだろうしね。って、そのくらいはラヒラス、君も承知しているだろう?」
「なるほど、いや、念のため聞いてみただけだよ。で、支援部隊を放置するのは、ただ単に情報を吐かせることが目的じゃないよね? 何か嫌がらせでもするの? 正直なところ、支援部隊も大した情報持ってないだろうし、こちらも殲滅した方がよさそうだけど。」
「ラヒラスの言う通り、実際は嫌がらせだね。折角少なくない召喚師や魔物使いを用意してくれているんだから、彼らには張り切ってたくさん召喚してもらって精々こき使ってやろうかと。」
「うわぁ、えげつないな。」
「というわけで、ウルヴとアインとラヒラスには盗賊達の殲滅をお願いするよ。で、公国軍の支援部隊については逃げられないようにカムイちゃんが罠を張ったりして逃がさないようにして欲しい。あ、くれぐれも殺さないようにね。」
「承知しました、って、わざわざそこまでする必要があるの?」
「あるよ。こいつらのせいで、ノンビリまったりの領主生活が脅かされるんだからね。」
「・・・、アイス様、俺らはバリバリ働いているんだが、、、。」
「領主が暇なのは安定している証拠だからね。」
「いや、フェラーさんやカムドさんにその分負担が大きくなっているのだが。」
「まあ、それは置いといて、私達と戦姫で召喚術士と魔物使いが用意してくれる魔物達を殲滅します。ただ、できるだけたくさん魔物を用意して欲しいので、タンバラの街が結構ハッキリ見える場所まで行ってから迎撃します。恐らく公国軍は搦め手を多用する習性があるということは、いっぱしの軍略家気取りで戦略を立てているはずですので、必ず搦め手用の一カ所は開いているはず。その部分に私達は移動します。」
話の途中だったが、アインが疑問を口にした。
「それは承知したが、何でタンバラの街が見えるところでわざわざ迎撃なんてするんだ? 見えないところでも広い場所があれば問題ないんじゃないのか?」
「まあ、普通はそう考えるだろうね。でもね、私達も例外ではないけど、何かする時って、ある程度目に見える目標というものがある方が頑張れるでしょ?」
「なるほど、それが今回はタンバラの街ということか。」
「そういうこと。まあ、今回については最後の仕上げの関係で、どうしてもタンバラの街が見える場所で戦う必要があるんだけどね。」
「あと、一つ気になっていることがあるんだけど、公国はタンバラの街以外にもちょっかいをかけているような気がするんだけど、その辺はどうなのかな?」
今度はラヒラスが疑問を口にしたが、それにはアンジェリカさんが答えた。
「それについては問題ありませんわ。もちろん、タンバラの街以外にも仕掛けてきておりますが、それらについては、既に対応してありますので、ワタクシ達はタンバラの街をどう防衛するかを考えるだけですの。何しろ、向こうの行動はワタクシ達に筒抜けですからね、フフフ。それ以上に、その最後の仕上げというものが気になりますわね。」
「ということらしいから、私達はタンバラの街をどう防衛すれば良いかを考えるだけ、ということ。それに何だかんだ言っても、私達は今回は援軍として来ただけだからね。」
「そういえば、俺らは援軍として来ていたんだっけ。」
「そういうこと。これ以上は私達が踏み込んではいけない領域だからね。」
そんな感じで戦略会議は終わったので、あとは、公国軍の襲撃に合わせて私達が行動するだけとなった。
公国軍主力がタンバラの街へとあと1日の距離となった時に、守備兵から報告があった。
「申し上げます! 公国軍がタンバラの街へとあと1日の距離となったのに合わせて、盗賊達が動き出しました!」
「報告ご苦労様でした。下がって任務を続けて下さい。」
「お気遣いありがとうございます。我々はこの後どうすれば?」
「貴方達は、いつもどおり国境の警備をお願いしますわね。地味とはいえ、この任務も重要ですわよ。」
「ハッ、では、失礼します!」
そう言って、守備兵は持ち場へと戻っていった。
「では、アイスさん、そろそろ出発するべきでは?」
「はい、丁度いい頃合いですね。って、何で私が号令する立場になっているんですかね。向こうに着いたらともかく、今はアンジェリカさんが命令してくれないと。」
「その必要はございませんわ。ここの守備兵も何となく察していると思いますの。」
「いや、そう言う問題ではありませんよ。流石に出陣の号令とかはアンジェリカさんがしてくださいね。ここはフロスト領じゃないんですから、、、。」
「もう、しょうがありませんね。僭越ながら出陣の号令はワタクシが務めますわ。その代わりに道中の指示はお願い致しますわ。」
そんな感じで、嫌々ながらアンジェリカさんが出陣の号令を出す。何で嫌々なんですかね。貴方ここの国の王女でしかも王位継承者ですからね。何で一援軍でしかない私が号令を出さないとならないんですかね。
「出陣ですわ!!」
「王女殿下、お気を付けて。ご武運をお祈りしています。フロスト伯爵、王女殿下並びにセイラ様、ルカ様をよろしくお願いします!!」
国境守備隊の見送りを受けて、私達は目的の場所へと移動を始めた。もちろん、全員騎乗している。ただ、私達フロスト領の人間は木騎馬に乗っているが、アンジェリカさん達戦姫は本物の馬に乗っている。ウルヴは本物の馬を見て羨ましそうにしていた。いや、仕方がないでしょ、フロスト領には馬がいないんだから。見つけたら最初にウルヴにあげるから、しばらくはガマンして欲しい。でも、全身が黒鎧になる魔導具は絶対にはずさないからな。ちなみに、今は戦闘状態ではないので、黒鎧はもちろん、槍すらも出していない普通の旅人状態である。アンジェリカさん達はしっかりと武装しているけどね。私達はマジックバッグがあるから。
「さて、今は移動中ですが、相手の斥候らしき人物を見かけたら仕留める方向でいきます。今回はこちらが待ち構えていることを知られる以上に、私達が待ち構えている場所を知られるのが問題だからです。別に待ち構えていることが知られても問題ありません。」
「「「了解!!」」」
ということで、水術で気配探知を広範囲で行う。戦が近いのはタンヌ王国内では知られているので、この場所に踏み入れる可能性のあるのは、王国側の斥候、公国側の斥候、野良の魔物といったところか。恐らく王国側はわざとこの方面には斥候をだしていないはず、ということは公国側の斥候か野良の魔物の2択であるため、これについてはサーチアンドデストロイが可能となる。
結構気合を入れて気配探知をかけていたが、ほとんどその探知に掛かるものはいなかった。というのも、既にマーブルの探知に引っかかるものがいて、マーブルが一々仕留めていたのだ。たまに「ニャッ!」とか可愛い鳴き声がしたと思ったら、これだったのか、、、。私の探知範囲が広がる以上にマーブルの探知範囲が広がっており、一向に差が縮まらない、、、。てかこれ追いつく日は来るのか?
国境に一番近い街がタンバラの街とはいえ、国境から結構距離があった。私達の乗っているのは木騎馬なので、馬の体力の心配をせずに行軍できるが、アンジェリカさん達の乗っている馬は良質の馬とはいえ、生き物だから疲労はする。そのため、ある程度進んでは馬のためにこまめに休憩をしつつ進んだ。まあ、戦闘時には騎乗しないだろうから、移動だけを考えればいいけど。折角なので、休憩の時には用意していた湧き水を与えていたので馬たちはすぐに元気になっていた。むしろ、飲み終わると早く行くぞと言わんばかりに走りたがるようになっていた。そのため、予想以上に早く到着してしまった。まあ、早い分には問題ないけどね。
早くに到着したのはいいけど、馬が走りたがって休憩がまともに取れていない状態だったので、逆に乗る方が結構疲れてしまったのは正直笑えた。同じものを飲んでいるのにも関わらず、ここまで回復の度合いが違うと不思議に思えてしょうがない。折角早く到着してしまったので、軽く食事を摂ることにした。今回の食事は軽食のため、小麦を固めて焼いたいわゆるナンもどきにダンジョンで頂いたブタさんの肉を挟んだものをいくつか。飲み物はスープ類ではなく山羊さんのお乳にした。牛乳は確かに美味いけど、個人差で腹を下したりするのは避けるためだ。ちなみに私はというと、比較的弱い部類だ。
軽く腹ごなしをして少し経つと、先程の疲労もすっかりなくなっており戦闘準備も余裕を持ってできた。あとは敵さんを待つばかりの状態となった。
マーブル達とモフモフしたり至福の時を過ごしていたとき、忘れずにかけておいた気配探知に反応があった。数は複数だったので、恐らく襲撃部隊で間違いなかった。マーブル達もペットモードから警戒態勢に入ったのを確認したラヒラスが、何かH型になっているものを上空に投げた。確か、ファ、じゃなかったフレキシブルアローはT型だったから、これは違う奴だな。聞くところによると、相手の探知をする魔導具とのことだった。まだ個別レベルでは認識できないけど数や大きさなどはある程度わかるそうだ。
「では、ウルヴ隊員、アイン隊員、ラヒラス隊員の3人は後方からこちらに攻めてくるであろう盗賊達の後方に回り込んで下さい。盗賊達を殲滅したら、公国軍の支援部隊を逃がさないようにしてください。盗賊達は好きに潰して構いません。」
「「「了解!!」」」
そう言って3人は木騎馬に跨がる。ウルヴも今回は戦闘モードのため、木騎馬に跨がると、木騎馬が光り出して黒い馬鎧が装着されていく。それと同時にウルヴの全身も黒い全身鎧に身を纏う状態になり、右腕には刺突用の槍が現れた。この状態になった場合、木騎馬の先頭は否応なしにウルヴとなる。これは私が一緒にいたとしても例外なくそうなる。何故かと言えばそれが様式美だから。
騎馬武者となったウルヴは槍を上に掲げて、その槍を持つ右腕を前に指し示し、「イクゾー!!」のかけ声と共に前進する。うーん、やはり様式美。普通に見れば本人のイケメンも合わさって、かなり格好いいのだが、私はどうしても、とある以前の世界での光景が浮かんでしまい、腹筋の鍛錬になってしまっている。もちろんそこに流れる音楽も「デッデッ、、、」おっと、これ以上はまずいな。
ウルヴの後を追うようにアインとラヒラスも移動し始めた。しかし、彼らの乗っているものは木騎馬なので、加速度ももの凄かった。1分もしないうちに姿が見えなくなった。
さてと、私達も迎え撃つ準備をしますかね。最初に来るお客さんは一体誰なんでしょうかね、、、。
ついに前作「とある中年男性の転生冒険記」と同じ85話に到達しました。正直、書きたいことの多いこちらの方が作品が進むと思ったのですが、、、。とはいえ、無理に話を引っ張るつもりは全く無くて、いつも通りアッサリサクッと進めて行けたらと思います。
これからも応援していただけますと幸いでございます。