第45話 さてと、要望が来ましたね。
本来なら閑話でもって例のお三方についての話を書こうと思ったのですが、全く広がらずに先に話を進めることにしました。『お礼』だけで済ませる程度の存在でしかないと思って頂けると幸いです。
皇帝陛下への挨拶も終え、忘れること無くお三方に『お礼』の品を渡し、帰りにリトン伯爵のところへ挨拶に行き、そこで一泊してから帝都を後にした。リトン伯爵は私の昇爵を喜んでくれ、先日のお礼も兼ねて文官を寄越してくれると言ってくれ、後日視察も兼ねてフロスト領に来てくれるそうだ。有り難い話だ。
ちなみにお三方に渡した『お礼』はとても喜んでくれたそうで、2日間、お三方の屋敷では大声が絶えなかったとか、うんうん、ここまで喜んでくれるとは渡した甲斐があったね。しっかりと有効的に使ってくれるように祈っておきますか。もっとも、お三方の領地に畑があれば、ですけどね。領地には基本畑はあるはずだから大丈夫だと思いますが、まさか、ねえ、、、。まあ、今後私のために何かしてくれるようであれば、次なる『お礼』を用意しないといけませんが、恐らくそれも喜んでくれるでしょう。
リトン伯爵の元を辞してフロスト領へと戻った。領主館へ戻ると、クレオ君とパトラちゃんが一緒になって「おかえりー」と飛びついてきた。うん、このモフモフ感。私達を出迎えると言って、ずっとここで待っていたそうだ。非常に嬉しかったけど、そこまでしなくてもいいんだよ。ずっと待っていないで野ウサギ族のみんなと遊んでいてもよかったんだよ。
2人の子モフモフの熱烈な出迎えを受けているときに、フェラー族長もやってきた。フェラー族長を差し置いて、この速度で来るとは、どれだけ反応速度が速いんだろう。今後が非常に楽しみになってきたね。
「ご主人、ご無事のお帰りで何よりでした。」
「族長、特に変わったことはなかった?」
「いえ、特には無かったですな。あと、伯爵への昇爵誠におめでとうございます。」
「おお、ありがとう、って、もうその知らせ届いたの?」
「はい、大きなトリがこちらに飛んできまして、手紙を持っていたようなので読ませて頂きましたところ、ご主人が子爵から伯爵へと昇爵なさったと書いてありましたので。」
「うん、トリしゃん、すごくおおきかったー!」
「ちょっと、こわかったな、、、。」
クレオ君とパトラちゃんもその場にいたようだ。
「凄いな、帝都から1日もかかってないということだよね?」
「まあ、それも凄いのですが、ご主人も転送魔法で一瞬じゃ無いですか、そっちの方が凄いですな。」
「いや、それはマーブルのおかげだから。」
「ミャア!」
マーブルは得意げに鳴いた。うん、可愛いよ。
さてと、無事に向こうの用事は終わったので、これからは領内での仕事だ。といっても、私自体がすることはそれほど無い、無いけど開発計画とか面倒な仕事は山積みではある。・・・族長に押しつけようかな。族長はそれを察してしまったようだ。やはり侮れない。
「ご主人、ご自分の仕事はご自分でなさるべきですぞ。」
「・・・ハイ。」
「それよりも、この領主館を城に改築する案ですが、それなりに形になってきましたぞ。」
「余り大きいと管理が面倒だから、できれば規模は小さめにお願いね。」
「何を仰います! これからフロスト領はトリトン帝国内はおろか、他国からも注目を集めることになるのは間違いありません。ですから、それに相応しい規模にしなくてはなりませんぞ!!」
「いや、そもそもそんな予算ないじゃん、、、。」
「その点に関しては問題ありません。建築資材においては十分用意できるとラヒラス殿が言っておりましたし、実際の建築においては大工班がかなり張り切っておりましたぞ。何よりここを覆う城壁は後回しで問題ないと、今回のスタンピードで証明されましたので、城壁に回す予算がない分、かなり豪華に出来るとのことでしたぞ。」
「別に豪華にしなくてもいいじゃん。侮りたければ侮らせておけばいいし。」
「そういう問題ではありませんぞ! これからできるフロスト城は我らの誇りとなるものですからな。」
「ええー、もう名前が付いているの? しかも、城? 聞いてないんだけど、、、。」
「もちろん、今初めて申し上げましたので、ご主人はご存じなかったでしょう、しかし、領民はもちろん、ウルヴ殿、アイン殿、ラヒラス殿も賛成なさっておりましたぞ。」
「・・・あいつら、、、。」
「その件は置いときまして、ここの領主であるご主人の裁可が必要な案件が2件ほど。」
「城の件については、私の拒否権は無いのね、、、。はぁ、まあいいや。それでみんなが喜んでくれるなら私だけガマンすればいいのだし、、、。で、私の裁可が必要な案件とは?」
「1つめは、我ら領民からの要望です。」
「君達からの要望? 何だろうな、まあ、聞いてみないとわからないか。で、要望って何かな?」
「はい、要望というのはですね、教会のようなものを作って欲しいと。」
「なるほど。人族についてはわかるけど、君ら獣人もそういったものって必要なの?」
「はい、我ら獣人でも精霊や神様に信仰を捧げているものは多いですな。」
「なるほどね。でも、それぞれ信仰の対象が異なると、それに応じて教会やら作る数がもの凄いことになるよね。そうなると、敷地の問題もあるから難しいところだよね。」
「そこなんですよ。ただ、念を押しておきたいのは、ご主人、いえ、ご領主であるフロスト様の命令を差し置くようなことはしない、ということだけは領民達全員の意見です。というわけで、丁度いいものがありましたら是非ともご意見を頂いた上で、ご裁可頂けるとありがたいのですが。」
「なるほど。では、祈りを捧げたりする場所を一カ所作るのはどうかな?」
「はい、そういった意見も出ましたし、現時点ではそれが一番かな、とも思っているのですが、そうなりますとかなり広範囲になってしまいまして、それでは別々に建てるのと変わらない、ということになりまして、いささか困っております。」
「・・・一つ案があるのだけど、そうなると改宗する必要がある領民も出てくるかも知れない。領内を乱すので無ければできれば、押しつけたくはないのだけど。」
「となりますと、何かしらの教会、ということになるのでしょうか?」
「うん、そういうことになるかな。ただ、恐らくその教会を建てたとしても、その神様は自身に対しての信仰はそれほど求めてないらしいから、教会内で別の神様に対して祈っても問題ないと思う。」
「ほう、そんな神様がいらっしゃるのですか? なるほど。で、その神様のお名前は何でしょうか?」
「うん、その神様の名前なんだけど、アマデウス神と言って、創造神の一柱で、食を司っている神様なんだよね。」
「おお、アマデウス神でありますか! 食の神とはフロスト領にとっても都合がいいですな!! 後で領民達と話し合ってご報告いたします。」
「うん、あくまで私の案だから、反対になっても文句は言わないから。」
「承知致しました。この件については以上です。そして次の案件なのですが、これは我ら領民からではなく、冒険者ギルドからの要望です。」
「冒険者ギルドから?」
「はい、トリニトの冒険者ギルド長から話があったのですが、ここにギルド支部を置きたいとのことです。」
「なるほど、それはこっちとしても助かるね。この件は了承したよ。」
「承知致しました。早速ギルド長に話しておきます。」
「では、要望はそれまでかな?」
「はい、要望に関しては以上となります。」
「族長、ありがとう。では、また仕事に戻って。」
「はっ、では失礼します。」
フェラー族長からの話を終えて、私達は各班を見て回った。人が少ないながらも領民達は全員笑顔で仕事をこなしていた。最後に魔物達の解体作業の現場に行くと、ギルド員達を中心に領民の一部や野ウサギ族の一部も参加していた。ジェミニが参加したそうにしていたので、行っておいでと言ったら、嬉しそうに向かって行った。
私達の姿を確認したギルド長が早速話をしてきた。
「おお、フロスト様。伯爵への昇爵おめでとうございます。それと、ギルド支部の設置を許可頂き誠にありがとうございます。」
「ああ、ギルド長も話を聞いたんだね。ありがとう、とっいっても正直昇爵についてはどうでもいいんだけどね。」
「フロスト様らしいですな。ところで、フロスト様、ギルドの設置について少し話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「構わないよ、では、場所を変えるとしますか。マーブルとライムはどうする? この場所にいて手伝う?」
そう聞くと、マーブルは私の肩の上に飛び乗り、ライムは解体の手伝いをしたそうだったので、それぞれ別れることにした。どのモフモフもいいけど、やはりマーブルは格別だ。
ギルド長を連れて領主館へと案内する。丁度ウルヴがいたので、お茶を用意してもらうように頼んだ。お茶が届くまでは少し雑談をして時間をつぶし、用意ができるとそれだけ置いてもらい、本来の話をすることにした。ちなみに今この部屋にいるのは私とマーブルとギルド長の3人だけだ。フェラー族長もウルヴも準備が出来たらさっさと部屋を出てしまったのだ。別に密談じゃ無いからここにいてくれてもよかったんだけどね。
最初はギルドの設置場所や規模などを中心に話し合ったが、これらは特に問題なく進んだ。敷地はふんだんにあるからね。それ以前に主要メンバーである程度話は詰めていたらしい。本来ならこういったことも領主を通じて話さなければならないことだろうが、正直、開発計画は良い出来映えだったし、領民達が自主的に決めてくれた方がこういったものは基本的には上手くいく。それ以上に、そういった面倒なことを勝手にやってくれるのはこちらとしても助かるというのがあったので、特に問題はなかった。
驚いたのは、トリニトの冒険者ギルドがここに来る前からある程度計画を立てていたらしい。最初の計画では、こちらをトリニト支部のさらに支部という扱いで作る予定だったようだが、この町並みを見て考えを変えたらしい。逆にフロスト支部にして、トリニトをそのフロスト支部のさらに支部という扱いにしたいそうだ。なぜ支部の支部という扱いになるかというと、そうすれば、トリニト支部内だけで進められるからだそうだ。別々に支部を作るとなると、帝都内にあるトリトン帝国の冒険者ギルドはもとより、さらに別の国にあるらしい冒険者ギルドの本部にそれぞれ手続きを取らなければならないそうだ。それは確かに面倒だよな。
というわけで、ややこしい話だが、トリニト支部の本隊をこちらに移すつもりのようだ。まあ、正直なところ、冒険者ギルドの都合についてはこちらとしては知ったことでは無いので、その件はそちらに任せるしかない。ちなみにアッシュもその案については賛成したそうだ。アッシュ曰く、間違いなく発展するであろうフロスト領に移さないのはおかしい、とのことだ。まあ、トリニトでの有力者であるアッシュの後押しもあり、トリニトの冒険者ギルドではすぐにそれが決まったそうだ。ちなみに、父上は勝手にしろ、とのことだそうだ。あの人、もともと冒険者ギルドに関しては無関心だしね。
その話が出てから数日後、冒険者ギルドはトリニトからフロストへと支部が移り、今あるトリニトの冒険者ギルドはフロスト支部の支部となることが正式に決まった。
あと、教会についてだが、正式にアマデウス神の教会となることも正式に決定した。領民達はお祈りは捧げているが、実際にはどういった神かよく理解していなかったらしく、食の神とハッキリわかるアマデウス神の方がお祈りの捧げ甲斐がある、とのことだった。捧げ甲斐って何だろう、とは思ったけど、それは口に出さずにおいた。獣人達についても特に抵抗感はないとのことだったので、結構すんなり話が通ったそうだ。むしろ話し合いで集まる時にかかる時間の方がかかったそうだ。
これで、アマデウス教会と冒険者ギルドフロスト支部の設置が決定した。フロスト城? このまま忘れてくれても良いんだよ。
ちなみに、解体作業については、ジェミニとライムが手伝ったことにより、かなり作業が進んで、あと1ヶ月はかかるだろうと言われていた作業が、あと数日で終わりそうだと報告があった。やっぱりあの2人の作業って凄かったんだな、と改めて思った。
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