第192話 さてと、不幸が重なった一日でした。
前回のあらすじ:ルクレチ王国での目的は達成したため、狩り三昧ですよ、狩り三昧。
「ん? あれ?」
今日は転生して初めて、いや、マーブルが私の家族になって以来初めて自分だけで起きた。というか、マーブル達おらん、、、。って、もう昼過ぎかよ、、、。はい、思いっきり寝坊しましたね。まあ、仕方がない。昨日、いや、日付は変わってしまい、朝型まで戦姫の3人に管巻かれたからなぁ、、、。しかも、あの3人全然酔っていない、つまりシラフの状態だったのだ。3人から解放されてあっという間に意識がなくなったんだよなぁ、、、。そりゃぁ寝坊もするわな。
まあ、こうなってしまったが、やることは変わらない。いつも通り顔を洗ったり着替えたり、ライムミードやオーガジャーキーの仕込みの確認やらやることは結構ある。領主の仕事? フェラー族長やカムドさんがほぼやってくれているから問題ない。領主決済なんて数件あるかどうかだからね。
一通り確認を終えてから昼食の準備に取りかかる。何時に起きようと、最初に食べるご飯は卵かけご飯と味噌汁と決めているのでその準備だ。部屋を出て厨房へと足を運ぶと、大きな籠にコカトリスの卵が入っていた。個数は15個である。いつもありがとうね、美味しく頂いておりますし、これからも美味しく頂くことを改めてこの場で誓うとしますか。
押し麦ご飯の仕込みは昨日の夕食の時点で済ませてあるので、後は水術で水温を上げて炊きあげるのみである。味噌汁については、具に寄りけりではあるけど、基本水術があるので作るのは簡単である。味噌汁が手軽に作れるこの環境、手放したくないねぇ。以前いた世界に戻れとか言われたら即行で断る自身がある。
その他おかずについてだけど、今回は無しだ。昼食ではあるけど、時間も過ぎている分、夕食までの時間が少ないということだからだ。その分夕食に気合を入れるべし。本来なら朝食と昼食を豪華にして夕食は軽めにした方が健康にはいいと思うけど、そんなものは知らん。
何やかんやで準備が完了して、一人寂しく昼食を食べようとしたときに、マーブル達が突撃してきたので順番にモフモフプヨプヨして迎撃する。うん、やはりこのために生きていると実感が沸いてくる。念のためマーブル達に昼食は済んだか聞いてみると、朝食は済ませたけど昼食がまだということなので、改めてマーブル達の分を用意する。まぁ、用意するといっても、メニューは私と全く同じであり、違いと言えば、それぞれ食べる量が異なるということだけである。マーブルとライムは私の半分くらい、ジェミニは私と同じかそれ以上食べる。
マーブル達の分も用意が完了して、さあ食べるぞ! となったときに、再び来客である。我らが皇帝陛下であるトリトン陛下とリトン公爵夫妻である。
「おう、侯爵、ようやく起きたな。ほう、これからメシか? そういえば俺らもまだだったよな?」
「はい、今日は何かとありまして、昼食を食べる時間が無かったですからな。」
・・・非常にわざとらしい、、、。絶対狙って来てるな。何でバレバレかというと、侯爵婦人がいらしているのが何よりの証拠である。公爵夫人は基本陛下と公爵が仕事をしているときは、領内で巡回という名目で遊び回っている、とはいえ、領民達も大歓迎状態だから問題ない、というよりむしろ領内の活動が活発になったりするので、止める理由が存在しない。仕事の効率だけを考えると、戦姫以上である。
・・・ちなみに戦姫が訓練所以外の場所に来ると、野郎共がアピールしてきて仕事の妨げになったりする。戦姫達もそのアピールに対応するのが面倒というのもあって、基本は訓練所に入り浸っているらしい。あるいはアピールを全くしてこないゴブリン族のところにいるか、子供達と一緒にペットと戯れたりしているようだ。っと話が大きく逸れてしまったけど、一応は誘わなければなるまい、、、。
「・・・陛下もリトン公爵夫妻もご一緒されますか?」
「おお、済まねぇな! ご馳走になるぜ!」
「・・・いや、ご馳走という訳ではなく、卵かけご飯と味噌汁という極めてシンプルな内容となっておりますがよろしいですかね? 夕食も近いことですし。」
「構わねぇよ。卵かけご飯、っつってもよ、料理長の作ってくれるやつより、侯爵が作ってくれるやつの方が美味いんだよな。」
「ですな。恐らく卵の違いもあるのでしょうが、やり方が多少違ったりしているかもしれませんな。」
「ですわね。ということで、フロスト侯爵、お願いしますわね。」
「では、座ってお待ちください。あ、マーブル、ジェミニ、ライム、先に食べてて良いよ。」
「ミャア、、、。」
「アイスさん、いいんですか?」
「あるじ、、、。」
「おう、これから食べるって時に、いきなり来たのは俺らだからな、俺らに遠慮しねぇで先に食べろ。」
リトン公爵夫妻も頷いていた。・・・私は作っている張本人だからまだ食べられませんがね、、、。
「陛下達もこう仰っているから、マーブル達は先に食べててね。冷めてしまうと美味しさも半減するから。」
私がそういうと、マーブル達は申し訳なさそうに食べ始めたが、いざ食べ始めると美味しそうに食べていた。うん、それでいいんだよ。おかわり欲しければ用意するからね。
そんな風に思いながら、3人の分を用意する。もちろん、予想外の来客であったため、押し麦ご飯はともかく、味噌汁が足りなくなってしまったので追加で作り直す。押し麦ご飯は、ルクレチ王国で昼食用に準備していたので大量に作っていたので、こちらはまだまだ余裕があった。・・・もちろん、今回の件で改めて仕込み直しとなるのは言うまでもない、、、。
「ん? 何だ、味噌汁作り直しているのか? 済まねぇなぁ!」
とか言っている割には全く申し訳なさそうにしている人物が約1名。まあいつものことだからスルー。
味噌汁の追加分を作り終えて、いざ実食! というときに、再び来客があった。
「アイスさん、良い匂いがしましたので来ましたわ!」
・・・戦姫のご登場です、、、。
「おう! 嬢ちゃん達も来たか!! こっちが空いているぞ!」
「あら、陛下、それに、宰相閣下ご夫妻もいらしたのですね。それでは失礼して。」
はい、追加決定ですね、そうですね、、、。改めて3人分を用意する。また味噌汁が足りなくなったので、更に追加で作るハメになりましたよ、ええ。
「あら、アイスさん、申し訳ありません、、、。」
陛下とは違い、本当に申し訳なさそうに言ってきた。ってか、3人ともいつも通りの様子である。昨日遅くまで管巻いてきたくせに何故だろうか、、、。いや、逆にあれだけ管巻いたからストレス発散になったのだろうか、謎だ、、、。
私が再び味噌汁を作っている間にマーブル達は食べ終わったようで、自分たちの食べた分を洗い場へと運んでいた。そう、マーブル達は自分たちで片付けができるのだ!! まあ、洗うのは私なんだけどね。いや、ライムがほとんど汚れを落としてから、私が仕上げで洗うという方が正しいか。それでも、自分たちでできるのは偉い!! 更に更に、追加となった戦姫の分の皿まで用意してくれている! 流石は自慢の我が猫達である!! 本当にいつも、ありがとうね。
そんなこんなで戦姫の分も準備完了。・・・もう、これ以上来ないよな!?
さてと、頂きますか、、、。と思ったけど、私の分は思いっきり冷めてしまっていた、、、。いや、これはこれで美味いんだけど、どうせなら一番良い状態で食べたい! ということで、私の分だけ予定変更することにした。
「アイスさん、どうなさいましたの!?」
「ああ、お気になさらず。ただ温め直してくるだけですから、皆さんはそのまま食べててください。」
さて、ここまで完全に混ざってしまっては、アレを作るしかない!! ということで、貯蔵庫からタマネギと空間収納からオーク肉を用意する。ボア系でもいいのだけど、やはりここは油の多いオークさんで。タマネギをみじん切りにして、オーク肉は小さめのサイコロカットにする。
「ミャア!」
「アイスさん! 手伝いますよ!」
「ボクもてつだうー!」
マーブル達がやって来た。控えめに言っても可愛い!!
「じゃあ、ジェミニはフライパンを用意して。マーブルは火力の調節係ね。ライムは、そうだな、あっ、あそこにあるお皿を持ってきて。」
ジェミニとライムは嬉しそうに動き出していた。マーブルもワクワクしながら右前足から火を出し入れしていた。その間に私はタマネギの水分を抜いていた。よし、準備完了、あとは道具待ちだね。
ジェミニとライムがそれぞれフライパンと皿を用意してくれたので作業開始だ。なじませ用の油を多めにフライパンに入れてマーブルに火を着けてもらう。もちろん強火だ。油がフライパンに馴染んだので、その油はなじませ用の油入れに戻す。
フライパンを熱くしている間に、卵かけご飯、水分を抜いたタマネギ、小さく角切りしたオーク肉と、スガーをそれぞれ用意して、準備完了。丁度いい具合にフライパンが温まったのを確認して、用意したものを順番に投入してかき混ぜながら一気に焼き上げる。卵の部分やオーク肉に焼き目が付いたら完成。そう、チャーハンである。意外と忘れてたんだよね、チャーハンの存在を。
さて、それでは頂きますか、って、マーブル達が期待を込めた目でこっちを見ていた。しかも自分たちの皿まで用意して、、、。もちろん、あの目でねだられてしまうと、私には抗う術はない、とはいえ、私は今日はまだ何も食べていないので、全部を分ける訳にはいかないので、少しずつ分けることにした。
改めて、頂きますの挨拶をしてから食べ始めようとしたが、その前にマーブル達の様子を見てしまったのが間違いだった。いや、マーブル達に分けたのが失敗だったというわけではない。
「ミャア!!」
「アイスさん! これ、美味しいです!!」
「あるじー、おいしいよ!!」
そう、このマーブル達の表情、眼福である。我ながらいい出来であったのだろう、作った甲斐があったというものである。よし、では私も食べるとしますか、と思って匙で完成したばかりのチャーハンを食べようとしたのだけど、それに待ったをかけるかのように、そのチャーハンに12の視線が注がれていたのだ、、、。
「おう、侯爵、随分と美味そうなもの作ったなぁ。」
「ほう、新作か?」
「とても美味しそうですこと、、、。」
「アイスさん! それは一体!?」
「それ、私達も初めて見る。」
「・・・美味しそう、、、。」
そう、卵かけご飯と味噌汁という私の定番メニューを食べ終わった6人に見られてしまったのだ、、、。まあ、同じ部屋だから見られるのは当然なのだが、、、。
で、結局、味見という名目でチャーハンを作るハメになってしまった、、、。マーブル達もおかわりを所望していたのでもちろん断れなかった。
皿は余裕がなかったけど、ライムが張り切って綺麗にし、戦姫の3人がそれらを洗い食器に関しては問題がなくなってしまった。火力担当であるマーブルも準備万端であり、ジェミニも張り切って皿の準備をしていたので、自分の分を食べることなく調理再開の運びとなってしまったのである。
本来なら2、3人分ずつ小分けに作らないと火加減が大変なことになるのだろうが、日々の調理のおかげで水術の次に成長していた調理スキルが全員分を一気に作り上げるという荒技を可能にしてしまった。トリトン陛下いわく、スキルだけを見ると私は料理長以上なのだとか、、、。いや、それはあり得ないだろ、、、。
心の中では大泣きしながらも、マーブル達の期待を込めた目には逆らえるはずもなく黙々とチャーハンを作る私、、、。
完成してそれぞれの皿に取り分けると、マーブル達が張り切って配膳をしていた。全員分が行き渡ると、今度は陛下の「頂きます!」の音頭で食べ始めた。彼らからは「美味しい!!」の声を頂いたけど、私の心は晴れることはなかった。だってさ、自分の分だけ冷めちゃってるんだぜ、、、。材料はいいものが揃っているし、味も悪くはないけどさ、チャーハンは出来たてが一番美味いんだぜ、、、。いくら空腹が最高のスパイスとはいえ、自分の分だけ冷めており、しかも今日初めての食事なんだよなぁ、、、。
食事が終わって、押し掛けてきた方達も撤収したが、時間的には夕食までそれほど時間が空いているわけではなかったので、満足に仕込みもできない状態で夕食を向かえることになってしまった。
言うまでもなく、ルクレチ王国には行けるはずもなく、ただただ悪いタイミングが続いてしまい、自分のやりたいことはほとんどできなかった。マジで勘弁してくれ、、、。
アンジェリーナ「今日のアイスさん、可哀相でしたわね、、、。」
トリトン陛下「いや、おまえさんがそもそもの元凶だと思うが、、、。」
アンジェリーナ「ま、まあ、そうなんですが、、、。」
リトン宰相「まぁ、たまにはよろしいのでは?」
トリトン陛下「だな、気付かないあいつが悪い。(申し訳ないが、多分このままだと気付かないままだってアマデウスが言ってたな、、、。)」