第181話 さてと、みんなにバレたので公開作成しました。
前回のあらすじ:密かに作っていたカレーが何故かトリトン陛下にバレた。
あれから数週間が過ぎて、あと数日でルクレチ王国へとたどり着けるところまでは進んだけど、領民達に止められてしまいました。ええ、原因はアレです。そう、カレーです。
事の発端ですが、言うまでもなくトリトン陛下が引き金となっており、彼の「アイスの新作、最高だったぜ!」という言葉に領民達が反応し、領主館へと人が殺到してきましたよ。流石に全員ではなかったけど、本来なら全員で突撃かまされるところだったそうです。一応代表者を選んで突撃してきたようですけど。まだ未完成だって言ったのに、、、。
完成してないから、と言っても聞かない領民達。で、トドメとなったのが、我が領のアイドル、クレオ君とパトラちゃんの「わたちたち(ボクたち)、食べられないの?」という台詞とともに半泣きの状態で詰め寄られてしまっては、断れなくなってしまったわけですよ、ええ。マーブル達のしょぼんとした表情にこそ劣りますが、それこそ僅差でしかないわけでして、、、。
心折れそうにはなったのですが、考えてみたら、領民達に行き渡るだけの量は確保できていないので、一応量がないから、今はみんなに教えられないけど、その内に完成品を用意しておくから、と言って引き下がってもらった、と思っていたら甘い考えだった、、、。
多少の罪悪感を感じながら、ルクレチ王国へと進みつつ、スパイスが見つかったら採取していく日々を送りながらも道中を順調に進んでいた我々だったけど、あと数日というところで再び突撃を受けたのだった。
正直、いきなりでビックリしたけど、代表してトリトン陛下が「おう、侯爵! 材料は揃ったぜ!!」という言葉に唖然としてしまった。話を聞くと、リトン公爵が手を回したらしく、それを冒険者ギルドが全面バックアップをしたそう。貴重な素材を数多く扱っているフロストの町の冒険者ギルドには、資金が潤沢にあり、下手なギルド本部よりも財政が豊かなんだそうだ、、、。というのも、フロストの町の冒険者ギルド員は、衣食住に関してはこちらで面倒を見ているため、生活費がほとんどかからない。その分給料はかなり安いと聞くけど、ギルド員達には不満はほとんどないそうだ。・・・くそ忙しいという一点を除けば、、、。
その分、こういった時のために、資金を貯めておいたと自慢げに話したギルド長には若干の殺意が芽生えたけど、私利私欲ではないので、これ以上はこちらからは何もできないし、するつもりもない。
ということで、ギルドのネットワークをフルに活用して、大量の資金を投入、しかもリトン公爵を通じて帝国からも資金提供を受けたとのこと。更には意図を察知されてぼったくられるのを避けるために、安いところを基準に片っ端から買い付けるという念の入れよう。特にこういったときにメルヘン王国は足下を見る可能性が高いので、そこからは一切買わないという嫌がらせも踏まえて購入したそうだ。
そんなわけで、冒険者ギルドを通じて領民に余裕で行き渡る量のスパイスを確保されてしまっては、もう断ることなどできないので、あきらめて公開作成となってしまったのだ。何で領主を差し置いてこういうことを平気でしてくるかなぁ、、、。まあ、領主とは名ばかりだと思っておけば良いか。あまり領主らしいことはしてないから仕方がない。やる気もないしね、、、。
もちろん公開作成なので、会場はウサギ広場で行う。そこで、確保してきたスパイスを出してもらったのだけど、馬鹿じゃないか? と思うくらいの量を用意してきましたよ、彼らは。クミンとコリアンダー、カルダモンだけでも、ざっと見ても100kg以上、、、。しかも、これですらほんの一部らしい、、、。ちなみに予算は白金貨10枚ほど使ったって、、、。リトン公爵いわく、以前のトリトン帝国での年間予算の数年分なんだとか、、、。今は好景気だから、このくらいは余裕とか抜かしてやがった。冒険者ギルドでもそのくらいは出したとかほざいてやがったな、、、。全部でどれくらいの量になったのかは怖くて聞けなかった。
少し心配になったので、フェラー族長にフロスト領でどの位支払ったかを聞くと、白金貨30枚分とか言ってたな、、、。最近使い切れないほど貯まってたから丁度良かったとニコニコ顔だった。・・・まあ、普段から財政を担当しているフェラー族長がそう言うのであればいいか。嬉しそうに言ってたのに水を差すのも何だかな、と思ってこれ以上は考えるのをやめた。
それでも、念のために、どうしてそこまでの予算を投入したのかを聞くと、フロスト領でこれだけの需要があるということは、今後、フロスト領を相手に取引してくることは簡単に予測できる。しかも、これだけの予算を投じたとなれば、いくらでも購入してくれるということでもあり、そこまで欲しければ、足下を見てくることも容易に想像できる、ということで、今後はある程度取引は続けるにしても、足下を見てくる連中に対しては一切購入しなくても大丈夫なように、我が領で栽培するための分も確保しておくという狙いがあったようだ。
ちなみに、私が栽培するよう渡した種であったが、カレーの素となることを知った農業班の領民達の目の色が変わったとのこと。そこにフェラー族長が主導で手に入れた大量の種を見て、農業班のメンバーは更に気合が入ったようだ。ただ、問題はしっかりと育ってくれるかどうか、なんだけどね。
ところで、手に入れたスパイスなんだけど、あれらの他に私も聞いたことのないようなものまで含まれていたのを見て、本当に片っ端から仕入れたんだな、と感心するやら呆れるやらであった。ちなみに、コショウの実であるペッパーは他に比べるとかなり少ない量であった。というのも、ペッパーに関しては、他国でもかなり需要があるようで、他に比べるとかなり高額だったので、量を控えたとのこと。
「では、これより作成に入るけど、私が作るのは、あくまで基本的なものなので、それを覚えたら、自分たちでいろいろなスパイスを組み合わせて、自分たちだけの味を追求して欲しい。」
私がそう言うと、周りから「おおー!!」とか無駄に気合の入った返事が返ってきた。とにかく見逃すまいと一挙手一投足まで観察されると正直やりづらい、、、。
「さて、今回使うのは、クミンとコリアンダー、あとは辛さ調節のための唐辛子、それと塩だね。それとお肉があれば、最低限のものは作れる。あとは油かな。私はバターを使うけど、別に油として使っているものだったら何だって構わないと思う。それこそ、オークの油とかでも良いんじゃないかな。で、私の場合はそれらにカルダモンとタマネギを使う。まとめると、今回使う材料は、最低限必要なクミンとコリアンダーと唐辛子と塩、それにお肉。お肉は今回はグレイトオウミにしようか。油はバターだね。それプラス、カルダモンとタマネギ、これだけ。」
私が説明を始めると、料理担当をしている者達はしきりにメモを取っている。特に料理長や屋台のおっちゃん達が真剣に頷いたりしていた。
「では、最初に用意してくれたスパイスを粉にする作業をします。臼はあるかな?」
「今回の為にしっかりと用意しておいたよ。10個くらい作ったけど足りるかな?」
ラヒラスがそう言うと、アイン達力自慢が臼の魔導具を運んできた。
「まさか、今回の為に作ったの?」
「もちろん。スパイスごとに擦れるように数も用意したよ。言うまでもなく大容量で擦れるようにしておいたから。」
ってか、何で知ってる? ん? あ、アンジェリカさんが目を逸らした。なるほど、情報源は戦姫か。いや、アンジェリカさん達は作るところまで見てないはず、、、。あ? もしかして、作っているところを密かに見ていたな、、、。あ、マーブル達も目を逸らした、ということは、マーブル達は戦姫が覗いていたことを知りつつも見逃していたんだな、、、。まあ、料理のことだから別に構わないんだけどね。たださぁ、そうやって内緒にされると、少し寂しいかな、、、。
「・・・まあ、いろいろと突っ込みたいところはあるけど、とりあえずさっさと作成していきますかね。」
そう言って、スパイスの袋を空けると、残念ながら袋によって乾いていたり湿っていたりした。
「ラヒラス、後でで構わないから、する前に乾燥させる装置付けといて。今回は水術で乾燥させるけど。」
「了解。後で早速作って付けるよ。」
とりあえず、今目の前にある分だけ水術で水分を取りだして乾燥させてから、臼の魔導具にスパイスを投入する。折角なので、種類ごと別々に擂っていきましょうかね。
「今回は、クミンを2袋分、他は1袋分擂ります。」
ラヒラスが大容量で擦れるように作ったと言ってたけど、確かに大容量擦れるみたいだ。2袋分余裕で投入できたし、まだ余裕もあるみたいだ。
「では、スパイスを擂っている間に、必要な材料を切っていきますか。じゃあ、マーブル、ジェミニ、頼むね。」
「ニャア!!」「了解です!!」
マーブル達が可愛い敬礼をして応えてくれたので、肉とタマネギをそれぞれ出してテーブルに置くと、マーブルは風魔法でタマネギをみじん切りにし、ジェミニはグレイトオウミを一口大に切ってくれた。その後でタマネギの水分を水術で3分の1まで減らした。ライムだけど、片付けで大活躍してくれるので、用意するときは皿を運んでもらったりする程度だ。
「タマネギを使う場合だけど、私と同じようにする場合は、炒めるのに時間がかかるから注意して。最悪ラヒラスに魔導具を作ってもらうのもありかな。」
「任せて。どうやるのか確認出来たら作成できると思うから。」
「おっ、スパイスが擂り終わったね。では、次の行程だね。このスパイスを鉄板で軽く炒めるんだ。軽く焼き目をつけるのが目的だけど、こうすると香ばしい香りが出てくるんだよ。本当は唐辛子も入れたいところだけど、辛いのが苦手な領民もいるだろうから、クミンとコリアンダーとカルダモンの3種類だけ入れるね。唐辛子だけど、食べるときに少し入れて自分で調節するように。」
少し炒めると、スパイスから香りが出てきた。
「なるほど、マーブルちゃんが風魔法を使わないと、ここまで匂いが強いのですね。非常に食欲をそそる良い香りなんですが。」
「そうです。マーブルにお願いしないと、この匂いですぐにバレますからね。約1名匂い無しでバレましたけどねぇ、、、。」
「ガハハッ! 俺にバレないようにしようと考えるのは1000年早いぜ!!」
「・・・陛下がそう言うと、本当にそうだと思ってしまいますねぇ、、、。」
「っと、良い感じで炒まってきたから、ここで火を止めるね。炒めたスパイスは一旦回収して休憩だね。次はタマネギを炒めるよ。」
炒めたスパイスを回収して、空になった鉄板にバターをのせて着火。バターがある程度溶けたらタマネギを投入する。
「次は、タマネギを炒めるよ。油を入れて液体化したら、タマネギを投入する。火は強すぎず弱すぎずを心がけて。タマネギだけど、こんな感じの色になるまで炒めて。今回は水分を減らしてから炒めたから、それほど時間はかかってないけど、一からやるとかなり時間がかかるから。焦げそうになったら水を入れて鉄板の温度が高くなりすぎないように気をつけて。そうしないと焦げるから。」
私の説明に料理長がしきりに頷きながらメモを取っていた。
「よし、タマネギがこんな感じで炒まったら、さっきの炒めたスパイスを入れるよ。ちなみに、炒めたスパイスはこれだけでもカレーの味を付けられるから、屋台のおっちゃんたちなんかは、肉にこれを付けて焼くだけでもいいかもしれないね。」
「なるほどな。今度試してみるぜ!!」
「では続きだけど、こんな感じでしっかり混ざったらお肉を入れるよ。」
炒めたスパイスとタマネギが肉にしっかりと絡まって、さらに良い匂いが周りに広がっていく。一部の領民は待ちきれないとばかりに口元からヨダレが出てきている者もいた。
「肉は、こうやってしっかりと焼き目を付けてね。最悪火が通っていればいいけど、焼き目が付くか付かないかで結構味が変わったりするから。個人的には焼き目が付いた方が美味しいと思うけど、この辺は個人差かな。うん、しっかり焼き目も付いているね。では、これから水を入れて煮込むよ。」
水を入れて蓋をしてから一息つく。
「あとは完成まで待つだけ。簡単そうに見えるだろうけど、実際には簡単だから。時間は掛かるかもしれないけど味は保証するよ。これを食べてみて、他にスパイスを入れたり、あるいは肉の他にも何か一緒に炒めたりとか、いろいろ試してみてね。」
煮込んでいる間も領民達は鍋の周りから離れなかった。一部離れた領民もいたけど、その領民が戻ってくると、何と自分たちの皿を取りに行っていたようで、それを見た他の領民も自分たちの皿を取りに一旦離れたりしていた。こんな行動を取る領民達を見て、また、しばらくこの町の食事ははカレー一択になりそうな予感がして、その結果この町はカレー臭い町として知られてしまうかもしれないとも思うと思わず笑ってしまった。
ようやくカレーが完成すると、領民達は一斉に列を作り並びだした。争わずにしっかり順番に並ぶあたり、この町らしいなと思うと同時に、こんなことで揉めたりしない領民達を誇りに思いつつ、結局よそるのは私かと呆れつつも給仕を行ったのであった。
結果はというと、予想以上に大盛況だったことに驚いた。先日悲しそうにしていたクレオ君とパトラちゃんだが、カレーを食べてわざわざ私の所に来て「おいしー!!」と笑顔で伝えに来てくれたときは思わずホッコリとしてしまった。
カレーを食べ終わった後に陛下にこっそりと、「後でアマデウスの奴にも供えてやれよ。」と言われて、そのことをすっかりと忘れてしまった自分がいた。もちろん、しっかりとお供えさせていただきましたよ。
供えた後、その味が気に入ったアマさんは、密かにスパイスを育てている畑に加護を与えて、品質はもちろんのこと、成長速度もヤバいことになったのを農業班のメンバーから報告を受けて驚いたのは数日後のことであった。
アマデウス神「ふむ、カレーというものはここまで美味いものじゃったか、、、。」
トリトン陛下「ん? アマデウス、お前知ってたのか!?」
アマデウス神「いや、先日アイスから、スパイスとやらの配分を聞かれてのぅ、名前だけはそれで知ったのじゃ。」
トリトン陛下「とすると、あの配分はお前さんの指示かい?」
アマデウス神「いんや、食べたことないから知らん、と答えたぞい。」
トリトン陛下「食の神なのに? とか突っ込まれなかったか?」
アマデウス神「いんや、食べたことないなら仕方ない、とか思ったようだぞ。」
トリトン陛下「・・・あいつらしいな。」
アマデウス神「じゃのう、、、。」
供えてもらったカレーを2人で食べながらの会話。って、アンタここでも食ってんのかい!