第152話 さてと、試食会始めるよ。
前回のあらすじ:いやあ、グリフォンは強敵でしたね。
いろいろとゴチャゴチャしていたけど、どうにか夕食の時間までには食事の準備を完了させることができたことについてはホッとしている。というのも、本隊側では激戦だったようで、折角のトリさん達の姿はほとんど原形をとどめていないものが多かった。まあ、いくら本隊とはいえ、あのクラスが大量に仕掛けてくるとああなるんだろうな、ということは理解しているつもりだ。
とはいっても、折角の貴重な美味な鳥をそのまま肥料などに丸々変えてしまうのは勿体ない、ということで、私達の出番ですよ。ライムとオニキスがしっかりと血抜きをして、内臓と思われる箇所はジェミニがしっかりと肉と区分けをして、マーブルが内臓部分をバッチリと焼却してくれました。残ったのは骨付き肉、ただし原形をとどめていないものに、羽毛と羽根がくっついている感じですかね。3人、いや、4人が頑張ってくれたので、お父さん張り切っちゃうぞ。
流石に量が凄まじいので、領民達に鍋を用意してもらい、鍋には水をタップリ入れてもらった。そこに骨付き肉(原型を、、以下略)を次々に放り込んでは、水術でことごとく攪拌していく。櫛で羽毛と羽根を簡単に除去できたので、ある程度強めに攪拌すれば分離してくれると思ったので、試してみたところ上手くいったので、それを確認してから他の鍋も同じように水術で攪拌していった。ちなみに、まだ出汁は取りたくないので、温度は上げていない。ぬるま湯ですらない状態だ。
狙い通りというか、予想以上に上手くいったので内心ホッとしていた。狙いというのは、肉は重いので浮かび上がらないようにして、軽い羽毛と羽根は浮かび上がるようにしたのだ。その浮かび上がった羽毛と羽根を回収してもらったので、あとは骨付き肉だけとなったのである。
流石に羽毛と羽根の回収は領民達にやってもらった。そこまではできないこともないけど、いかんせん面倒だからだ。領民達も面白がってやってくれたので大丈夫だろう。一応念のため、羽毛と羽根にはそれぞれ使い途があるので、回収が終わったところから、水術で乾燥させるだけはして、後で区分けしておくことをオススメした。まあ、聞こうが聞くまいがどちらでもよかったけど、私がそういうなら、と、何故か知らないけど期待を込めた感じの視線を受けた。
見事に骨付き肉だけが残った鍋には、順次火を入れてもらいそのまま炊いてもらうことにした。超豪華鶏ガラスープの仕込みである。今回はライムとオニキスには血抜きだけを頼んだので、アクがもの凄く出てくることが予想されたので、火加減を見ながら浮かび上がってきた泡みたいなやつを掬い上げる作業をしておくように伝えておいた。アクと言ってもまだ領民達には説明していないので、未知なる領域だったから。とりあえずは、それを取り除いた方が美味しくできるよ的な理由は付け加えておいた。
とりあえずスープは用意できそうだから、後はこっちで他の鳥料理を作りますかね。そう思って領主館へと戻ろうとしたら、声をかけられた。いつもの陛下かと思ったけど、今回は料理長だった。手伝いたいとのことだったので、喜んで協力してもらうことにした。
料理長の手伝いもあって、どうにか夕食に間に合い、完成したものから次々と運んでもらいって、宴の準備が整った。会場は当然、ウサギ広場である。全員が席に着いたので、まず最初にトリトン陛下が挨拶をした。
「フロスト領のみんな、今回は大変だったな。予想だにしなかったグリフォンの大群の襲撃、本来であれば、町ではなく、国レベルで対応しなければならない緊急事態だ。そんなクラスの襲撃をみんなは町1つだけで凌いでくれた。いや、正確には殲滅させたという方が正しいな。そんな領民達を持てて俺は、この世界で最も恵まれた皇帝だと間違いなくそう思う。しかも、その倒したグリフォンを使っての料理、俺からは「ありがとう」以外の言葉が思い浮かばない。っと、俺は長話は嫌いだからな、後は領主であるフロスト侯爵から言葉をもらって、さっさと食事としよう!! ということで、侯爵、頼むぜ。」
「みんな、今日はお疲れ様。みんなのおかげで、この難事を乗り越えることができて嬉しい。それ以上に、死者は1人として出ていないことが嬉しかった。私に言えることは、「みんな無事に乗り越えてくれてありがとう!」この一言だけだね。さて、これから食べる食事だけど、メインはもちろん、みんなで倒したグリフォンを使った料理だ。ここにいるみんなの中では、陛下が600年前に食べた、という貴重な肉らしいけど、ここはフロスト領だから、もちろん、そんなことは気にせず沢山食べて、明日からも頑張って欲しい。言うまでもなく、マーブルビールとジェミニビールはもちろんのこと、ライムミードなどのお酒もたっぷり用意してあるから、みんな楽しくやってほしい。では、食材や材料となった生き物たちに感謝して、頂きます!!」
「「「「頂きます!!!」」」」
私達の「頂きます」の挨拶が終わると、全員一斉に料理に手を着けたようだ。私も料理に手を着けた。まずは鳥のスープである。スープを口に含むと、やはり鳥白湯のような味わいが広がったが、素材が素材なので、以前いた世界で口にした鳥白湯とは比べものにならない位の味わいがあった。
スープを堪能してから、自分で作った鳥料理に手を着けていく。ちなみに私が作ったのは、鳥のステーキと鳥肉のハンバーグ(ただし、タマネギはないので厳密にはチキンパティか)、もちろん、鳥の照り焼きも忘れてはいない。あとは、チキンカツも作ったかな、あとは密かに気合を入れて作った蒸し鶏である。流石は幻の食材、格が違った。グレイトコッコの肉も絶品だったけど、こっちはこっちでやはり絶品だった。言うまでもなくマーブル達も喜んで食べていた。
ある程度食事を堪能して、一息つく。マーブル達はウサギ達やコカトリス達の所へと行ったので少々寂しさを感じていたが、それを見越したかのように、クレオ君とパトラちゃんの2人が飛びついてきた。
「フロストしゃま、わたち達、あの鳥2体倒したよ!!」
「そう、ボク達、2人で頑張った!!」
そう言って嬉しそうに話してくれる。私はホッコリしながら2人の頭を撫でて褒める。
「おお、2体も倒したの!? 凄いね! でも、怪我はなかった?」
「「大丈夫だった!!」」
2人を撫でながらそういった話をしていると、カムドさんとフェラー族長が器を持ってやって来た。器に入っていたのは、グリフォンのスープだった。話によると、私は酒が飲めないから、酒の代わりだそうだ。お礼というか、返杯として、空間収納にしまっておいてあるビールを、これまた2人が用意していた入れ物にそれぞれついだ。スープだけど、鍋毎に味が異なっているそうで、私が飲んだスープとは異なった味わいであったけど、どちらも美味かった。
「お2人ともお疲れ様でした。そういえば、詳しい話は聞いてないので、詳細を伝えてくれるとありがたいです。」
「アイスさんこそ、お疲れ様でした。もちろん、その件について話に来たようなものです。」
「ええ、そこにいるクレオやパトラも大活躍でしたからね。」
カムドさんとフェラー族長は、そう言いながら隣に座っていた2人をそれぞれ撫でると、2人は照れくさそうに「えへへー」とか言いながら、素直に撫でられていた。うん、流石は我が領が誇るアイドルたちである。非常に愛くるしい。
カムドさんとフェラー族長にはビールを、クレオ君とパトラちゃんには麦汁のジュースをそれぞれつぎながら防衛戦の話を聞いた。
接敵時に行った、マーブルの威圧と、私とジェミニの合作である壁が予想以上に効果があったようだ。というのも、予想以上にグリフォン達の速度が速かったため、迎撃が間に合いそうもない状況になりかけていたところ、威圧と壁で群れの速度が激減したため、弓隊の射撃が間に合い、十分な撃ち落としができたそうだ。
「そういえば、弓隊で迎撃した、って話に出てたけど、問題なく刺さったのかな?」
「ええ、そこは洞穴族達が作ってくれた特製の鏃を贅沢に使用しました。その鏃は、魔法防御を多少貫通する効果があるようで、魔法の壁を貫通できさえすれば、グリフォンといえども、我らが射撃部隊にかかれば紙装甲も同然ですからね。」
「とはいえ、地上に落ちたとはいえ、流石はグリフォンでした。」
なるほど、撃ち落としは上手くいったものの、地上戦で苦労したんだね。って、カムドさん、いつの間に紙装甲なんて言葉知ったんだ? まあ、フロスト領では紙は普通に普及してるし、そういう言葉が出てきてもおかしくはないけど、、、。まあ、いいか。
「なるほど、ということは、地上戦で苦戦したんですか?」
「おっと、言葉が足らず申し訳ありません。なまじの強さがあったせいで、手加減ができずに、ああいった感じになってしまいまして、、、。」
「ああ、なるほど。本気で戦うと相手にならないけど、それでも手加減して勝てる相手ではなかった、ということですか?」
「そういうことです。あまりに呆気なさ過ぎて、射撃部隊と騎馬部隊だけで倒してしまう勢いだったため、急遽我らが討伐制限を出して、どうにかした感じですかね。」
「なるほど、ということは、満足に戦えなかった鬱憤をグリフォンに向けたために、ああいう形になったということで合ってますかね?」
「そうです、ご領主の仰るとおりです。」
「なんとまあ、、、。じゃあ、もう少し向こうにも多く向かわせてもよかったんだね、、、。」
「今更ですが、そんなところでして。とはいえ、正直なところ、あそこまでボロボロにしてしまうと、食べられなくなってしまうかも、という不安があったのですが、ご領主がどうにかしてくれたので、こうして我らは幻の食材と言われたグリフォンを食べられているのです。戦闘部隊はもちろん、領民達だけではなく、戦闘に参加した冒険者達も感謝していると思いますよ。さらに、ああして綺麗な状態の素材を用意したばかりか、あんなに美味い料理にしてくれて。」
「そうであれば嬉しいですね。」
「ところで、アイスさん、アイスさん達はどのくらい倒したんですか?」
「うーん、ちょっと数えてみますね。私が倒したのが、、、。」
討伐数を伝えると、カムドさんとフェラー族長は唖然としていたが、クレオ君とパトラちゃんは目を輝かせていた。
「ご、合計で87体? しかもアイスさん26体ですか、、、。」
「カムド殿、ご領主ももの凄いですが、戦姫の3人も大概ですなあ。18体とはいえ、肉の状態もかなりいいとか、、、。肉を気にしなければ、もっと討伐数は増えているはず、、、。」
「ですな、、、間違いなく一撃でそれぞれ仕留めているでしょうな。」
「フロストしゃま、すごーい!!」
「ボクも、そこまで強くなれるのかなあ?」
「クレオ君もパトラちゃんも、まだまだこれからだからね。慌てずにみんなと一緒に少しずつ強くなっていけばいいんだよ。」
「「はい!!」」
フェラー族長とカムドさんがこの場を離れる際に、クレオ君とパトラちゃんも一緒に連れて行ってしまい、またボッチになってしまった。正直もう少しあの2人のモフモフを堪能していたかった、、、。そんな孤独感をやはり見透かしていたのか、今度はアンジェリカさん達戦姫の3人がこちらに来た。しかも、何か冒険者を連れてきていた。
「アイスさん、いろいろとお疲れ様でした。お料理、とても美味しかったですわ。っと、今は紹介に伺ったのですわ。アイスさん、ご紹介します。こちらがタンヌ王国所属のSランク冒険者集団の『救済の風』のみなさんですわ。左から、リリーナ、ヒイロ、ゼクス、ノインですわ。詳しいことはご本人から言って頂きます。」
救済の風? 確か、中年冒険者のとき、ワンコの名前をつけた盗賊達を討伐したときに一緒だったチームだと思ったけど、その時はAランクだったよな? 後でマーブル達に確認しておきますか。って、ちょっと待て。その名前はアカンやつだろ? ひょっとして、他の仲間にW○ンダム関係の名前を持ったやついるのだろうか? まあ、それは追々聞けばいいだろう。
「アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん、グリフォン討伐お疲れ様でした。っと、君達は初顔合わせだね。私は、ここフロスト領の領主であるアイス・フロスト侯爵だ。まあ、侯爵とはいえ、人口100名ちょいの小さな町を治めているだけの存在だし、あまり堅苦しいのは好きではないから、気楽に話して欲しい。」
「お初にお目にかかります。私はゼクスと申します。救済の風のリーダーを務めております。聖騎士の職で前衛を務めております。」
「私はノインと申します。職は魔術師を務めております。」
「僕はヒイロ。偵察や情報収集などのスカウト職を務めています。」
「リリーナでーす。神官職で、回復役を務めてまーす。」
ありゃ、ヒイロは無口ではないのか。で、リリーナは軽い口調だな。あれとは異なるキャラでホッとした。
「自己紹介ありがとう。私はあまり自分のことを話すのは好きではないから、詳しいことはフロスト領のギルド員とか、戦姫のみんなから聞いて欲しい。ところで、嫌な時期に、ここに来ちゃったね。折角来てくれたのに申し訳ない。それで、何故フロスト領に? ここって特にこれといった魅力的なものはないはずだけど。」
「い、いえ。戦姫の3人が、所属をここフロストの町に変更したことを聞いたので、フロストの町がどのような場所なのか気になりまして。」
「なるほど。何も無くてがっかりしたでしょ?」
「いえ、とんでもない!! 町こそ小規模ではありますが、食事や酒は美味いし、宿泊施設もかなり居心地がいいですし、何より、ほぼ全ての建物が魔樹製って!?」
「まあ、それは森にあるのが実は木じゃなくて、魔樹だっただけなんだけどね、、、。」
「それも驚いたのですが、一番驚いたのは、ラビット系の魔物がなぜ普通にここで暮らしているんですか? しかも、一番弱いとされているファーラビットですら、先程グリフォンを倒せる強さまであるし。」
「ああ、ウサギ達? 可愛いでしょ?」
「確かに、魔物として考えなければ可愛らしいですね。それと、あのニワトリみたいな生き物は何て種類ですか?」
「ああ、あの子達? あの子達はコカトリスだよ。あれだけ白いのはピュア種だからなんだって。」
「「「「コ、コカトリス!?」」」」
「あの子達も可愛いでしょ? しかも毎朝卵くれるから、非常に助かってるよ。」
救済の風の4人は無言になってしまった。可愛いのにな、、、。
「アンジェリカ様が仰っていた通りだったか、、、。この人メチャクチャだな、、、。」
失礼な。メチャクチャな人物は私ではない、あの人だ。あ、噂をすれば。
「おう、侯爵! 今日のメシも美味かったぜ!! 600年前に食べた時のやつを思い出したけど、あれよりも何倍も美味かったぜ、いや、あれと比べるのは失礼だな、ガッハッハッ!! お、お前ら初めて見るな。フロスト侯爵、そこにいる4人は一体誰なんだ?」
「あ、陛下。私もさっき初顔合わせだったんですが、彼らは『救済の風』というチームの冒険者です。タンヌ王国に所属しているランクSのパーティですね。」
「おう、そうか。じゃあ、自己紹介するぜ、俺はトリトン帝国皇帝、ハイドゥヒドゥ・ヒドゥン・トリトンだ。」
救済の風の4人は先程以上に固まってしまった。
「おろ? 侯爵、こいつらどうしちまったんだ?」
「そりゃ、この国の皇帝がこんなところにいるなんて思いもしないでしょうからねぇ。」
「それもそうだな、まあ、ここにいりゃ、そのうち慣れるんじゃねぇか?」
「・・・ソウデスネ。」
今後も通う気満々のトリトン陛下に対して、今度は私が言葉を失ってしまった、、、。
ゼクス「何でSランクの俺たちより、この町の住人達の方がグリフォン倒せているんだ!?」
アンジェリカ「ここの領民の皆さんは強いですから。」
ゼクス「いや、強いってレベルじゃねえぞ!?」
アンジェリカ「まあ、そのうち慣れますわ。」
救済の風「「「「・・・・。」」」」